いきなり鳴り響いたサイレンに、人々は驚きと共に、逃げ惑う。

 

どうして・・・・。

 

平和だった世界を壊すように鳴り響くサイレン。

人々に混乱をもたらす音。

 

逃げなきゃ・・・、ここから・・・。

 

そう思っていても、体は動いてはくれない。

頭のどこかで否定したがっているのだろうか。

これは、夢だと。

 

 

ドンッ

 

 

立ち止まっているキラに容赦なく逃げ惑う人々がぶつかってくる。

ぶつかった人々は振り返ることもせずに我先にと逃げる。

それがあたりまえなのだと、キラにもわかっている。

 

この状況では、仕方がないのだから。

 

 

 

 

「あ、トリィ・・・・・っ」

人々にまぎれて自分もと思ったそのとき、ふといつも傍らにいる大切な友達がいないことに気づいた。

先ほどまで、確かにそばにいたはずなのに。

キラは、逃げてきた学校へと、再び戻った。

 

 

「トリィ!トリィ、どこ!?」

うっすらと煙が漂っている建物の中、キラは必死にトリィを探した。

だがその姿はどこにもなく、かえって煙が辺りに充満してきている。

「トリィ、どこに・・・・」

『トリィ』

その声がしたほうにはっと振り返れば、同時にトリィがキラの肩に舞い降りる。

「トリィ。よかった、無事だったんだね。それより早く逃げなきゃ。このままじゃ逃げおくれちゃうよ」

そういって外への道を走り出そうとしたそのとき、またもやトリィがキラの肩から離れた。

「トリィ!」

トリィはついて来いとばかりにキラの方を気にしながら建物の奥へと飛んでいってしまう。

「そっちに何かあるの?」

時間があまり残されていないということもわかっていたが、キラはトリィを追いかけた。

 

 

いくつかの過度を曲がったところに、ふと、一人の男の子が倒れているのが見えた。

「・・・・・・っ!」

血まみれで倒れている姿に、キラはショックを受けた。

「こんな・・・、こんなひどいこと・・・・っ」

こんなに小さな子供が・・・・。

このオーブで暮らしてきた人々が、いったい何をしたおちうのか。

今日まで、みんな幸せに暮らしていたのに。

キラはその男の子にそっと手を伸ばして、ぎゅっと抱きしめた。

服に血がつくのもかまわず、ただ、ぎゅっと・・・。

どうして、こんなことになってしまったのだろうか。

争いが嫌で、平和を求めてこの国に来たのに。

なぜ、こんなことに巻き込まれなければならない・・・・っ!

「夢なら・・・、覚めてよぉ・・・・」

 

トクン          トクン

 

ふと、抱きしえている男の子から命の鼓動が聞こえた気がして、キラははっと体を離した。

ゆっくりと心臓に耳を当てると、確かにまだ弱弱しくだが、動いている。

口に手を当ててみれば、かすかだが呼吸もある。

「君!君、しっかりして!?」

「・・・・マ・・・・・マ・・・・・」

「よかった。すぐにママのところに連れて行ってあげるから!」

その子の傷に触らないように抱き上げると、キラは一目散に走った。

 

確か、この近くに避難ポットがあったはず。

 

ようやく目的地を発見すると、すぐに連絡スイッチを押す。

「すいません!2人、中に入れてください!」

ピッ

『すまないが、この中はいっぱいだ。少し行った先にもう一つの避難ポットがあるから、そちらへ行ってもらえないか?』

「それでしたら、一人だけでも!!小さな男の子で、大怪我をしているんです!」

『わ、わかった』

すぐに上がってきたエレベーターに、そっと男の子の体を横たえる。

「おね・・・・ちゃ・・・?」

「この中にいれば安全だよ。すぐにママにも会えるから。だから、がんばるんだよ?」

そうにっこり笑うと、キラはエレベーターを送った。

下まで確実に到着したことを確認した後、キラもその場から離れ走り出す。

ぐずぐずしていたら、この建物もいずれ崩壊するだろう。

今もあちこちで起こる爆発によって、建物のあちこちが崩れかかっている。

 

 

「あ、あった!」

目の前に非難ポットの入り口が見えたと思った、そのとき・・・・・。

 

ピシッ

 

数々の衝撃に耐え切れなかったのか、頭上の天井が崩れ落ちてきた。

「・・・・っ!?」

キラは、コーディネーターならではなの反射神経と運動能力でなんとか下敷きにならずにすんだものの、非難ポットへの道は固く閉ざされてしまった。

「どうしよう・・・」

考えている暇もない。

とりあえずキラは開かれている道へとまた走り出した。

 

が、今度は前方にいきなり現れたものに勢いよくぶつかってしまった。

「きゃっ!」

そのまま後ろへと倒れこんでしまう。

「いたぁ・・・・」

ぶつけてしまった腰をさすると同時に前を見上げれば、そこには見慣れない軍服を着た人物が銃をキラに向けた状態で立っていた。

そのエンブレムから、彼が地球軍の軍人だということがわかる。

 

だが、ここはオーブ。

 

なぜ地球軍の兵士が、この場にいるのだろうか。

そして、なぜキラに銃を向けているのか。

 

「きさまらなんかが存在するから・・・」

「え?」

「きさまらみたいな化け物がいるから、戦いなんかが起こるんだ!」

そういうと、彼は銃の安全装置を解除する。

 

「死ね!宇宙の化け物!」

「・・・・・っ!」

 

とっさに、キラ腕を顔の前で交差した。

 

バンッ

 

銃の撃たれる音がした。

だが、キラの体には一向に痛みや苦痛というものが訪れなかった。

恐る恐る目を開けてみると、目の前には先ほどの銃を向けていた地球軍兵が銃を持ったままうつ伏せになって倒れていた。

その背中を、真っ赤に染めて。

「・・・・・・・っ!?」

 

 

「まったく、民間人にまで手を出すとは、落ちたものだな」

はっとその声がしたほうを見れば、そこにはこの兵士と同じように銃を構えている金髪と銀髪の少年が二人、立っていた。

二人が着用しているものは、真っ赤なパイロットスーツ。

それは、二人もこの地球軍兵と同じように軍人だということがわかる。

また、同じように命を狙われるのではという恐怖心が、キラの体を強張らせる。

 

その二人は、警戒したように軍人をにらみつけながらキラに近づいてきた。

金髪の少年がその兵士のそばに膝をついて、兵士が本当に死んでいるのか確かめる。

そして、銀髪の少年はキラの方へゆっくりと近づいてきた。

「大丈夫か?」

 

ビクッ

 

キラの怯えた態度に相手の少年も少々驚いたようだ。

不安げな瞳で見上げられ少年は思わず苦笑して銃をしまった。

「どこにも怪我はないな?」

コクリ

 

「そうか。ならば、一緒に来い。じき、ここも崩れるだろうからな」

そういうと、キラの手をとってぐいっと引き上げる。

「おい、イザーク。俺たちは作戦実行中だぜ?そいつを連れて行くって言うのか?」

「黙れディアッカ。ナチュラルならばほうっておいたが、こいつはコーディネーターらしい。ここにおいてしなれでもしたら気分が悪い」

「違いない。じゃ、行くか」

「ああ」

そういうと、イザークと呼ばれた少年はキラの手をひっぱって走り出した。

その後ろを、ディアッカと呼ばれた少年が続く。

 

 

 

5分ほど走っただろうか。

キラたちは大きな格納庫へとたどり着いた。

この学校にこんな場所があったとは知らなかった。

一般生徒には立ち入り禁止になっていたところだったのだろうか。

そして、それ以上にキラを驚かせたものは、中にあった存在だった。

 

モビルスーツ。

 

そう呼ばれている、戦闘用人型兵器だ。

「これは・・・・」

「俺は向こうに行く」

「じゃ、俺はあっち・・・・って、敵も来たみたいだな」

そんなディアッカの声とともに、あちこちからこっちに向かって銃が撃たれる。

キラはとっさにイザークに抱きかかえられて物陰に隠れた。

ディアッカが銃を向けて確実に敵の数を減らしているのがわかる。

イザークもキラをかばいながら、必死に応戦していた。

 

そんな中、キラはあまりの恐怖にぎゅっとイザークの胸にしがみついて、時が過ぎるのをまった。

 

しばらくすると、ようやく敵もいなくなったようで銃の音が消えた。

「あらかた片付いたな」

「ああ。それじゃ、乗り込むとしますか」

そういってディアッカは左へ、イザークは再びキラの腕を引いて右にあるモビルスーツへと駆け寄った。

イザークはコックピットの近くまで来ると、息を切らせているキラの体を不意に抱き上げた。

「!?」

「おとなしくしていろ」

それだけいうと、すぐにコックピット内に収まる。

中にイザークが座れば、その腕に抱えられているキラは自然とイザークの膝に横抱きにされている常態となる。

恥ずかしい、というか無心にキーボードを操っているイザークの邪魔になっているような気がして、キラは降りようとするのだが。

「おとなしくしていろと言っている」

という声に、キラはどうすることもできずにそのままの状態でいるしかなかった。

 

「くそ、どうなっているんだ、これは!」

 

イザークの拳が、ドンッとコックピットの壁に叩きつけられる。

それにビクッと体をすくませるが、イザークはそれに気を止めることなくいらいらとモニターに表示されているプログラムを追っていく。

キラも、そっとそちらを覗き込んだ。

そして、少し目を見張る。

それは、あまりにもひどいプログラムで。

このようなプログラムでこんなに大きな機体が動くなどと、本当に思っているのだろうか。

イザークは必死にキーボードを操っているが、かなり苦戦しているようだ。


僕になら、治せるかも。

そう思ったキラは、キーボードへと手を伸ばした。

「おい」

邪魔をするなという顔でみられたキラだが、それを気にせずにひらすらにキーボードに指を走らせる。

モニターを眺めながら、邪魔なプログラムを消し必要なプログラムを書き込んでいく。

それにはイザークも唖然としているようだ。

こんなものを、民間人であるキラが動かせるわけがない。・・・・はずだったのだから。

 

キラが完全にプログラムを書き換えると、先ほど苦戦していたのが嘘のように機体が正常に稼動する。

「これは・・・・」

「あの・・、余計なこと、したかな」

「いや、助かった。おい、ディアッカそちらはどうだ?」

『ぜ〜んぜんだめ。こんなんで本当に動かすつもりだったのかねぇ、ナチュラルは』

「そうなんだろうな。こちらからプログラムを送る。それをとりあえずインストールしてみろ」

『了解。って、お前もう攻略したわけ、このわけわからないプログラム』

「どうやら、俺たちには女神が微笑んだらしいな」

『は?』

わからない、といった顔をしているディアッカとの通信を切ると、イザークは先ほどキラによって書き換えられた起動プログラムをディアッカの機体へと移した。

これによって、ディアッカの方の機体も起動したのがわかる。

「とりあえず、ヴェサリウスへと戻る」

『了解』

そういうと、イザークはなれた手つきで機体を操縦し始めた。

だが、キラは慣れていないその振動に、イザークの膝の上から落ちそうになる。

それを、やんわりと受け止めた。

「つかまっていろ、これから振動も大きくなる」

「うん」

促されるまま、キラは少し躊躇しながらもイザークの首へと腕を巻きつける。

顔を赤くしているキラに苦笑しながら、イザークは機体を操縦するにのに集中した。

 

 

 

思った以上にひどい揺れに、キラは困惑した。

不安定なこの位置に怯え、キラはぎゅっとイザークにしがみついていた。

 

 

怖いよ・・・・。

 

いつのまにか、キラは気を失っていた。