「ディアッカ、まだ格納庫にいるのかなぁ」

ぽつりとつぶやくと、キラは包帯を巻かれている右足を見た。

朝よりもだいぶ痛みも引いた。腫れがまだ残ってはいるがこれも徐々に取れて言ってくれるだろう。

ドクターが言っていた。

この怪我でこれ以上無理をして何かをしていたら、筋肉や神経等に影響したかもしれないと。

この捻挫を軽く見ていたキラはそれには驚き、ドクターはキラの捻挫の重さを一目で見抜いたディアッカをさすがだといって関心していた。

ディアッカのことをすごいと思ったが、でもそれ以上に自分のことを自分で見抜くことができなかった自分が恥ずかしくなった。

「今日会って、話したかったんだけど」

もしかしたら、様子を見に来てくれるかと思っていた。

でも、それはキラの思い上がりだったんだろうか。

アスランたちが訓練の後すぐにこちらに来てくれたから。

きっとディアッカも来ると決め付けていたのかもしれない。

「まだ、時間大丈夫だよね」

時計を見上げれば、就寝時間まであと30分ほど余裕がある。

キラは杖を片手に立ち上がると、そのままそっと部屋を抜け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなもんかな」

ディアッカはまだ格納庫のバスターの中にいた。

前々からおかしいと思っていたOSをチェックしていたのだが、どうにもうまくプログラムを組むことができない。

あまりに時間がかかるようなので、付き合ってもらっていた整備士たちには先に引き上げてもらうように指示し、ディアッカ自身はまだバスターのOSとにらめっこ状態だった。

バスターは他のMSと比べて火器の使用が多く、その分プログラムを複雑に組み込まなければならない。

ディアッカ自身、あまりそういった作業を得意としているわけではないのでいざ本格的に改良しようとすれば嫌でも時間がかかってしまう。

「そういや、キラ大人しくしてるのかな」

慌しく格納庫へ移動したため、キラの様子を見る機会がなかなか作れなかった。

食事の際に会えるかとも思っていたが、キラの食事はアスランたちが部屋へと運んだという噂を聞いた。

早速甘やかしているらしい彼らに、なんとなくため息が出る。

イザークたちがキラの周りに居る以上、無理をしないということも分かっているのでその点は安心できるのだが。

「様子見に行こうと思ったけど、この時間じゃ無理だな」

もう就寝時間も回ってしまっている。

ディアッカ自身もそろそろ戻らなければ厳重注意を受けてしまう。

と、そのときバスターのディスプレイに反応があった。

誰も居ないはずの格納庫の中に、生命反応が現れたのだ。

「こんな時間に、誰だ?」

キーボードを操作して画面を切り替えると、格納庫の入り口にここにはいないはずの人物の姿が映し出された。

驚いたディアッカは、すぐにバスターのコックピットから外へと体を乗り出した。

「キラ!何やってんだ!」

「あ、ディアッカ」

キョロキョロと何かを探していたようだが、ディアッカが声を掛けるとこちらに気づいたように大きく手を振る。

見ればキラは松葉杖をつきながら歩いていて、そのままこちらへと近づいてくる。

ディアッカはケーブルを使って下へと降りると、すぐにキラの元へと駆け寄った。

「キラ、何やってんだ。就寝時間はとっくに過ぎてるんだぞ」

「わかってるけど・・・。でもディアッカだってまだここにいたじゃないか」

「バスターのOSのチェックがな・・・って、そんなことはどうでもいい。なんでそんな怪我でふらふら歩いてるんだよ!」

「・・・・・・ディアッカに、お礼言おうと思って・・・・」

「お礼?」

「今日、いろいろと迷惑かけちゃったし・・・。そのせいでバスターの調整遅らせちゃったのかなって・・・・」

「バスターの調整が遅れてるのは俺の腕が鈍いからだ。そんなことは気にしなくていい」

「でも」

「俺がいいって言ってるんだ」

たく、なんでこういうところだけはがんこなんだか。

ふとディアッカはキラの足元に目をやった。

「キラ、もしかして床に足つけたか?」

「え?」

「包帯、解けちまってるじゃないか」

キラもようやく気づいたようで、あわてて足元を見る。

幾重にも巻かれていたはずの包帯は一部はずれ、引きずってきたらしく汚れてしまっている。

「あ〜あ。これ巻いたんじゃ衛生上よくないな。とはいえ、替えの包帯はここにあるわけないし」

どうするか、と考えるディアッカだったが深く考えなくても思いつく方法は一つしかなかった。

「キラ、ちょっとの間ここでまっていろ」

「う、うん」

そういうと、ディアッカはバスターのコックピットへと戻ってプログラムを終了させる。

誰かが勝手に動かせないようにロックも忘れずに。

手近においてあった資料等を一まとめにすると、またキラの元へと戻った。

「キラ、これもって」

「へ?」

了承を得ることをせず自分の荷物をキラに押し付けたディアッカは、そのままキラの体を横抱きにして抱き上げた。

「ディアッカ?」

「こんな時間じゃドクターも寝ちまってるし。俺達の部屋に変えの包帯があったからひとまずそれで済ます。これ以上足引きずるのもなんだからこのままで行くぞ」

そういうと、ディアッカは有無も言わさずに歩き出した。

朝にも同じことをしてもらっているためか、不思議とキラはあわてることなくされるがままになっていた。

なんとなく、ディアッカに抱かれているのは嫌じゃない。

むしろ、とても安心してほっとする。

この感じは、どこかで感じたことがあるはずだ・・・。

どこだっただろうか。

 

 

 

 

 

 

「お〜い、イザーク。開けてくれ〜」

「イザークもう寝てるんじゃ?」

「ないない。多分本でも読んでるって」

とディアッカは言うものの、中から部屋を開けてくれる気配は一向にない。

キラをいちいちおろしてロックを解除するのもめんどうだし、荷物を持たせているキラもそれは不可能。

しかたない、ここは・・・・。

「キラ、なんか言え」

「え?」

「何でもいいからさ、部屋に向かって」

「えっ・・・・、イザーク、起きてる?」

そうキラが言っただけで、防音が起用されているはずの部屋の中からバタバタという音が聞こえてきた。

と思ったら、すぐに扉が開かれた。

「キラ!?」

「・・・ホントに起きてたんだ」

「な、言ったろ?」

出てきたイザークは横抱きにされたキラと、キラを抱えるディアッカを見て、我知らず目を疑った。

「サンキュ、イザーク」

それだけ言うと、ディアッカは固まっているイザークをよそにそのまま部屋の中へと入った。

キラはそんなディアッカの肩越しにイザークを見ていたが、ディアッカはベッドにまでたどり着くとキラを抱えおろした。

「えっと、確かここら辺にあったはずだよなぁ」

そういいながらなにやらごそごそと引き出しの中を探る。

その間にようやく立ち直ったらしいイザークがキラの側へと近づいてきた。

「どうしたんだ?」

「包帯汚れちゃって。ディアッカが替え持っているっていうからさ」

「だからといって、なぜ・・・」

「ああ・・・」

イザークが聞きたいのはキラがディアッカに抱えられて部屋に来たこと。

キラは別に歩けないわけではないのだし、時間はかかるかもしれないが自分で歩かせればいい。

なのに、ディアッカはそれをしなかった。

驚いた反面、少々悔しかったりもする。

イザークはキラの足を思って抱えるなどという考えを持つこともできなかったのだから。

「包帯あったぞ。キラ、右足出して」

「う、うん」

ディアッカはベッドに座っているキラの右足を取ると、包帯を取り除く。

張られているシップをはがせば、まだ赤く腫れてしまっているものの朝に比べればたいしたことはない。

まだまだ無理を許さない状態ではあるが、ドクターの注意をきちんときいておけばこれ以上ひどくなる心配もないだろう。

新しい湿布を張り、包帯を巻きなおす。

その手つきのよさに、キラは関心してしまう。

ディアッカがここまで器用だとは知らなかった。

「よし、これで終わりだ。きつくはないな?」

「うん、ありがとう」

「じゃあ部屋まで送っていくとするか」

「それはいいが、もう時間的に無理があるだろう」

それまで大人しく怪我の手当てを見ていたイザークが時計を指した。

それを見れば、もう消灯時間を1時間もオーバーしている。

これでは許可もなく出歩くことはできないし、もし見つかってしまえば面倒な仕事を押し付けられかねない。

「隊長に許可とるか。まだ起きてるだろうし」

「そうだな」

「ねぇ、二人がよければ僕、今日ここの部屋に泊めてもらえない?」

キラの言葉に、何を言い出すとばかりに二人がキラを見つめる。

確かに、今から部屋に送っていくよりもとめたほうがいちいち許可を求める手間もなく楽なのだろうが・・・。

「つってもなぁ、イザーク?」

「・・・・俺は別にかまわん。何かあるわけでもないだろう?」

「そりゃ、そうだけどよ。ベッドは二つしかないんだぜ?」

「お前がソファで寝ればいいだけの話だろうが」

と、まるで決まっていることのように言うイザーク。

ディアッカはこういうときイザークに何を言っても無駄だということは承知しているし、キラをソファに寝かせようとは思わなかったので、それを了承しようとした・・・・が。

「僕、ディアッカと一緒でいいよ?」

「「・・・・はい?」」

「そう小さいベッドじゃないし、それにソファなんかで寝たら風邪ひいちゃうじゃない」

「だからってなぁ・・・」

「何をばかなことを言っているんだ、お前は」

「いいじゃない?それともディアッカは僕が邪魔?」

「そうじゃないが」

「それじゃ、それでいいじゃない」

決まりvとばかりににっこりと微笑むキラに、ディアッカとイザークはもはや何もいえなくなってしまった。

キラはディアッカからシャツを1枚借りるとそれに着替え、そうそうにベッドに入り込んでしまった。

そこから死角になる位置で、ディアッカとイザークは大きなため息をついた。

「どうするんだ」

「どうするって言っても、本人がああいってるんじゃなぁ・・・」

「言っておくが、キラに何か・・・」

「大丈夫だって。俺だって命は惜しいよ」

キラに手を出すつもりは毛頭ないが、もし何かあればイザークにアスラン・ニコル。最終的にはクルーゼまでも出てきて何をされるかたまったものじゃない。

ここは大人しくしておくに限る。

ディアッカがベッドに近づくと、キラはすでに寝息を立てており正直拍子抜けしてしまった。

そのまま隣に滑り込んで部屋の明かりを消す。

久々のハードスケジュールだった疲れが出たのか、ディアッカは早々に眠気に襲われた。

 

 

 

しばしの休息。

今このときだけは、よい夢を。