「とまぁ、ムウさんとの出会いはこんな感じだよ」

ニコルが入れてくれた紅茶がすっかり冷めてしまったころ、キラはようやくフラガと自分が出会ったころのことについてを語ることができた。

なるべく平然を装って話していたキラだが、この思い出はキラの中では深い悲しみと自責の念が強かった。

自分がフラガを傷つけてしまった。

そのことが、どうしても心の中で燻ってしまう。

そんなキラの心を理解できないアスランたちではなく、思いの他表情は硬い。

「その・・・、あいつの怪我ってそんなにひどかったのか?」

「ディアッカっ!」

突拍子もない質問に、アスランは咎めようとしたが、キラは首を振ってそれを制した。

「うん、出血もすごかったし、ナイフが体内に深々と刺さったみたいになったから・・・・。多分、今でも傷残ってるはずだよ」

それもまた、推測でしかないが。

フラガはあれ以来、キラに背中の傷を見せようとはしなかった。

キラのことを思いやってのことだろうが、キラにはそれが逆につらく映った。

「そのキラを襲ったナチュラルは、どうなったんだ?」

「捕獲された後、軍籍剥奪の上に追放されたんだったと思う」

「キラを襲うようなことをしたのに、それだけ!?」

アスランとしては、キラの命を狙ったこと自体が大罪に思える。

剥奪の上追放だなんて、考えようによっては一番甘い処分である。

それがザフトであるならば、追放どころか罪人としてずっとザフトに仕えることとなるだろう。

その罪が許されるまで。

「本当は・・さ。その人たち4人ぐらいだったんだけど、すぐに処刑にするって話があって・・・。でも、僕がそれはやめてって反対したんだ」

「なぜですか?キラさんを襲った張本人たちじゃないですか」

「わかってる・・・。それはわかってるんだけど、これ以上、僕のせいで人が死んだりするのは絶対に嫌だったから・・・。だから、わがままを聞いてもらったんだ」

その兵士達にとっては、非常に都合のいいわがままだろう。

と、アスランたちは思った。

命を失うか、あるいはそれ以上の償いをしなければならないのを、救われたのだから。

 

 

 

なんとなく、重い雰囲気が流れる部屋の中に、いきなりフラガの声が響きわたった。

『お〜い、キラぁ?いるか〜?』

「ムウさん?」

キラはディスプレイの前に立つと通信ボタンをオンにした。

『おお、そこにいたのか』

「ムウさん、どうしたの?」

『暇なら格納庫でメビウスのプログラム見てくれ。さすがのザフトでもこれを見るのは一苦労らしい』

「ああ、かなり派手に壊れていたもんね」

『キラの後ろのやつらのおかげでな』

そう振られて、アスランたちは少し居心地が悪い思いがする。

あの時は敵軍のパイロット、しかもあの名高い「エンディミオンの鷹」だったのだから、仕方ないではないか。

キラの大切な人であったと知っていたならば、あそこまでひどい攻撃を仕掛けることはなかった・・・かもしれない。

 

大切な人・・・・なんだろうな、キラにとっては。

 

先ほどの話を聞いて、キラにとってフラガがどれだけ大切な人なのかということが嫌というほど分かった。

キラに惚れている立場のものとなってはおもしろくないのもあるが、それでも二人の中に割り込む隙があるとは思えなかった。

「うん、分かった。それじゃ、今からそっち行くね」

あれこれと考え事をしていたうちにフラガとの通信を終えたキラは立ち上がった。

「キラ、どこへ?」

「どこって・・。ムウさんが格納庫に来てくれって今いってたじゃない。メビウスのプログラムはなかなか複雑だからさ」

「「「「俺(僕)も行く(行きます)!」」」」

「べ、別にいいけど・・・」

いきなりそんなことを言い出したアスランたちに気圧されながらも、キラは部屋から出て格納庫へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「キラ、こっちだ」

「お待たせムウさん」

キラが格納庫に入ってフラガの姿を探すと、メビウスの機体の陰に隠れていたフラガが大きく手を振った。

フラガはメビウスの機体の側に数名の整備士と共にメビウスの修理に当たっていた。

地球軍兵士だという認識しかなかったはずのフラガだが、たった数時間の間に何人ものザフト兵と打ち解けてしまっているようだ。

「どのくらい進んだ?」

「とりあえずは外部破損のところから直してる。見た目ほど外傷が大きくはないからな」

「攻撃してきたアスランたちの腕がいいのか」

「ば〜か。その攻撃をよけた俺の腕がいいんだよ」

といって笑いながらキラの頭を小突く。

それをうまくすり抜けて、キラはメビウスのプログラムを操作するためにコックピットへと上る。

「なんだ、お前達も来ていたのか」

フラガは後ろのほうで控えていたアスランたちに目をとめ、近くへと歩み寄る。

持っていたメビウスのデータ等の資料を近くの兵士に預けると、少し離れたところにいるアスランたちへと歩み寄った。

「よぉ。キラ少しの間借りるぜ」

「それはまぁ、かまいませんが」

「そうか?お前らのことだから、『地球軍兵だったやつの機体なんか、キラが触れる価値はない!』とか言い出すと思ってたんだがな」

フラガの言うことも、あながち間違ってはいない。

事実、キラのあの話を聞くことがなかったならば、おそらくは四人とも反対していただろうから。

「大人しくみているところをみると、キラからいろいろ話聞いたみたいだな」

「まぁ・・・」

「どこまで聞いたんだ?」

「あなたがキラさんをかばって怪我をしたところまで・・・です」

「ああ、そこまでしか聞いてないのか」

ふ〜ん、と関心するかのように言った。

フラガの反応から見て、自分達がまだ知らないことをフラガは知っているということだろうか。

「あんたはまだ、何か知ってるのか?」

「まぁ、一応地球軍にいたころのキラを一番知ってるのは俺だしな。でも、キラが話さないことを俺が話すわけにもいかんだろう」

「確かに、それはそうですが・・・」

「ま、気長に聞き出してみるんだな。・・・・そうだな、場合によってはお前とお前」

フラガはアスランとイザークをそれぞれ指差した。

「お前らの親とキラが出会ったきっかけが何なのか、聞き出すことができるかもしれないぜ」

「父上と?」

「母上がキラに会ったきっかけ?」

キラがこの船に来たばかりのころ、アスランとイザークの親であるパトリックとエザリアとの通信の際の親しげな様子といい、確かにキラとは何か縁があるようだ。

「失礼します」

アスランたちと話していると、後ろから一人の兵士が声を掛けてきた。

「なんだ?」

「ヤマトさまがお呼びですが」

「キラが?」

フラガが振り向くと、メビウスのコックピットから顔を出したキラがこちらに向かって手を振っていた。

それを軽く振り返してから、フラガは再びアスラン達の方を振り返った。

「真実を突き止めるかどうかはお前らが勝手に判断すればいい。多分キラは包み隠さず正直にすべてを話してくれるはずだしな。だが、話を聞く以上は、お前達もすべてを受け止めるくらいの覚悟を決めろよ」

それだけいうと、フラガは再びメビウスに戻るために床をけった。

取り残されたアスランたちは、少々複雑そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

〜あとがき〜

女神2.とりあえずはこれにて完結です・・・。

なにやらお叱りを受けそうなぐらい中途半端に終わってしまっていますが、この辺で話をきらないとずるずるといってしまいそうで・・・・。

でもまだ話は続きます。

とりあえずはもう開き直って女神4ぐらいまで続けるつもりですからv

内容的に女神3がエザリアとパトリックがキラと出会ってその後、評議会入りするまでのお話。

女神4が地球軍との混戦になると思います。(ただあくまで予定なんですが)

ずいぶん長い話になるとは思いますが、お付き合いしていただければうれしいです。

とりあえずは少々女神はお休みし、いただいているリクエストや他の連載の方を進めたいと思っています。

 

ここまで読んでいただいてありがとうございました。