フラガがキラの側にいるようになって、早1週間がたとうとしていた。

最初は四六時中そばにいるフラガがいやで何かと反発を繰り返していたのだが、今ではそんなことをしても無駄だと悟ったように平然とフラガが横にいることを黙認している。

この1週間で分かったことは、このフラガ大尉という人物はかなり優秀かつ有名な人物らしい。

なんでも、エンディミオンの鷹と呼ばれるパイロットで、その名はザフト軍からも恐れられているとか。

最初は信じられなかったが、あれだけ仕事をサボりながらも罰も解雇もないところを見ると事実と受け止めるしかないようだ。

「フラガ大尉、コーヒー入れましたけど飲みます?」

「お、悪いね嬢ちゃん」

「・・・・キラですよ」

無駄だと分かっていても、つい訂正をしてしまう。

本人は気にするなというが、名前ぐらいきちんと呼んでくれてもいいような気がする。

そう思いながら、フラガのそばにあるサイドテーブルにコーヒーを置く。

いやでも覚えてしまった、ミルク、砂糖なしのブラックコーヒー。

なんとなくだが、キラはフラガを今までの人たちとは違う風に思うことがある。

なぜ?

彼はナチュラルで、地球連合軍の大尉。

今までキラの回りは地球軍の兵士でいっぱいで、たくさんの兵士が常に側にいた。

なのに、この人が側にいると息苦しくない。

それよりも、側にいてくれることがほっとすることだってある。

もうナチュラルともコーディネーターとも関わるべきではないと決めたキラの心を溶かす。

 

 

 

そんな時、事件は起こった。

 

 

 

 

「フラガ大尉、呼ばれてますよ」

「ああ?」

いつもように東屋でキラは本を読み、フラガは日当たりのいい場所で昼寝。

いつのまにか決まったようになっていたこの習慣。二人が一緒にいる違和感なんて、とっくの昔になくなっていた。

むしろ、一緒にいることが自然だった。

「なんだってんだ?」

「わかりませんが。ほら、むこうで呼んでますよ?」

そこでようやく体を起こした彼が見たのは、遠くから大きく手を振ってフラガの名を呼ぶ兵士の姿。

軍服から言って一般兵のようだが、あんなところから何をしているのだろうか。

「何か用があれば向こうからくるだろう、ほっとけよ」

「でもほら、なんだか急ぎのようですよ」

あきらめる様子のない兵士の姿をキラが指差す。

「僕ならしばらくは平気です。フラガ大尉が戻ってくるまでここにいますから行って来てください」

「だけどなぁ・・・」

「大丈夫ですよ」

「・・・じゃ、しかたないから行って来るわ。ちゃんとここにいるんだぞ、危ないから」

「はい」

ゆっくりと体を起こしてめんどくさそうに歩いていくフラガの姿を見ながら、キラはくすくすと笑う。

あの様子からいくと、フラガが戻ってくるのは早くても1時間程度かかるかな。

そう思いながら、キラは視線を本へと戻した。

「キラ・ヤマトだな」

「え?」

急に視界が暗くなったかと思うと、キラの周りを何人かの兵士が取り囲んでいた。

「何か?」

「一緒に来てもらおうか」

「駄目です」

「何?」

「私はフラガ大尉にここにいると約束しました。ですから、ここを離れるわけにはいきません。どこかに行くというのならば、フラガ大尉がここに戻ってからにしていただけますか?」

「生意気を言うんじゃない!ならば、この場でいい!」

「きゃっ」

正面にいた兵士がキラの本を手荒く払ったかと思うと、キラの襟首をつかみ壁へとたたきつけた。

「・・・ぐっ・・・・・」

衝撃で息が詰まる。

徐々に力を込められて持ち上げられ、キラの足は地から徐々に離れていく。

その手を離そうと力を込めるが、キラの力では男の腕力に勝てるはずはなかった。

「なに・・・・を・・・・・・」

「コーディネーターがなぜこの軍基地にいる。どうして貴様などがここにいることを許される!」

「そんな・・・の・・・、しらな・・・・」

「コーディネーターのような宇宙の化け物、この世からいなくなればいいんだ!そして、貴様もそれは同じだ!」

鋭いナイフが振り上げられる。

ああ、ここでしんじゃうのかな・・・。

そう感じ、キラはそっと瞳を閉じた。

死を目前にしているにしては、あまりにも平穏な気持ちでいっぱいだった。

それほど、キラは生きることに疲れていたのかもしれない。

だがその衝撃はキラを襲うことはなかった。

「ぐぁっ!」

いきなり手を離されて、急に入り込んできた空気に激しく咳き込む。

「大丈夫か?キラ」

「・・・・・・フラガ・・・・・大尉」

顔を上げて、そこにいた人物に目を見開く。

どうしてフラガがここにいるのだろうか。

「なぜ、ここに・・・・」

「俺を呼び出したやつの様子がどうもおかしかったんでな。急遽戻ってきてみたら案の定だ」

キラの手を引いて立ち上がらせる。

座り込んでしまったときに汚れてしまった服をぽんぽんとはたいてくれた。

そんなフラガの肩ごしに後ろを見れば、先ほど自分を取り囲んでいた兵士達が皆苦しそうに地面に倒れている。

「これ、フラガ大尉が?」

「まぁな。とにかく、ここを出るぞ。こいつらは警備兵が連行する」

そういって、フラガに肩を支えられて東屋を出る。

今頃殺されそうになった恐怖心が心に流れ込んできたように、キラの体は小刻みに震えていた。

フラガも、そんなキラを気遣って歩行を手助けするように腕を回す。

だからか、倒れている一人がもう一本隠し持っていたナイフを取り出すことに気づかなかった。

「死ね!コーディネーター!!」

「!っ・・・・・」

 

 

 

「フラガ大尉!!!」