「まだ起きてこないのか?」

とっくに気象時間を過ぎているというのに、キラがいつまでたっても食堂に姿を見せない。

普段ならば誰よりも先に来てアスランたちを待っているはずなのに。

「ちょっと様子を見てくるよ」

「待てアスラン、それなら俺が行く」

「・・・・俺が言い出したんだけど?」

双方、自分が行くと言い張って聞かない。

というよりも、寝起きかもしれないキラの部屋にライバルであるお互いを行かせたくはないと意地になっているようだ。

「二人で行けばいいのに」

「こいつらにそんなこと言ってもしかたないだろ。埒明かないみたいだから、俺が行ってくるわ」

「そうしてください。あの二人は僕が何とかしておきますから」

「頼む」

 

 

 

 

 

 

 

そのころ、キラは自室に居た。

といっても、別に寝坊したわけではない。

「・・・痛い・・・・」

立ち上がろうとするだけで右足に激痛が走る。

昨日捻挫した場所が一晩たった今、ひどく悪化してしまったようだ。

忠告されたにもかかわらず足を冷やさずにそのまま寝てしまったのが悪かったらしい。

「どうしよう」

痛みを我慢してブーツを履いたまではよかったが、逆に強く圧迫されてしまって足首が脈打っているのがわかる。

これでは、今日一日秘密ですごすというわけにもいかない。

と、そのとき、部屋をノックされた。

「キラ〜?起きてるのか?」

「ディアッカ」

恐らくはいつまでも現れないキラを心配して来てくれたというのは想像が付く。

まずい・・・。

このままだったらディアッカに気づかれてしまうかもしれない。

「キラ?」

いつまでも返事がないキラを不振に思ってか、再度ノックが繰り返される。

「ま、待って」

大丈夫・・だよね。

なんとかそう自分に言い聞かせてキラは扉を開けた。

「おはようディアッカ」

「おう。なんだよ、起きてるんだったらさっさと出てこいよ」

「ちょ、ちょっと寝坊して」

「ふ〜ん。まぁいいや。それよりもう準備できているならさっさと飯食いに行こうぜ」

「うん」

なんとかごまかせたと思いディアッカと共に部屋を出たキラだったが、ふとクルーゼに提出する書類を部屋の中に置き忘れてしまっていることを思い出した。

「あれの提出、あさってじゃなかったか?」

「うん。でもちょっとお兄ちゃん・・・じゃなかった、クルーゼ隊長の意見も聞いておこうと思って。昨日仕上げたんだし、せっかくだから」

そう行ってディアッカに断ると、すぐに部屋の中に入って書類を取りに戻る。

だが、てっきりおいてあると思っていたパソコンディスクの上に書類は見当たらなかった。

「あれ?」

確か昨日仕上げてから、ここでバインダーにとめて・・・。

昨日の夜の行動を思い起こす。

確か、ようやく完成させた後にシャワーを浴びてイザークから借りている本を読んで。

その後・・・

「あ、そうか」

キラがベッド脇のサイドテーブルに近寄りその引き出しを開ければ、そこにはちゃんとバインダーにはさまれた書類が出てきた。

昨日、最終チェックをしようと思ってこっちに持ってきたんだった。

「キラ」

ようやく書類を探し出せたと思ったら、頭の上から声が降りてきた。

驚いて振り返ると、すぐ後ろにディアッカが立っていた。

「ディア・・・・」

「足、どうしたんだ?」

「え?」

先ほどからどうも様子がおかしいと思っていたディアッカだったが、キラの様子をみて足を引きずっていることに気づいた。

「別に、なんでもないよ?」

それ以上怪我をしているのを悟らせないように必死で笑顔をつくる。

だが、それくらいでごまかせるほど、ディアッカも甘くはなかった。

よりいっそうキラに近寄ったかと思うと、なんの造作もなく怪我のない左足を払う。

「!?」

驚いたのもつかの間、キラは後ろのベッドへと倒れこんでしまった。

右足に辺に体重がかかってしまったようで、激痛が走る。

「っ!」

「そんなんで何が大丈夫なんだよ」

キラの足元にひざまずくと、右足を軽く掴む。

「いたっ」

「ちょっと我慢していろよ」

そういうと、キラのブーツを取り去る。

「すごい腫れているな」

その部分は真っ赤に腫れて、これでは歩くどころかブーツを履いているだけで圧迫されて痛かっただろうに。

「これ、昨日の捻挫だな?」

「うん・・・・」

「足冷やしとけって、昨日アスランたちに言われてなかったか?」

「・・・・言われた」

けど、忘れてたんだもん、と零すキラはなんとなく罰が悪そうに顔を背ける。

「これじゃ、しばらくは訓練とかには参加しないほうがいいな」

「え?」

「こんなんでできるわけないだろうが。しかも、今日の訓練体術だぜ?できると思うのかよ」

慎重に捻挫の具居合いを確認していたディアッカがそう言って下から身ら見つける。

普段の飄々としている彼らしくなく、まじめに怒っているようだ。

そんな様子に、何もいえなくなる。

「ちょっと待っていろ」

ディアッカはそういうと部屋を出て行ってしまった。

キラはといえば、一人残されてどうしたらいいのか分からずにベッドに腰掛けたままじっとしている。

勝手に動いたりすれば、さらにディアッカの怒りを誘うことになるだろうから。

そんな風に考えていたら、思ったよりも早くディアッカは部屋に戻ってきた。

無言で近づいてきたと思ったら、キラの膝の下と背中に腕を回し、体を軽々と抱き上げた。

「ちょ、ちょっとディアッカ!」

「暴れるなって。隊長の許可は取ったから医務室連れて行くだけだ」

「それなら自分で歩く!」

「怪我してるお前にゆっくり歩かれたんじゃ、俺が遅れるんだよ」

どうやらディアッカはキラの怪我のことと、キラを送り届けるために訓練を少し遅れるという連絡を入れてきたらしい。

そしてディアッカは大人しくなったキラを抱えたまま医務室へと向かった。

 

 

 

 

 

「これはずいぶん派手にやったねぇ」

ドクターはキラの腫れている右足を見て、呆れたとも取れるため息をついた。

どうしてこんなになるまでほうっておいたのだろうかと。

「どんな具合だ?」

「全治1週間ってところだね。まぁ、見たところ骨に異常はないようだし、極力激しい動きをしなければ大丈夫だろう」

そういってキラの足にタオルを巻き、その上から氷水の入った袋を乗せる。

「しばらくこうして冷やして、あとはシップを1日に3・4回変えるのを繰り返せば大丈夫だろう」

「だってさ、キラ」

「1週間も、ですか?」

「もっと長いほうがいいかい?」

これでも短いほうなんだよ?とという目でにっこりと笑い返されてしまっては、キラとしては何もいえない。

「・・・わかりました・・・」

「ということで、この診断書をクルーゼ隊長に渡してくれるかい?」

そう言ってディアッカに手元の診断書を差し出す。

それを確認するようにディアッカも内容を読む。

「そうそう、彼女捻挫から少し発熱しているみたいだから、しばらくここで預かっているよ。訓練が終わったら迎えに来てやってくれ」

「了解。んじゃ俺は行くから大人しくしていろよ」

キラの頭を軽く撫でて、ディアッカは医務室を出た。

 

 

 

その背中を、キラはじっと見つめていた・・・・。