「見かけで判断するのはよくないよ、イザーク・ジュール」 いきなり背後からした声に、4人ははっとして扉の方に顔を向ける。 そこには先ほどブリッチであった少女、キラ・ヤマトが立っていた。 『あら。キラ、無事にヴェサリウスと合流できたのね。よかったわ」 「久しぶりだね、エザリア。今回は迷惑かけちゃって。ごめんね」 『いいのよ。悪いのはあなたではなくて、あなたを監禁したナチュラル。無事でなによりよ』 「うん」 4人を無視してエザリアと話し込むキラの様子を、4人は呆然とみていた。 それ以前に、キラとエザリアはまるで友達同士が話をするような感じで話している。 いくら同じ評議会のメンバーであっても、それなりの礼儀は守っているし、今までの議員同士の会話もきちんと礼節をわきまえたものがほとんどだ。 簡単に受け答えをしているキラと、それを平気で受け止めるエザリア。 しかも、イザーク同様あまり表情を動かしたりしない彼女が、本当に嬉しそうに笑っている。 それを息子であるイザークは少々興味深そうに見ていた。 『キラからの通信か?』 『あら、ザラ委員長』 「パトリック?久しぶりだね」 エザリアの後ろから今度はパトリック・ザラが現れた。 4人はいきなり現れたパトリックに一瞬驚いたが、キラはそんなことをまったく気づかずに笑顔で話しかける。 『キラ、無事だったな』 「もちろん。僕がそう簡単にやられるわけがないと知っているでしょう」 『それはもちろんだが・・・・、気をつけたまえよ、お前は我らの『女神』なのだから』 「その呼び方、嫌いだって言ってるでしょう?」 『事実、そうなのよ。いい加減に受け入れなさい』 「いやなものは嫌なの」 そういってそっぽを向いてしまったキラに、通信画面の向こうの2人は苦笑している。 『そういえば、どうしてあなたがここにいるのかしら?ザラ委員長』 『定例会の招集はとっくにかかっているのだがね、エザリア。なぜ来ないかと思って来たら、キラがいたというわけだ』 『もちろん、定例会なんかよりはキラとお話していたほうが何倍も有意義ですもの』 「だめだよ、エザリア。定例会は本国において重要なものなんだからきちんと参加しないとね」 子供のようなことをいうエザリアに、キラは苦笑しながら言う。 エザリアはしかたないという風に席を立った。 『キラがそういうなら仕方ありませんね。イザーク、きちんとキラを無事に本国まで連れていらっしゃいな』 『アスラン、キラのことを頼んだぞ』 そう、自分の子供に言いたいことだけ言うと、2人はそうそうに通信を断ってしまった。 これでは、なんのために通信したのか分からないではないか。 謎を解明するために連絡を取ったのに、これでは謎が増えてしまっただけだ。 なぜキラをあの2人がこれほどまでに重要視しているのか。 『女神』と呼ばれているのはなぜなのか。 謎は深まるばかりだ。
「で?」 キラは通信が終わると、改めて4人に向き直った。 4人はキラの言いたいことが分からなくて、思わず顔を見合わせる。 「なんだ、何か質問があるかもとおもってこっちから出向いたのに、何もないのか。ならいいや」 そういってきびすを返すキラの腕を、アスランが取る。 「ちょ、ちょっと待って、キラ」 「ん?アスラン大きくなったよねぇ。身長もだいぶ伸びたし、肩も広くなってる」 「まぁそりゃね。キラのほうこそ・・・」 ずいぶんと女らしくなって・・・。 昔は自分と一緒にいるときは男子の服ばかりを着用していたし、中性的な表情だったのに。 今では、表情、体すべてが彼女の性別をかたっている。 「それよりキラ、なぜ君が評議会の議員になんか・・・」 「う〜ん、話せば長いんだけど、一番説明が早いのは能力が認められたということかな」 「能力って・・・。ああ、プログラミングの方か」 「そう」 キラのプログラミングの才能は、小さい頃から群を抜いていた。 絶対に解読が不可能と言われてきたプログラムをいとも簡単に解いてしまい、キラの作るプログラムはどれも完璧に近い出来上がりのものばかりだ。 だが、プログラミングの才があるだけで評議会の議員になどなれるだろうか。 「だが、それだけが理由ではないのだろう?」 「ま、そうだけどね。でも、一番大きな理由はそれだよ。僕が手がけたプログラム、いくつかザフトに使われているしね」 「そうなのか?」 「うん。君達の一番身近っていえば・・・。そう!Gの基本プログラム。あれ、僕が作ったんだ〜♪」 「「「「・・・・・は??」」」」 4人は今、自分の耳を疑った。 今、キラはなんと言っただろうか。 確か、Gの基本プログラムを、作った・・・と? 「あ、あの・・・、キラさん?」 「なぁに?」 「その、Gの基本プログラムを作ったというのは・・・」 「言葉どおりだよ?」 にこにこと笑って話すキラだが、いまだにその言葉の意味を正確に判断することができない。 「嘘だな」 「どうしてさ」 イザークがあっさりと嘘だと断定したことに、キラは少し膨れる。 「あのGはもともと地球軍から奪ったものなんだ。それをどうしてお前が作ることができる」 「それは・・・・。詳しいことは話せないけど、あのプログラムを僕が作ったのは本当だもん」 「詳しく話せないということは、結局それが嘘だということだろう?」 「〜〜〜っ、なにさ、信じないならもういいよっ!」 「あ、キラっ!」 キラはイザークの言葉に腹を立ててそのまま部屋を飛び出してしまった。 キラの腕を捕まえようとしたアスランの手が空を切る。 「イザーク、なにもそこまで決め付けなくても・・・」 「だったらニコル、お前は信じるのか?あの女がGのプログラムを作ったなどと」 「それは・・・・」 たとえコーディネータであっても、学んだり経験を積んだりしなければその実力を発揮することはできない。 パイロットなどもそうだが、プログラミングはただ学ぶだけでなく経験が重要なものの一つだ。 しかも、Gのプログラムともなるとよほどの博識でモビルスーツの基本設定なども全て知っていなければならない。 16という年齢で、そこまで学ぶことは不可能に近いと言っていいだろう。 自分達もGの調整でプログラムを少々いじってみたりするから、あれがどのくらい複雑なプログラムなのかは知っている。 表面上の設定を少し動かすことはできるが、基本設定はほとんどいじれないといってもいい。 だからこそ、信じられないのだ。 キラのような幼い少女がこのGの基本設定プログラムを作ったなどと。 「でも、言い方というものもあるでしょう?」 「そんなもの、俺が知ったことか」 |