「キラ・ヤマトさんですよね?」 「?そうだけど」 もうすぐ食事が終わるというときに、一人の少年兵がテーブルに近づいてきた。 幼さがまだ抜けていないことから、今年志願してきた新米兵だろう。 「なに?」 「これ、預かったので」 キラに一枚の紙切れを渡すと、すぐに立ち去ってしまった。 急いでいそうな様子に首をかしげながら、その紙を読む。 すると、キラの表情が微妙に変わった。 「どうかしたか?」 めざとくそれをみたミゲルが聞くが、はっとしたキラはなんでもないという風に首を振った。 「ちょっと用事ができちゃったから、先に行くね」 そういうと、キラは食べ終わった食器を片付けて慌てて食堂を後にした。 いやに慌てているキラの様子に、アスラン達は顔を見合わせる。 「キラさん、どうしたんでしょうか」(二 「姫があそこまで慌てるなんて、めずらしいな」(ディ 「今の紙、一体なんて書いてあったんだ?」(イ 「さあ、見えなかったけど、呼び出されたのはあの紙だよね」(ラ 「だろうな。それまでは一言も言っていなかったし」(ミ 「俺、ちょっと気になるから探してみるよ。仕事なら手伝えるだろうし」(ア アスランがそういうのと同時に、6人はいっせいに立ち上がって食堂を出た。
だが、艦内のいそうな場所を探してもキラの姿はどこにもいない。 「みつかったか?」 「いや、そっちも駄目みたいだな」 途中合流したものの、これで全員が艦内を見て回った。 一体、どこに行ってしまったのだろうか。 「そういやあそこ探したか?第五倉庫」 「第五倉庫?あそこは立ち入り禁止の上、ガラクタしか置いてないぞ?」 「考えてみても仕方ありません。残す場所はあそこしかありませんし、いってみましょう」
倉庫に近づくに連れて、何か揉みあいになっているような音が聞こえてきた。 誰も入ってはいけないはずの場所なのにだ。 みると、閉ざされているはずの扉がかすかに開いている。 「鍵が、開いている?」 扉をいきおいよく開くと、そこには数人の兵士に押さえつけられているキラの姿があった。 「!!??」 「!キラ(さん)!?」 「み・・・、みんな〜」 そこからは、わけが分からなかった。 ただ、6人は最初から計画してあったかのように行動した。 アスラン・イザーク・ミゲル・ディアッカキラを抑えている兵士を殴りつけ、ニコル・ラスティがキラに近づいた。 「うわ〜!」 ようしゃなく相手を叩きつけると、手近にあったロープで兵士達をまとめ上げる。 「キラさん、大丈夫ですか?」 「キラ、平気?」 みると、キラの制服の上着は無残にも引き裂かれていた。 キラは震える手でその制服を掴んでいる。 どうやら、いきなり襲われたらしい。 「貴様ら、キラになにをした!?」 「別に、お前らに関係ないだろうが!」 「なんだと!?」 「実力もなくて、コネでクルーゼ隊に入ったやつなんか、どうなったっていいだろうが!」 「なに?」 その兵士の言葉に、みんなの視線がキラに集中する。 「そいつはな、クルーゼ隊長のもんなんだよ。だから、この隊にも隊長のコネで入ったに決まっている。俺たちは必死に実力を磨いて、認められてこの隊にやっとの思いで入隊できたんだ!それをこいつは・・・っ!」 つまりは、逆恨みというわけだろうか。 キラは何も言わずにただうつむいている。 アスランはその男の首元に掴みかかると、地に這うような低い声で言った。 「なにを根拠にそんなことを言っているんだ?」 「俺はみたんだよ!クルーゼ隊長とそいつがいちゃついているところをな!へ、残念だったな、自分の物にできなくてよ」 アスランはその男の腹部を思い切り蹴飛ばした。 傷は見えないところへが基本であるから。 「なにをしている?」 そこへ現れたのが、クルーゼだった。 ゆっくりと近づいてくる。 キラの横に膝をつくと、そっとキラの肩を揺さぶる。 「・・・・・キラ?」 「あ・・・・・・・」 クルーゼの顔を見た途端、キラの瞳から抑えていた涙がポロポロと流れた。 「ラ・・・ウ・・・・、う・・・・うぇぇぇ〜〜〜〜っ」 抱きついてきたキラに自分の上着を着せると、クルーゼはぎゅっとキラを抱きしめた。 キラは、怖かった思いを全て吐き出すように、泣き続けた。
クルーゼは泣きつかれて眠ってしまったキラをゆっくりと抱き上げた。 「ミゲル、そのバカ共を監禁室に入れておけ。本国に帰り次第、査問会にかける」 そういって、立ち去ろうとしたクルーゼを、アスランが引き止めた。 「待ってください、隊長!」 「なんだね、アスラン」 「その・・・・本当なのでしょうか、キラのこと・・・・」 「キラが私のものということかね?それともコネを使って入ったということ?」 しっかり会話は聞いていたらしい。 クルーゼはキラを抱きなおすと、そのまま静かに告げた。 「キラが私のものというのは本当だ。キラは、大切な私の婚約者だからね。そして、キラがコネでこの隊に入ったかどうかは、君達が一番よくわかるのではないか?」 普段キラ自身の能力を一番間近で見ているのは、ほかならぬアスラン達なのだから。 それだけ告げると、クルーゼはまだ呆然としているアスラン達をその場に残し、倉庫を出て行った。
「キラの言っていた婚約者って、クルーゼ隊長のことだったんだな」 兵士達を監禁室に放り込んだ後、なぜかアスラン達はラスティとミゲルの部屋へと集まっていた。 特にショックが大きそうなのがアスランとイザーク。 婚約者が自分より劣るやつならば奪えるかもしれないと思っていた矢先のことだったから・・・。 クルーゼ隊長にかなう訳ないのは、本人達が一番よくわかっていたから。 「「は〜・・・・・・」」
キラが目を覚ますと、そこは真っ白の天井だけが広がっていた。 ゆっくり部屋を見回すが、そこには誰もいない。 ただ、見覚えのある部屋で、ここがクルーゼの私室だということだけはすぐに分かった。 「なんで・・・・、ここにいるんだっけ・・・・・・」 呆然と天井を見上げているうち、走馬灯のように先ほどあった出来事がキラの頭の中を横切った。 「・・・・・・・・・・・・・っ!!!!」 勢いよく起き上がると、キラは自分の震える体をギュッと抱きしめた。 気持ち悪い、知らない男達の手。 あの時、アスラン達が来てくれなかったら、僕はどうなっていたのだろうか。 「ラウ・・・・」 「どうした?」 名前をつぶやいた途端に、キラの体はクルーゼの腕の中に閉じ込められていた。 はっとして上を見上げれば、普段は絶対に外さない仮面を外したクルーゼが微笑んでくれていた。 キラはホッとしたのと同時に体の震えが徐々に収まっていくのが分かった。 心から安心する場所は、きっとこの腕の中だけ。 キラの体を抱きしめながら、ゆっくりと髪を梳いてくれる。 「すまなかったな」 「ラウ?」 「私が、もう少し早く駆けつけることができれば、キラをあんな目にあわせることもなかっただろうに」 「そんな・・、ラウのせいじゃないよ」 悪いのは、油断した自分自身。 あのとき、ちゃんと確認をとっていたなら、こんなことにはならなかったのに。 クルーゼやアスラン達に迷惑をかけることもなかっただろうに。 「そういえば、どうしてラウはあの場所が分かったの?」 「少年兵が、一人私のところへ来てな」 「少年兵?」 「キラが危ないかもしれないから、行ってやってくれないかと言ってきた。多分、彼は私とキラの関係を知っていたのだろうな」 「多分・・・、あの子だね」 自分に手紙を持ってきたあの少年兵。 おそらく、あの兵士達に脅されて自分に手紙を運ばされたのだろう。 キラが、そうしたらどうなってしまうかもわかっていて。 それでも、逆らうことができなかったのだろう。 今度会ったら謝らないと。巻き込んでごめんねって。 そうしないと、多分あの子は一生このことについて後悔することになるのだろう。 自分をずっと苛みつづけて。 「あの兵士達は、どうするの?」 「宇宙に放り出した」 「え!?」 「というのは、冗談だが・・・・」 「ちょ・・・、ラウ・・・・・」 冗談にならない・・・・。とキラは脱力してしまう。 時々こうなのだ、この人は。突拍子もないことをたまに言う。 「だが、事実そうしたかったのは、本心だ。だが、私の一存で彼らを殺すこともできんのでな、本国へ戻って査問会にかける。私の婚約者に手を出したんだ、それなりの罰を受けてもらうことになるだろう」 キラのプログラミング能力はザフト本部でも高い評価を受けている。 そうそう、軽い刑罰が下されるはずもないだろう。 キラはクルーゼに抱きしめられてほっとしたのか、腕の中でうとうとと船をこぎ始めた。 「今日は眠れ。いろいろあっただろうし、疲れただろう?」 「ん・・・・・・・」 キラをベットへ横たわらせようとしたが、キラの手は掴んだクルーゼの服を離そうとはしなかった。 「キラ?」 「ラウ・・・どこにも行かないで・・・、側にいて・・・・」 寝ぼけているのか、半分目を閉じた状態で見上げてくる。 「大丈夫だ、私はここに、キラの側にいるよ。だから、ゆっくり眠りなさい」 「うん・・・・・・」 キラが眠りに落ちたことを確認して、明かりを消してキラの隣に入った。 きゅっとキラの体を抱きしめると、クルーゼもまた、浅い眠りへと落ちていった。
〜あとがき〜 河内由布さまからのリクエスト「クルキラ」婚約者話です。 由布様、リクエストはこれでよろしかったでしょうか? |