「クルーゼ隊長」

ディアッカはクルーゼの居る司令室に入った。

一応最初に連絡はしておいたが、その報告とキラの診断書を手渡すためだ。

「ディアッカ。キラの具合はどうだったんだね?」

「はい、ドクターの診断では全治1週間とのことです。診断書を預かってきました」

ディアッカは手元の資料をクルーゼに渡す。

それを見たクルーゼは思ったほどひどいものではなかったとほっとするも、それをディアッカの前には出そうとはしなかった。

「キラの様子はどうだ?」

「やはり、1週間も動くなというのは無理のようですね。本人かなり不満そうにしていましたし、注意が必要かもしれません」

「そうだな」

キラは自分のこととなると、とことん無茶をする傾向がある。

人の怪我はうるさいと思うほど心配するくせに。

「私からも注意しておくが、少し気をつけておいてくれ」

「分かりました」

それにて退室し、訓練中のイザークたちに合流しようと体術用の訓練室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「ディアッカ!キラの様子はどうだったんだ?」

ディアッカが入ってきたのを目ざとく気づいたイザークがすぐに近寄ってきた。

それに気づいたアスランとニコルもこちらに近づいてくる。

どうやら、今は他のメンバーの番であって、イザークたちは小休憩になっていたらしい。

「全治1週間の捻挫。昨日のが悪化したらしい」

「昨日の?ちゃんと冷やさなかったのか?」

「らしい。かなり腫れちまってたからな。今は医務室で大人しくしているはずだ」

「こんなことなら、昨日ちゃんと手当てをしてあげればよかった」

後悔したようにつぶやくアスラン。

キラの大丈夫をあてにしたのが悪かったのかもしれない。

それはニコルとイザークも同じらしく、しまったという表情を見せる。

だがこれに関してディアッカ自身、ちょっと厳しいかもしれないがキラの自業自得と考えている。

軍人たるもの、自分の体は自分でちゃんと管理しなくてはこの長い戦争を生き抜くことはできないはずだ。

それはアスランとイザークもよく分かっているはずなのだが、どうにもキラに弱い二人はそんなことにも頭が回らないらしい。これが他の連中ならば散々な言葉でののしるか無視するだけのくせに。

このクルーゼ隊のアイドル的存在といっても過言ではないキラは、少々・・・いや、かなり甘やかされているから。

それがたとえ自他共に自覚がなくとも、だ。

この1週間の間、アスランとイザークが(もちろん、ニコルもだろうが)キラを存分に甘やかすのは間違いないだろう。

それを思うと、これからの1週間、ディアッカは気の重くなる気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練後、アスラン達はすぐに医務室へと向かった。

ちょうど一眠りして起きたばかりだったキラは、訓練後の彼らを笑顔で迎えた。

「大丈夫なのかい?」

「うん。熱も引いたよ」

そう言って微笑むキラの元気そうな姿に、ほっとする。

キラはというと、アスランたちの周りをキョロキョロと見回した。

「どうかしたか?」

「ディアッカは?」

「あいつならまだ訓練室だ。遅れてきた分まだ誰かに付き合ってもらっているらしい。それと、格納庫へバスターのOSを見に行くとも言っていたぞ」

「そう」

ドクターからの許可が下りたので、キラはアスランたちの手を借りて部屋へと戻った。

さすがにディアッカのように抱き上げるといった行動を平気でとるものはなく、キラは松葉杖を借りて部屋へと戻った。

「ディアッカから聞きました。全治1週間ならその間無理しないでくださいね」

「完治するのにそんなにかからないよ」

「ドクターの見立てだ、間違いはないだろう」

キラは嫌層ながらもしぶしぶとうなづいた。

それからしばらくなんでもない話をしていたが、さすがに消灯時間が迫ってくるとアスランたちはキラに安静にしているようにと厳重注意をして各自部屋へと戻っていった。

だが、アスランたちが戻ってしまったあとも、ディアッカだけはキラの部屋を訪ねてくることはなかった。

夕飯は怪我を心配したアスランたちが部屋まで持ってきてくれたので食堂へも行ってはいない。

結局、キラはお礼も何も、ディアッカには何も告げることができなかった。

「キラ、入るぞ」

「あ、お兄ちゃん」

部屋の鍵を遠隔操作で開くと、すぐにクルーゼが部屋へと入ってきた。

椅子から立ち上がろうとするキラをさえぎって、クルーゼは近くの椅子に腰掛ける。

「捻挫、大丈夫なのか?」

「ん、平気。だいぶ腫れも引いたって」

そういって右足を撫でる。包帯を巻いていても腫れているのがわかる右足は、やはり痛々しいものがあった。

先ほどドクターの所を訪ねた限りでは、それほど重症というものではないらしい。

あくまで、骨などに異常がない、という意味での重症だが。

「無理は禁物だ。今日から1週間は体術などへの訓練は禁止。キラにはプログラミング中心の仕事を手伝ってもらうことにしたから」

「手伝いって、お兄ちゃんの?」

「私のものもあるし、整備士たちの中でぜひキラに見てほしいプログラムがあるそうだ。それに手を貸してやってくれ」

「・・・・分かった。とりあえずは一人で歩けるようになるまで大人しくしているよ」

「そうしてくれ」

何もせずにじっとしていろなどといっては、キラは必ず無理をするだろうから。

何か他の仕事を与えて、そちらを優先することを軍の命令として言い与えれば、そうそう無茶をすることもないだろう。

「ねぇ、お兄ちゃん?」

「なんだ?」

「・・・・ディアッカ、今どうしているか分かる?」

「ディアッカ?」

ディアッカならキラを医務室まで運ぶために少々遅れてきていたが、その分きちんと終了したあとにもその分続けていたようだ。

それを最後まで見ていたのは、他でもないクルーゼだ。

彼は『赤』の中で特質目立つような才能を持ったコーディネーターではないが、細かい配慮と一つのことをきっちりと成し遂げるという点に関してはクルーゼ隊の『赤』の中では一番だろう。

「最後に1本手合わせをしたあと、この後格納庫でバスターのOSを見ると言っていたが?」

「そっか・・・」

なんとなく残念そうで、ほっとしたような表情のキラ。

そんなキラに、クルーゼはどうしたのかとたずねた。

「んと・・・ね。医務室に連れて行ってもらったりいろいろ迷惑かけたのに、お礼言えてないんだ。アスランたちとは一緒に来なかったし、僕も食堂言ってないから結局ディアッカに会えてなくて」

「別にそれぐらいで何かをいう人物ではないだろう。ちゃんとお礼を言うつもりがあるのならば、明日以降いくらでも会うチャンスがあるのだからその時にちゃんと言えばいい」

「そう・・だよね」

なんとなく納得した雰囲気ではないキラに、クルーゼはため息をつく。

この子は自分が納得しなければてこでも動かない性格をしている。

かといって、それを解決に導くためにこちらから手を差し伸べすぎると、それを払ってまで自分ひとりで解決しようとするのだから。

こういうときは、本人に任せるのが一番いいだろう。

「さて、そろそろ私も部屋に戻る。何かあったら連絡をよこしなさい」

「はい。今日はすいませんでした」

ぺこりと頭を下げるキラを撫でてから、クルーゼは部屋を出た。