外が騒がしい。

当たり前だ、外は戦闘の真っ只中なのだから。

こんなとき、自分は何ができるのだろうか。

外にでて、戦闘に参加できるわけでもない。ただ怯えているだけの存在でしかない。

ただできるのは、みんなの無事を願うだけ。

 

 

 

 

その日、ヴェサリウスはゆっくりとプラントへと向かっていた。

途中補給などの関係で少々遠回りをしていたが、プラント本国まではあと1週間もあれば到着するという計算だとアスラン達は言う。

キラはこの艦に乗っている間、自分のできることすべてに目を配ってきた。

Gのプログラミングはもちろんのこと、ヴェサリウス本体のプログラムの補修、修繕。

また、この艦に乗っているジンやモビルアーマーなどの整備プログラムの手伝い。

今までとらわれの身だったとはいえ、キラのプログラミング能力は誰をも納得させるだけの力があり、そのキラに逆らおうとするものは一人としていなかった。

なにより、キラの側にはいつも『赤服』のエリート達が常に行動をともにしていたのだから。

 

 

そんな平穏な毎日を突き崩すように、大きなサイレンが艦の中に鳴り響いた。

「敵襲か!?」

「ブリッチ!」

急に揺れた艦であったが、普段から鍛えれているアスラン達は揺らぐ様子はない。

近くに備え付けられていた液晶モニターで、ブリッチに連絡を取る。

『射程距離内に地球軍の艦隊を発見。Gパイロットは各自、モビルスーツ内で待機せよ』

「「了解」」

キラと一緒に居たイザークとアスランは近くに居る整備兵にキラを部屋まで送るようにと指示を出した。

「いいかい、戦闘が無事に終わるまで部屋からでちゃだめだからね」

「キラのこと、頼むぞ」

そういい残して、アスランとイザークは去ってしまった。

「戦闘に、なるんですか?」

自分の身体を振動から支えてくれる兵士を見上げながら、心配そうな声を出す。

だが、その兵士にも情報はあまり伝えられていないらしく、言葉を濁してばかりで何も応えてはくれない。

「とりあえず自室へ。その後、私も持ち場に戻ります」

「はい・・・・」

キラは二人が去った廊下の先を見つめながら、その兵士に付き添われ自室へと戻って言った。

 

 

 

 

自室に戻ってしばらくすると、激しい爆音と振動がこのヴェサリウスを襲った。

どうやら砲撃を受けたらしいが、たいした外傷はないようで別段変わった様子はない。

とはいっても、それはこの部屋の中から見ることのできる様子なのだが。

この部屋に入ってすぐに、部屋の扉には鍵が掛けられてしまった。この部屋へ連れてきただけの一般兵には到底不可能だと思われるほど複雑なプログラムが仕組まれている。

おそらくは、クルーゼがキラが部屋に入ったことを確認して鍵を掛けたのだろう。

キラにしてみれば、解けないものではない。

だが、解く為には少々時間がかかる。

クルーゼが鍵を掛けたのも自分の身の安全のためだと分かっているから無為に鍵をこじ開けようとは思わないが、この部屋にはまったく窓もないため外の様子が分からない。

「そうだ、通信機」

キラは手近にあった通信気に手持ちのパソコンを繋げると、おもむろに操作し始めた。

この通信機ならば、ネットワークにつながっているからうまくいけば外の映像を映し出すことができるかもしれない。

そう考えたキラは、目にもとまらぬ速さで画面を操作していく。

いくつかのプロテクトを壊すことなく飛び越え、パスワード形式は素通りする。

「よし、できた!」

完成!とばかりに押したEnterキーを合図に、通信機に外の様子が映し出される。

そこにちょうど写しだされたのは、手に持った銃を破壊されて、その手も今にも壊れそうになっているイージスの姿だった。

「アスラン!?」

クルーゼ隊のエースを誇る彼にこれほどの損害を与えることのできるパイロットが、地球軍に居るのだろうか。

映像の角度を変えて見れば、デュエル、バスター、ブリッツの3機とともに敵機体を取り囲んでいる。

 

 

それは赤い・・・・・・・、見覚えのあるMA・・・・・。

まさか、あれは・・・・

 

 

「アスラン!イザーク!誰でもいい、返事して!!」

キラは無理やり通信回線に進入すると、アスラン達に必死の形相で呼びかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アスラン!イザーク!誰でもいい、返事して!!』

「「「「キラ(さん)?」」」」

戦闘中、いきなり聞こえてきた声に、アスラン達はぎょっとする。

それは、ヴェサリウスの自室に居るはずのキラの声だったから。キラの部屋からはこのMSに通じるような通信回線は接続していない。

「さては、また勝手に通信システムに侵入したな」

戦闘中だというにも関わらず、アスランは敵からの攻撃を器用に避けながらため息をついた。

訓練中、暇をもてあましたキラが通信してくる時はたまにあったが、今は訓練じゃない、戦闘だ。

こんなときに何を考えているのか。

「キラ、今は戦闘中なんだぞ。おとなしくして・・・」

『その、そのMA!』

「え?」

MSを4機同時に相手にして、まだ落ちない、ナチュラルとは思えないその戦闘能力。

これが、なんだというのだ?

『絶対に堕とさないで!』

「キラ、何を・・・・」

『お願い、堕とさないで!・・・・・・殺さないで!!』

キラの悲痛な叫びに、アスラン達は声を失った。

ヴェサリウスに来た時や自分たちに会ったときでさえ、あんなに堂々と冷静だったキラ。

なのに、今は見たこともないほど取り乱し、叫び、願っている。

あのMSを堕とすなと。

『キラの言うとおりだ』

「「「「隊長!?」」」」

『そのMA、堕とさずに捕獲せよ。・・・・・もしパイロットを殺せば、キラを泣かせることになるぞ』

「りょ、了解しました」

分けも分からぬまま、アスラン達は撃破目的だったMSを捕獲すべく、再び戦闘に集中した