数日前、本国からクルーゼ隊に命令が下された。 『中立国ヘリオポリスに向かえ』 命令はそれだけで、その内容はまったく知らされることはなかった。 唯一、全てを知っているクルーゼに聞いても、到着すれば分かるということ意外まったく話そうとはしなかった。 「どういうことなんでしょうか」 「評議会からの命令だ。それなりの意味があるのだろう」 「だが、ヘリオポリスは中立国だ。俺達ザフトがそう簡単に中に入れるものではあるまい?」 「その辺内密にってことになっているみたいよ。どうも、中立国の中に手引きをする人間がいるらしい」 ヘリオポリスに着くまではやることがないため、4人は集まって話をする以外、なにもやることがなかった。
もちろん正規のルートではなく、誰にもみつからないような経路を通ってだ。 ヘリオポリスに到着して約2時間後、Gパイロット4人はブリッジへと召集された。 「さて、諸君には今回の任務に関する説明をしたいと思う」 「隊長、ヘリオポリスは中立国です。もし潜入していることがばれたりしたら」 アスランが心配そうに言う。 基本的に、中立国であるオーヴはコーディネータのザフト軍、ナチュラルの地球連合軍のどちらの味方にもつかない。 他国の争いに介入しない。 他国の侵略を許さない。 それが、このオーヴという国なのだ。 「それはさておき、今回の我々の任務はある人物の護衛にある」 「護衛、ですか?」 ニコルが不思議そうにいう。 それぐらいならば、何も自分達でなくともいいのではないだろうか。 「たかが護衛だが、我々が護衛して本国に送ることになる人物はこの中立国オーヴに監禁されている、評議会の議員だ」 「「「「なっ!」」」」 評議会の議員がこのオーヴに監禁されている!? どうして、そんなことが・・・・ 「なぜオーヴが評議会の議員を監禁しているのです?そんなことをすればオーヴと本国の外交問題にもなりかねない」 「私はこのオーヴに監禁されている、といっただけだ。監禁しているのは密かにこのヘリオポリスに駐留している地球軍にだ」 クルーゼの話はこうだった。 最近評議会の議員に欠員が出たため、その人物は急遽評議会の議員に決まった。 普通ではこのような途中参加はありえないのだが、この人物が評議会に入ることは、アスランの父であるパトリック・ザラ、イザークの母であるエザリア・ジュール他、評議会の全員一致の結果決まったらしい。 だが、その人物は本国に向かう途中に乗っていた機が地球軍によって攻撃された。 行方不明、悪ければ死亡ではないかという思いが皆の中に広まり始めた頃、その人物の無事が急に知らせられた。 中立国オーヴにおいて、地球軍兵に監禁されているという情報とともに。 「では、僕達の今回の任務はその人物の救出なのですね」 「いや、その人物はもうすでに中立国の一部の軍関係者の手引きで救出されているはずだ。我々はあくまでここから本国へとその人物を運ぶことが目的だ」 「それで、その人物とは?」 「ああ、もうすぐくるはずなんだが・・・・」 クルーゼの言葉をさえぎるように、廊下の方から何やら怒鳴り声が聞こえてくる。 「・・・なんだ?」 「ちょっと、離してって言ってるじゃないか!」 「おとなしくしないか!勝手に艦に進入しよって!」 「・・・ど、どうしたんですか?」 騒ぎながらデッキに入ってきたクルーと、そのクルーに拘束されている一人の少女。 「おい、なんだその女は」 イザークは少女が騒ぎ立てる声がうるさいとばかりに眉間に皺を寄せて睨みつけている。 クルーはなんとか敬礼をすると、 「じつは先ほど艦の中で怪しい行動をとっているこの少女を見かけまして。騒ぎ立てるので連れてきたのですが」 「離してやれ」 「は?」 「離してやれ、といったんだ」 クルーゼの言葉に納得がいかないようだったが、言われたとおりすぐにその少女から手を離した。 と、その途端
「ふん」 その少女は頬を膨らませながら掴まれて乱れた衣服を直した。 だが、そのクルーもただ殴られてそのままなわけがない。 「きさまっ」 「やめておけ」 今にも殴り返しそうなのをクルーゼが止める。 クルーゼはその少女に近づくとゆっくりと敬礼をとり頭を下げた。 「部下が失礼をいたしました」 「まったくですね、クルーゼ隊長。たとえ不審人物であったにせよ、婦女子に対する態度は今後きちんと部下に教育しておいてくださいね」 「機密事項であったために、あなたのことをクルー全員に話しておりませんでした。お許しください」 「すんだことはしかたありません。これから本国まで、よろしくお願いしますね」 「はい。こちらこそ」 先ほどの不機嫌な顔とは対照的に、その少女はにっこりと笑ってクルーゼに頭を下げた。 その表情に、その場にいたものは全員釘付けとなってしまった。 「キ・・・、キ・・ラ?」 「アスラン、お知り合いですか?」 今まで呆然とその少女を見詰めていたアスランがつぶやいた。 聞き返したニコルの言葉も耳に入ってはいないようだ。 「この方が監禁されていた評議会のメンバー、キラ・ヤマト女史だ」 「「「「えっ!?」」」」 この少女が! 自分達とそう変わらないはずのこの少女が評議会の議員だと!? あまりの驚きに声が出ないクルー&Gパイロットをそのままに、クルーゼはキラに向き直る。 「目の前にいるのが我が隊のパイロットたちで・・・」 「知っています。イザーク・ジュール、ディアッカ・エルスマン、ニコル・アマルフィ、そしてアスラン・ザラ」 にっこりと笑ってそれぞれの名前をあてていく。 「ご存知でしたか」 「あなたのクルーゼ隊は必要以上に有名ですよ。評議会メンバーの子息が4人もいるのですから」 「それでは、いつまでもこんなところではなんです。部屋の方へご案内させましょう」 クルーゼが合図すると、うち一人のクルーがキラを連れてブリッジを出ようとしたとき・・・。 「・・・・キラ!」 「あ、忘れていた。アスラン、久しぶりだねv」 思わず声を掛けてしまったアスランにそれだけ言うと、キラはそのままブリッジを出て行ってしまった。
しかも、評議会の議員だと? キラはまだ16だ。それなのに、どうして評議会の議員になどなれるんだ。 あの笑顔。キラは別れたときとちっとも変わってなどいなかった。 一体、自分と別れた後、彼女に一体何があったんだ? 「おい・・・・」 自分は幼年学校を出た後両親とともに本国へと移転したが、その後のキラの消息については確かにつかめずにいたが。 「おい、アスラン」 だからといって、なぜこの短い間に評議会の議員に選ばれるなどということになっているんだ? 「おい、アスラン、聞いているのか!!!」 耳の横で大声で叫ばれて、ようやくアスランは顔をあげた。 目の前にはいらついた表情のイザーク、心配そうな顔をしているニコル、面白いことになってきたと笑うディアッカがいた。 「あ、ああ・・・。悪い、なんだ?」 「なんだ、じゃない。おまえ、あのキラとかいう女を知っているのか?」 「ああ。月の幼年学校時代の幼馴染だ。でも、なぜそれがこんな形で・・・」 再会をしてしまったのだろうか。 「ということは、あなたと同じ16歳なのですか?」 「そう。なのに、どうして評議会などに入ることができるんだか」 そこが一番よくわからない。 「ふん、まぁいい。事実を確かめればいいだけのことだ」 そういうと、イザークはおもむろに通信ボタンを押して本国へとアクセスし始めた。 「イザーク・ジュールだ。母に話がある」 『ID確認いたしました。少々お待ちください』 機械的な受け答えで受付の人間が消えると、しばらくしてイザークの母、エザリアが画面へと出てきた。 『久しぶりね、イザーク。どうしたのかしら、あなたから連絡があるだなんて』 「お久しぶりです、母上。率直にお答えいただきたい、あのキラ・ヤマトという人物はなんなのですか?」 『無事にそっちと合流できたのね、よかったわ。イザーク、なんとしてもキラを無事にプラント評議会まで送り届けなさい。いいわね」 「では、キラ・ヤマトが評議会の議員であるということは」 『事実よ。現評議会議員満員一致で決まったこと。何か問題でも?』 「当たり前です!なんであんな少女が評議会の議員になど!」 「見かけで判断するのはよくないよ。イザーク・ジュール」
あとがき 河内由布さまからいただいたリクエスト「キラ女性化」「評議会最年少議員」の第1話です。 由布さん、少し長くなりそうな予感がすっごくするのですが、気長にお付き合いいただくと嬉しいです。 |