キヤトからの挑戦状が送られてきてから3日、キラがヴェサリウスに来てから早1週間がたった。 アスラン達は毎日プログラムを解こうと必死になってGのコックピットに閉じこもっているが、誰もそのプログラムを解けたものはいなかった。 一方のキラといえば、艦にも慣れ、自分の特技を生かしてジンの整備や艦内でつかっている機械の整備にせいをだしていた。
「くそ、なんで解けないんだっ!」 昼食のため食堂へと足を運んだ4人。 イザークは机にドンっとこぶしをたたきつけ、いらいらした様子で言った。 それもそのはずだ。 4人とも、なんの成果もあげることができていないのだから。 「まぁ落ち着けよイザーク。気持ちは分かるけどな」 「そうですよ。でも、本当にどういう仕組みになっているんでしょう、あのプログラム。通常のアクセスはできるのに、実行はできない。強制的に動かそうとしたら拒否されてしまうんですから」 「よほど、あれを作った『キヤト』という人物が優秀なのだろうな。でも、どうやってこんなことができたんだ?」 アスランの疑問もそのはず。 外部からGのプログラムを触ることなど不可能だ。 もしもの時のために、ヴェサリウスとG4体とはアクセス系統が異なる。 もしヴェサリウスに外部アクセスできようとも、それを通してGのプログラムに接触することは絶対に無理なはずだ。 「プログラムが解けたら、自分の正体がわかる・・・、か。逆に言えば、相手の正体が分からなかったら、プログラムも解けない、ということにもならないか?」 「確かにありえることですね。まぁ、挑戦状ということでしたから、僕達でも解けるんでしょうけど」 ディアッカとニコルもため息をつく。 かなり、今回のことで参っているらしい。 イザークはイライラしていて、いつも以上に機嫌が悪いし。 アスランはそんな3人を見て、ふと考え込んだ。 「できれば、頼りたくはないんだけどな・・・」 「アスラン?」 アスランがつぶやいた言葉に、ニコルが敏感に反応する。 「・・・・キラに相談してみようか」 「「え?」」 「なんだと?」 3人は驚きのあまり、アスランに注目する。 「キラのプログラミングの才は他人をひきつけないところがある。それはここ1週間でみんなも分かっているだろう?できればキラに頼らずに自分でと思っていたが、これ以上Gをこのままにもできないだろう」 「ですが・・・」 「できるのか?」 確かにキラの才能は3人もとっくに認めていた。 ニコル、ディアッカだけでなく、最初思い切りキラのことを馬鹿にしていたイザークでさえも、キラのプログラミング能力は一目置いている。 「ほら、キラ以前にGの基本設定を作ったのは自分だって言っていただろう?だから、今回のも全て解けなくても解決の糸口ぐらいは分かるんじゃないかと思って」 「だが、それは本人が言っているだけで、なんの確証もないことだ」 地球軍から奪取したGなのに、なぜザフトの評議会議員であるキラが作れるというのか。 「それなんですけど、キラさんの言っていることは本当らしいんですよ」 「ニコル?」 「ちょっと待っていてください」 ニコルは一度席を立ち部屋にいった。 数分後、なにやら書類を何枚か抱えて戻ってきた。 それを何枚かずつ3人に渡す。 「これは・・・・」 それは、キラの個人的な情報。今までの経緯がずらりと書かれていた。
『キラ・ヤマト 3ヶ月前、ザフト軍評議会最年少議員として選出。 それ以前は地球軍の整備班として行動。プラントの手引きにより、1度地球軍から救出される。 が、計画が地球軍にばれ、中立国であるオーヴ、ヘリオポリスにて監禁 』
「おい、これはどういうことだ?」 「キラが、地球軍に?」 「ようするに、あのキラは元裏切り者ってことか?」 3人は信じられないという風に書面を見つめた。 2枚目、3枚目にはキラの地球軍所属の頃の写真など、詳しい情報が載っている。 「これだけ読むとそうなんですけど、少し事情があるんですよ」 ニコルの情報はこうだった。 キラは約2年前に地球軍に入隊した。 だが、それは地球軍に両親を人質に取られたからだという。 キラの両親はナチュラルだが、子供をコーディネータにした親は普通のナチュラルから差別を受ける。 両親を人質に取られたキラは、その後地球軍に入隊し極秘開発されていたGの基本設定のプログラミングをまかされいた。 「両親を人質に?」 「おいおい、ナチュラルってどこまで汚いんだよ」 「だが、今キラはザフトにきているのだろう?だったら、両親が危険なのではないのか?」 イザークの質問ももっとも。 だが、それを答えるニコルの口調は重かった。 「キラさんのご両親は、すでに殺されています」 「「「なに!?」」」 ばっと書面から顔を上げてニコルを見る。 「キラさんのご両親はちょうど1年前、地球軍によって銃殺されているんです」 「どうして・・・」 「ご両親は、キラさんをなんとか逃がそうとしたらしいです。ですが、それが地球軍兵士に見つかって、お二人は抹殺されたようです。それも、キラさんの目の前で・・・」 ニコルの言葉に、3人は言葉がでなかった。 両親が目の前で殺された・・・? では、あれほどやさしかったヤマト夫妻はもうこの世にはいないということなのか? 「・・・・それで、キラはその後・・・」 どうしたんだ? 「すぐに地球軍によって連れ戻されました。ですが、一度キラさんはザフトの手によって救い出されているんですよ」 キラの両親はキラを助け出す際知り合いのザフト兵に連絡を取りなんとか救出したが、結局追っ手に見つかってしまった。そのとき、キラの両親は見せしめというようにキラの目の前で、命を断たれた。 ヤマト夫妻が殺されたことを知ったパトリックは、極秘にキラを救い出すことを計画し特務隊を動かしてキラの身を救い出した。 それで今回内部の手引きをつかって、特務隊が保護していたキラの身柄をプラントに送り届けるために、自分達が来たというわけだ。 以前のように、キラを救い出したところでまた奪われないように。 「父上が・・」 「今回、キラさんが評議会の議員に決まったのも、内部でのいろいろな情報を知りえるからと聞きます」 「あ〜あ、ばれちゃったのか」 いきなり背後から聞こえてきた声に4人はいっせいに振り向く。 だれもいなかった食堂の入り口にキラが一人立っていた。 その表情は、悲しいような、つらいような。 今まで自分の胸の中にだけあったものが、4人にばれてしまってどうしていいか分からないというような、そんな感じがた。 「キラ、いつからそこに・・・」 「ん?わりと最初からかな。ニコルがこの食堂に急いで戻ってきていたから、何かと思って。でも、すごいねニコル。こんな短期間にばれるなんて思っていなかったよ」 「あ、父に教えてもらったもので・・・」 アスランとイザークの親があてにならないようなので、ニコルは同じく評議会の議員をしている自分の父親にキラのことについて問い合わせてみた。 極秘情報だと散々しぶられたが、なんとかここまでの情報を引き出すことに成功していた。 まぁ、自分でもまさかこんな情報がもたらされるとは思ってもみなかったが。 「そう。で、どうするの?」 「どう・・・、とは?」 「理由はどうあれ、僕は裏切り者のコーディネータだよ。僕がつくったものが、たくさんのコーディネータの命を奪っている。それに対して、僕は殺されたって文句は言えないんだ」 地球軍にはすでにアスラン達の同僚であるラスティ、ミゲルが殺されている。 G奪取の時の犠牲者だが、そのGもキラが基本設定をしなければその場にあることはなかったものだ。 「お前は今どこの人間なんだ?」 「え?」 イザークの問いに、思わずキラは回答に困る。 今は・・・ 「今は、ザフトの人間だよ」 「だったら、お前を殺す理由もないだろう。敵なら殺すしかないが、ザフトの人間ならばたとえ過去に何があろうとも、かまわない。大切なのは現在なのだから」 言っていて、イザークは妙な違和感を感じた。 いつもの自分ならば、たとえ今が仲間であっても裏切り者を決して許さないはずなのに。 それは、側にいた3人も思ったことだった。 いつものイザークだったら考えつかないような言葉。 キラの何かが、イザークを変えたのかもしれない。 「ありがとう、イザーク」 キラがにっこりと微笑むと、自然、イザークも小さく微笑んだ。 |