「キラさん、戻ってきませんね」 「ああ」 キラが出て行ってから、はや1時間がたとうとしていた。 が、キラが戻ってくる様子はなく、次第に部屋の中の空気も重くなってきていた。 特にアスランとイザークは傍目から見ていてもイライラしているのがよくわかる。 そんなときは触れない、話さないが一番いいとわかっているニコルとディアッカなので、当たり障りのない話を二人でしていたのだが、あまりにも戻りが遅い。
少し、心配になってきた。 何か起きていなければいいが・・・・。
「キラ、あの連合パイロットの所にいるんだよな」 「隊長に所在を聞いてから出て行ったんだから、そうなんだろう」 必死で自分を落ち着かせようとしているが、なかなかそうできるものではない。 自分を取り繕う為か手元に本などを開いているが、そのページも少しも進んではいないようだ。 だが、それは外の人も同じ。 それぞれが何かをしようとして何もせずにただ時間をすごしている。 「キラさん、無事ですよね?」 ポツリとつぶやかれたニコルの言葉に、3人ははっと顔を上げた。 「どういう意味だ?」 「いえ、軍医が今格納庫にいるはずですから、今あの人とキラさん二人きりなはず・・・」 最後まで聞くまでもなく、アスランとイザークは部屋を飛び出していった。 「僕、何か悪いこといいました?」 「あ〜・・・、もうちょい考えた方がよかったな・・・」 できることならば、ほうっておきたい。 だがそうなるとこのままでは二人が何をしでかすのかわかったものではない。 とにかく、ディアッカとニコルもあの二人の後を追うべく部屋から出て行った。
一方、急いで医務室に向かっていたイザークとアスランは恐るべきスピードで医務室へと走っていた。 途中会う兵士達が敬礼を取っているのも無視して、ただ走る。 医務室の前に到着して中の気配に注意してみると、確かに医務室内には二人分の気配しかない。 イザークとアスランは互いにうなづきあうと、医務室のドアを開いた。 そして飛び込んできた光景は・・・・
「っ!?」
キラがフラガの上に倒れていたのである。 「きさま、キラに何を・・・!?」 「静かにしろ。やっと眠ったところなんだからよ」 「・・・・・・は?」 そういわれてみると、キラは倒れているのではなくて眠っているだけのようだった。 小さく規則正しい寝息が聞こえてくる。 そのうち片手はぎゅっとフラガの手を握っている。 「悪いけど、そこら辺の毛布くれる?」 「あ、ああ」 アスランから受け取ったフラガはそれでキラの体を包み込むようにかけると、そのまま抱きかかえて自分の横のスペースに寝かせる。 小さく身動きはしたものの、目覚める気配はない。 アスランたちはというと、あまりにほのぼのとした様子に拍子抜けしてしまった。 「で、お前らはなんの用だ?」 「キラの帰りが遅いから・・・」 「心配になったってわけか」 「・・・・まぁ・・・」 ちょうど追いついてきたニコルとディアッカも、医務室内に入ってきた。 「なんだ、てっきりつかみ合いにでもなっているのかと思ったけど」 「そうでもなかったようですね」 その二人の言葉に、アスランとイザークは苦虫をつぶしたような表情だ。 事実、この部屋の中に入るまでアスランとイザークはそうするつもりで走ってきたのだから。 拗ねた様子を見せるアスランたちに苦笑しながら、フラガは改めてアスランたちを見つめた。 この4人が、ザフト軍のエリートであるクルーゼ隊のパイロット達。 なかなかの戦闘能力を持っている。 噂では聞いていたが、あのクルーゼが鍛えただけのことはあって戦闘能力は高く、無駄な動きが少ない。 「よければ自己紹介なんかしてくれるとありがたいんだがね」 「人に名前を聞くときは、自分から名乗ったら?」 「んなこと言っても、お前らもう俺の名前やらなんやら全部知ってるんだろ?なのに、俺だけ何も知らないのは不公平じゃねぇ?」 どうよ? とばかりに言ってくるフラガにとっさに反論できなかった。 確かにフラガの言うことも一理ある。 フラガが捕虜だというのならそれほど考える必要もないのだが、キラがあまりにもよくなついている様子だし、クルーゼも何も言ってはいない。 「まぁ、そういうことでしたら。ニコル・アマルフィ、ブリッツのパイロットです」 「ディアッカ・エルスマン、バスターのパイロット」 「イザーク・ジュール、デュエルのパイロットだ」 「お、お前ら全員議員の子息なのか?」 さすがのフラガも度肝を抜かれたように驚いて三人を見回す。 「そんなことは別に関係はない。親は親、俺達は俺達だ」 「ま、そりゃそうだよな。実力がなけりゃ、こんなとこにいないし。で、そこのお前さんは?」 フラガは最後に、一番後ろで扉に寄りかかるようにしてフラガをにらんでいたアスランに向き直った。 「アスラン・ザラ、イージスのパイロットだ」 「アスラン・ザラ?ってもしかしたらあのアスランか?」 「知っているんですか?」 「まぁな」 ニコルにそう返事をしただけで、フラガはじっとアスランを見た。 別ににらんでいるわけではないのだが、その視線はどこかアスランを観察しているように感じる。 「何か?」 「いや、お前さんがあの噂のアスランなんだなと思ってな」 「噂?」 詳しい話を聞こうとしたのだが、ちょうどクルーゼが入ってきたのでそれ以上は話せなかった。
「もう大丈夫のようだな」 「おかげさんで」 フラガはキラを起こさないようにベッドから降りる。 「で、俺の服は?」 今来ている服は治療の際着せられた患者服。 クルーゼは側にかけられていたザフトの上官服を指差した。 「おいおい、いまさらこれを着ろってか?」 「もともとがお前の服だ。かまわないだろう」 「ったく、とっくに捨ててあると思ってたのによ〜」 堅苦しくていやなんだよな〜。 などとぶつぶつ文句を言いながらそれに着替え始めた。 「隊長!」 「なんだね、アスラン」 「なぜこのようなナチュラルにこの服を与えるのですか!?」 「私も同感です。ザフトには捕虜用の衣類もあるはずですが」 「別に特別に用意したわけではない。もともとが彼の物だっただけだ」 「え?」 意味がわからない。 なぜザフトの軍服がこのナチュラルのものなのか。 しかも、これは隊長・副隊長クラスの軍人に与えられるもの。 アスラン達の赤服同様、選ばれたものにしか着る権利などないものだ。 「お前ね、いきなりそんなこと言ったってわかるわけないだろうが」 着替えを終えたフラガを見ると、腕まくりはしているし、襟もきちんととめていない。 だが不思議と違和感がない。雰囲気というかなんというのかわからないが・・・・、確かに、似合っている。 地球軍の軍服を着ているところを見たことがないからだろうか。 いや、それ以前に、フラガには何かがありそうな感じだった。 「ん・・・・」 そのとき、ようやく眠っていたキラがあたりの喧騒に目を覚ましたらしい。 体を起こして目をこすっていると、その頭をフラガがかき回した。 「よう、おはよう」 「おはよ・・・ございます。あれ・・・・ムウさん、ザフトの制服もらったんですね・・・」 まだ完全に目が覚めていないようで、目をこすりながらぼんやりとフラガを見る。 「そういえば、お前見てみたいって言ってたもんな。どうだ?」 「うん、似合ってますよ。連合の服もかっこよかったけど、そっちのほうがいい感じです」 「キラがそういうんなら、まぁ久しぶりに着ていてもいいかな」 などとふざけ半分に言っているが、本人かなりの乗り気らしい。 キラも寝てすっきりしたようで、う〜んと伸びをしながらベッドから降りている。 多少目元が腫れているが、あの程度なら少しすれば腫れも引くだろう。 なににしろ、キラを泣き止ませたのがこのフラガだということがアスランたちには気に入らなかった。 「さて、もうよろしいかな?」 「何がだよ」 「君の身の振りについてだ。とりあえずはかつての位置にと上からの命だ」 「結局はお前のお守りか」 「逆だろう?いいからさっさと来い」 「へいへい。じゃ、キラまた後でな」 「はい。いってらっしゃい」 |