フラガがクルーゼにつれられて医務室を出るのと同時に、怪我をした兵士達が次々と運びこまれてきた。

このままここにいるわけにもいかないと思った5人は、とりあえずは自室があるプライベートエリアへと戻ることにした。

先ほどまであれほど落ち込んでいたキラだったが、今その表情は明るい。

フラガが無事で、すでに動き回れるほど回復しているのでそれがよほどうれしいらしい。

「キラさん、聞いてもいいですか?」

「ん?何ニコル」

「あのフラガという人とキラさんは、どういった関係なのですか?」

たずねたくて、たずねられなかったこと。

キラは地球連合に親を殺され、自由を奪われ・・・。

言ってみれば誰よりも憎んでいる相手なのではないのだろうか。

それなのに、なぜ?

「ムウさんは、僕の保護者・・・かな?」

「「「「保護者?」」」」

「そう」

キラが手近ないすに腰掛けると、アスランたちもそれに習うように周りへと座った。

何から話せばいいのか・・。

キラにとって、ムウとの出会いから話すにはとても多くの時間を必要とするような気がした。

それほど、彼との間には簡単には説明できないものが存在する。

「それでも、いい?」

「かまわないよ。すべてを知らないと、気になってしかたない」

「俺も」

「僕もです」

「幸い、先ほどの戦闘で連合はかなりの痛手を負っているはずだ。そうそう次の攻撃などは仕掛けられまい。時間はたっぷりとある」

「わかった・・。僕とムウさんが初めてあったのは・・・・」

キラはゆっくりと話始めた。

誰にも話したことのない、地球連合軍に監禁されていたときの話を。

 

 

 

 

 

フラガとキラが初めてあったのは、ザフトによってキラの救出作戦が行われ、失敗した数日後だった。

目の前で両親やザフト兵が殺されたキラは、心身ともつかれきっていた。

考えて、考え抜いた。

こんな犠牲をだすほどに、自分には価値があるのだろうかと。

たくさんの人間が自分を助け出すために血を流し、命を失った。

その中にはかけがえのないはずの両親もいて。

自分がいなければ、みんな今頃幸せに暮らしていたはずなのに。

「なんで、僕はここにいるんだろう・・・・」

「いるからいるんじゃねぇの?」

突然の返答に、キラははっとして周りを見回した。

だが、

「誰もいない?」

辺りには見張りの兵士以外、だれも見当たらなかった。

キラはこの地球連合軍本部の中ならば、ある程度の行動は許されていた。

あくまで、監視つき、見張りつきの上で、だが。

今だって、基地内にわずかばかりある自然公園の中の東屋にいるのだから。

そこにだって監視カメラはあるし、見張りの人間だって東西南北、一人ずつ存在する。

「お〜い、ここだって、ここ」

「え?」

声がしたのは、東屋の窓のすぐ下。

そこには、一人の兵士が東屋によしかかるようにして座っていた。

「な、何をしているんですか、あなたは」

「ん?何って仕事(訓練)サボって昼寝。だって、こんなに天気いいんだぜ?んな面倒なことなことしてられるかよ」

「だからって、何もここにいなくても。知らないんですか?僕への接触はたとえ連合の人間であっても許可がいるんですよ?」

「何言ってんだ。俺はずっとここにいるんだぜ?後から来たのはそっちだろうが」

よっ、と声を出しながらその男は解放されている窓から身軽にひらりと東屋の中へと入ってきた。

反射的に、キラは身を引く。

「んで、なんだってお前はそんなに落ち込んでんだ?」

にやにやと面白そうに問う男に、キラはむっとして顔を背けた。

「あなたにそんなことは関係ありません。お昼寝の邪魔して申し訳ありませんでした」

それだけいうと、キラはすっと立ち上がって東屋を出た。

「俺は昼寝するときは大概ここだからな〜。なんかあったらまた来いよ」

「来ません!」

これ以上からかわれるのはいやだと、キラは足早にその東屋を後にした。

それにともない、見張りの兵士が各持ち場から動き出す。いつも気になってしょうがないそれは、今日はまったく気にならなかった。

いや、気にすることができなかったというべきか。いきなり現れたあの男の調子に乗せられて感情が高ぶっていた。

今まで、こんなことはなかったのに。

「・・・なんか、変な感じ」

 

 

 

次の日、キラはいつもどおり気分転換と称した散歩に出かけた。

コースもいつも大体決まっていて、自然公園の中を回って最後にあの東屋へと寄り時間が過ぎるのを待つ。

あの男が昨日いたからといって、今日もいるとは限らない。

かりにも、兵士だ。

訓練をそうそうサボれるわけでもあるまいし。

東屋へとついたキラは、それでも昨日あの男がいた窓の下を覗き込んだ。

やはり、いない。

ほっとしたのと同時に、残念に思っている自分がいた。

こんな考えはおかしい。

もう、自分はここに一人だけ。味方してくれるものなどは、誰もいない。

そう、わかっているのに。

キラは頭を振って考えていることを振り払うと、持ってきた本を広げてしおりをはさんでおいた部分から読み出した。

何度も何度も繰り返し読んだ本。

内容もほとんど頭の中に入ってしまっている。

だけど、それでも手放すことができないのは、これが父の愛書だったからかもしれない。

さびしいときやつらいとき、これを手にするのがもう癖のようになってしまっていた。

「難しそうな本読んでんだな」

「!?」

はっと振り返ったそこには、いないと確認したばかりの昨日の男が、またもや窓の外から中に身を乗り出していた。

とっさに立ち上がろうとしたのだが、その拍子に手に持っていた本をとられてしまった。

「っ、返して!」

「いいじゃねぇかちょっとぐらい。・・・へぇ、こんな本読んでんだな」

字ばっかりじゃないか・・・とぶつぶつ文句を言いながらぱらぱらとページをめくっていく。

キラが必死に取り戻そうと手を伸ばしても、リーチを利用した相手にまだ子供のキラが適うはずがなかった。

「お願いだから、返してください!」

その今にも泣き出しそうな必死の声に、その男はようやくキラを見た。

うつむいて、両手をぎゅっと握り締めて。

さすがにやりすぎたと思ったのか、東屋の中に入ってきてどうキラに対処しようかと考えていると。

「ヤマト様なにかありました・・・フラガ大尉!?」

「よぉ」

東屋の様子に気づいて、兵士の一人が様子を見に来たらしい。

「フラガ大尉、一体こんなところで何をしていらっしゃるのですか?」

「いや・・そのなぁ・・・・」

サボっていることがバレたフラガと呼ばれたその男が言い訳を考えるように頭をかく。

その隙を狙って、キラは本を取り戻すとそのまま東屋を飛び出した。

「あ、お待ちください、ヤマト様!」

いきなり走り出したキラの後を、その兵士が追う。

フラガはただ、呆然とキラの走り去った方を見ていることしかできなかった。

「さすがに、やばかったか・・・・」

子供相手にやりすぎた・・・。

反省しても、もう遅い。

キラの姿はすでに遠く、目では確認できなかった。