『キヤト』に質問を提示してからさらに1日がたった。 そのころになって、4人はようやく一つのことに気づいた。 「どうして気づかなかったんだろうな」 「ああ。『キヤト』の挑戦状のせいでプログラムを作動させることができないが、プログラムを変えることはできるんだ」
きっかけは、ニコルの機体、ブリッツだった。 いつもどおり『キヤト』のプログラムの解析を行っていたニコルは、ふとブリッツのプログラムの方をのぞいた。 すると、今まで気づかなかったのだが、左腕の一部のプログラムが機体に負荷をかけていたことが分かった。 『キヤト』のプログラムのせいで動いてくれないのだが、ニコルは自分の感に頼って腕部のプログラムを修正した。 それを駄目元で作動させたところ、驚いたことに腕を動かすことができたのだ。 「ニコル、お前解けたのか!?」 「い、いえ。僕はただブリッツのプログラムを修正しただけなんです・・・」 ことのあらましを話すと、イザークたちはその画面を覗き込み考え込んでしまった。 ブリッツも完全にプログラムを解析できたわけではなく、腕の部分だけが動かせるようになっただけのようだ。 一部だけ。 それも、『キヤト』のことを考えず、ただブリッツのプログラムをいじっただけなのなら・・・。 「もしかしたら・・・・」 アスランはつぶやくと、何も言わずにすぐにイージスのところへ戻ってしまった。 「アスラン?」 不思議に思ったニコルたちは続けてイージスの元へと向かう。 アスランは『キヤト』からの挑戦状のプログラムではなく、イージスのプログラムのほうを操作し始めた。 アスランはレーザー部のプログラムを開くと、やっぱり、とつぶやいた。 「どうしたんだ?」 「いや、ちょっと見ていてくれ」 そういうと、アスランは一心不乱にキーボードに指を滑らせ、プログラムを変更していく。 修正が終わったところで作動させてみると、ニコルの時と同じく反応を返してきた(さすがに艦内でレーザーを出すわけにはいかなかったが) 「やっぱり、そうだったんだ」 「アスラン、どういうことか説明してください」 「一人で納得するなよな」 「俺達は『キヤト』の方に意識が向きすぎていたのかもしれない」 アスラン達は強制的に掛けられていたプログラムをただ解析しようとしていただけで、Gの機体そのもののプログラムの方をチェックしようとはしていなかった。 だが、『キヤト』は言っていた。 原点に戻れば解けるものだと。 Gをどれだけ知りうるか、大切な相棒として考え、邪険に扱って負担を掛けないで欲しいと。 つまりそれは、Gのプログラムの中にこそ解決の糸口があるということだったのではないだろうか。 「なるほど、それなら納得がいく。確かにこれは原点に戻らなければ解くことができないだろう」 「確かにバスターは俺の相棒だもんな。一緒に戦場を駆けるものだし」 「僕達は無意識に、Gに負担をかけていたということなのでしょうか」 「おそらくはそういうことになるんじゃないかな。負担をかけっぱなしでは、いつか自分が後悔することになるから。『キヤト』はそのことを俺達に教えるために、このプログラムをGに流したのだろう」
Gの基本設定から各部のプログラムまでを全てチェックして負担がかかっているところ、修繕したほうがいいところなどを徹底的に探し出す。 あれほど難関だったのに、4人は3時間強でGの自由を完全に戻すことができた。
「やっと終わったなぁ」 「ええ。さすがに今回は参りましたね」 「確かにな。でも、Gに負担をかけ続けていたことが分かったんだ。今回のことも無駄ではなかったさ」 「そうだな。さて、休憩も終わったことだし、そろそろ行こうか」 アスランの声掛けで、4人は休憩しつを後にした。 向かう先は、『キヤト』。 Gのプログラム解析をしていくにつれて、なぜだがわからないが『キヤト』の正体が分かった。 挑戦状の言葉の通り、プログラムを解くことができたら、自然と『キヤト』の正体にも気づくことができた。 それは、本当に自分達のすぐ側にいた人物だったのに。 部屋の前に着くと、アスランが代表してノックをする。 短い返事のあと、鍵が外され中へと招かれた。
「ありがとう、『キヤト』」 アスランが言うと、キラはにっこりと笑って4人に座るように促した。 「それじゃ、何から言おうか?」 「なぜこんなことをしたのか、答えてもらおう」 イザークが言うと、キラはゆっくりと話し始めた。 「あのGはね、僕が初めて自分の全てをかけて仕上げたものだったんだ。いわば、僕の子供・・・かな。だから、あれに乗っている人には、あの子達を大切に扱って欲しかった」 地球軍にいるとき、脅されて作らされたGのプログラム。 最初はいやだったけれど、完成に近づくにつれてとても愛しいものに感じてきた。 戦争で使われることは嫌だったけれど、それが戦争終結へ、そして平和へとなる切り札になってくれればという思いとともに完成させた。 地球軍にいたとき、いろいろなことがあった。 両親が殺され、自分をかばった地球軍兵が自分の前からいなくなり、助けに来てくれたザフト兵は殺された。 戦争を、犠牲者を増やすことが分かりきっていた。 自分が地球軍にいて、Gを作ったりしたらそれによってまた多くの犠牲者がでるということも。 そんな戦争のためにあるようなものを作っても、平和を願わずにはいられない自分。 ザフトにGを奪われたと聞いたとき、本当はホッとしていた。 地球軍はあれを殺戮の機械としてしか扱ってくれない。 でもザフトの兵ならば、あれを平和に繋がるために扱ってくれるかもしれない。 「この艦が僕を迎えに来た本当の理由は、Gが乗っているからなんだ。僕はGの創作者として、あれを完璧にしたかった。少しでも犠牲者を少なく、平和を迎えられるように」 「でも、なぜこんなことをしたの?」 最初からそういってくれれば・・・、とアスランが言っても、キラは首を横に振るだけだった。 「最初は僕が修正を加えればいいと思っていた。でも、あれを見たときそれじゃ駄目だと思ったんだ。僕がよこからいろいろと口を出すことはできる。でも、あれに乗るのは君達だ。だから、完璧にするのは君達の手でないと駄目なような気がしたんだ」 だから偽名を使って彼らの手に委ねた。 おそらく自分がこんなことをしたのだとばれたら、彼らは怒るだろう。 でも、キラはあのGを彼らに大切な相棒としてみてもらいたかった。 戦場でともに命をかける、唯一無二の相棒として。 「すべては、僕のわがままんだ。ごめんなさい」 キラは4人に頭を下げる。 だが、そんなキラをイザークは肩を掴んで自分達を見させた。 それを合図にするかのように、今度はイザーク達がキラに向かって頭を下げた。 「え?」 「キラ、ありがとう」 「ありがとうございます」 「ありがとうな、姫さん」 「お前には感謝している」 突然のことに、キラは戸惑う。 どうして、自分が感謝されなければならないのか。感謝をしなければならないのは自分だというのに。 「僕達は少し、Gのことがよくわかっていなかったと思うんです」 「細かいところまでの配慮が少したりなかったみたいだな」 「それを気づかせてくれたのはキラ、君なんだよ」 「お前のしたことは間違いではない。むしろ、今の俺達には必要なものだったのかもしれない」 だから、俺達はキラに感謝する。 そして、キラの思いを背負い、平和のために戦い続けることを約束しよう。 それがあのGに乗る、俺達の責任だと思うから。 4人の思いがキラにはとても嬉しく、たくましく思った。 彼らにGを委ねることができて、本当によかったと思う。 これから評議会の議員となる自分と、彼らの居場所は違うのかもしれない。 でも、志は同じだから。 戦争を終結させ、平和を望む心は変わらないと思ったから。 心からの感謝の意味を込めて。 「ありがとう・・・」
あとがき 河内由布さまからのリクエストにお答えした「女神」完成です。 すいません、由布さん。 |