少々てこずりはしたものの、なんとか地球軍のMAを捕獲することに成功した。 ただ、その捕獲をしたイージスの機体の損傷は激しく、今にも爆破崩壊しそうなほど危険な状態にあった。 これではかなり修理に時間がかかるだろう。 プログラムにも異変をきたしているようで、キラのメンテナンスも必要だ。 「アスラン、無事ですか?」 「ああ。二コルも無事のようだな」 「なんとか」 二コルはアスランの横に降り立つと、少し離れたところにおかれている地球軍のMA、メビウス・ゼロを見た。 まだコックピットを開くことができないらしく、整備士を始め多くの作業員がその周りに集まっている。 出てきたとき抵抗されることも考慮され、銃を構えている兵士の姿も見受けられる。 「何か動きはあったか?」 「イザーク。いえ、まだコックピットさえも開けていないようで」 「まったく、ナチュラルごときに何を手間取っている」 いらいらとつぶやくと、イザークは腕を組みMAをにらみつけるように見据えた。 「で、あれとキラとの関係はわかったのか?」 「いや、まだだ」 「詳しいことはキラに聞かなきゃわかんないってわけね」 ふざけたような口調で言っているが、その目は真剣だった。 キラがなぜあのナチュラルをかばうような言動をしたのか、それを知る必要がある。 ましてや、最終的な指示を出したのはあのクルーゼでもある。 と、そのとき・・・・ 「離して!」 後ろから聞こえてきた声にアスランたちは振り向いた。 そこにいたのは兵士の腕を振り解こうとしているキラだった。 「どうしたんだ?」 あわててそばに寄ると、その兵士があわてた様子でキラの腕を離した。 その隙を見逃すことなく、キラは走り出す。 「ちょ、キラ!?」 静止の声を気にすることなく、キラはMAに近づく。 「中の様子はどうなんですか!?」 下からいきなり聞こえてきた声に、作業員たちはぎょっとしたが、キラの姿を確認するとすぐに返答を返した。 「それが、どうやらロックがされているみたいで」 「代わってください、僕がやります」 作業員と入れ替わりMAのコックピット上に乗りあがると、途端キラの表情が一変した。 「すぐに医療班を準備してください!」 「え?」 「早く!」 「は、はい!」 一人が駆けていったことを確認すると、キラはコックピット脇のディスプレイににさっと目を通しただけで何かを打ち込む。 すると、今まで何の反応もなかったにもかかわらずそれだけでコックピットの扉がゆっくりと開いた。 「ムウさん!」 「・・・・・よう、嬢ちゃん・・・・・、無事だった、な・・・・」 中にいた人物、ムウ・ラ・フラガは、苦しそうに顔をしかめながらもキラに笑いかけた。 その表情に自然と涙が溢れてくる。 「泣くなって・・・・」 「だって、そんな怪我・・・・」 「心配すんな」 「ムウさん?」 目を閉じて動かなくなってしまったフラガを見て、キラの息が詰まる。 「まて、キラ!」 フラガを揺さぶろうとするキラの腕を、いつのまにか近づいてきていたイザークがつかむ。 「気絶しただけだ、少し落ち着け」 「で、でもこんなに血が・・・」 「内部破損で怪我をしたんでしょう。さぁ、ここは医療班に任せましょう。僕らがいては邪魔になるだけです」 にこるに促されるように後ろに下がると、ちょうど到着してきた医療班に後を任せた。 とにかく今はキラのことを落ち着かせようと、アスラン達はキラを連れて自室へと移動することにした。
「ムウさん、大丈夫かな・・・」 「うちの医療班の腕を信じろ」 「うん」 信じていないわけではない。 だけど、それでも不安から溢れてくる涙は止まることはなかった。 「だから、泣くなって。な?」 「ん・・・・・」 頭を撫でてくれるディアッカの胸にもたれかかる。 ディアッカもそれを嫌がることもなく、慰めるように背中を撫でた。 と、そのとき扉がノックされクルーゼが部屋へと入ってきた。 アスランたちは立ち上がって敬礼をするが、それを片手で制するとキラに近づいた。 「クルーゼ隊長、ムウさんは?」 「大丈夫、多少出血がひどいようだが、命に別状はないそうだ」 「よ、よかった・・・・・」 「もうすぐ目覚めるだろう。今は医務室だ」 「はい」 キラはすぐ部屋を後にして駆けていってしまった。 残された者たちは複雑な表情だ。なぜ、キラはあの連合パイロットをあそこまで心配するのだろうか。 今まで何があっても冷静を保っていたキラ。 「隊長、あのパイロットとキラ、どういった関係なのですか?」 「気になるのかね?」 「そういうわけでは・・・・」 非常に気になるところではあるが、はたしてクルーゼが素直に教えてくれるのだろうか。 「私に聞くより本人に聞きたまえ。情報収集は正確性が一番だよ」 やっぱり・・・・ 落胆するアスランたちを尻目に、クルーゼは部屋を出て行った。
キラが医務室の中に入ると、中には人の気配はまったくなく、しんと静まりかえっていた。 ドクター達は皆、格納庫の負傷パイロットの手当てに行ってしまっているのだろうか。 中にひとつだけ、カーテンの閉ざされているベッドがあった。 おそるおそる開ければ、そこには死んだように眠るフラガの姿があった。 その頬にそっと手を伸ばす。 「暖かい・・・」 確かなぬくもりが、フラガが生きているということを教えてくれる。 包帯が痛々しいが、ここに生きてくれているのだ。 「ふ・・・・うぇ・・・・・・」 怖かった。 また、大切な人が目の前で消えていくのかと思ったら、震えが止まらなかった。 アスランたちもフラガも、大切な人に変わりはない。 だからこそ、その双方が争い傷つけあう姿を見るのが、なによりもつらかった。 「・・・・・ん・・・・・・」 はっとしたように顔を上げると、ゆっくりとフラガの目が開かれた。 「ムウ・・・さん?」 「・・・よぉ・・・・・」 弱々しくではあるが、フラガはキラに笑いかける。 「また、泣いてるのか?」 「ムウさんが泣かせてるくせに、自覚ないの?」 自分の頬に伸ばされた手を両手で包みながら、いつもと変わらないフラガに自然と笑みがこぼれる。 「女を泣かせるのは得意なんだよ」 「バカ」 たわいもない話がとてもうれしかった。 それが、彼がここにいることを教えてくれるなによりのものだったから。 「やっと笑ったな」 「え?」 「キラ、ずっと笑わなかっただろう」 なぁ? キラの頬に通る涙の後と赤く腫れてしまった目が、キラがあの格納庫で会った時以来ずっと泣いていたということを伝えてくれる。 そんなフラガに、キラの目には再び涙が浮かんできた。 「ムウさんがあんな無茶な真似するからじゃないか!心配ばっかりかけて・・・。もう、僕の目の前で大切な誰かが死ぬのなんて、みたくないのに・・・・」 「俺は死なないって。なんたって、不可能を可能にする男なんだからな」 「でもっ!」 「多少の無茶は当たり前だ、軍人だしな。でも、だからといって命を軽く思っているわけじゃない。少なくとも、俺のために泣いてくれるやつがいる限りは死なないし、死ねないよ。だからさ」 フラガに引き寄せられるままに、胸に顔をうずめる。 「だからキラは笑顔でいろよ。見ただけで疲れも痛みもふっとぶような笑顔でな」
今は泣いていいから。 そしたら今度は最高の笑顔を、見せてくれよな。
キラは何度も何度もうなづきながら、フラガにすがり付いて泣いた。 |