本日夜6時から夏祭り!!

 

ザフト軍本部の広告板にそんな広告が張ってあった。

それを見たアスラン達の頭の中は、一つのことに関していっぱいになってしまった。

ずばり!誰がキラと一緒に夏祭りに出かけることができるか!

せっかくの夏のイベントなのだから、コレを期にキラとの仲を深めたいというのが本心だ。

だが、他の3人も自分と同じようにキラを狙っているはずだ。

先を越されないようにしなくては。

 

 

「みんなどうしたの?今日の訓練の成績、下がってるよ?」

一日の訓練終了後、キラが成績の一覧表を見せながら言った。

順位こそ変わっていないが、いつもを10とするならば、今日はその7ぐらいの成績といっていいだろうか。

いつも通りの成績を収めたのは、キラだけである。

「ちょっと調子が悪かっただけ。心配いらないよ」

まさか、キラをどうデートに誘うのかということに気が回っていて成績を落としたとはいえない。

着替えを終わらせた頃、休憩室にクルーゼが入ってきた。

5人はすぐに敬礼の形をとる。

「今日は少し調子が悪いようだな」

「申し訳ありません」

私用で軍務を怠ったということもあって、アスラン達は自己嫌悪にかられた。

「まぁ、調子が悪い日もたまにはあるだろう。今日の訓練は終了、各自休息を取るように」

「ありがとうございました」

クルーゼはそのまま部屋を出ようとしたが、

「あ、ちょっと待って」

とキラが呼び止めた。

訓練が終了したとあって、キラは「クルーゼの妹」に戻っている。

「どうした?キラ」

「お兄ちゃん、今日の夜なにか予定あるかな?」

「今日の夜?いや、別に会議などが入っているわけでもない。部屋で休むつもりだが?」

クルーゼは何を言い出すんだ?という顔をする。

反対に、アスラン達はまずい!と思った。

この後、キラがいいそうなことが、容易に想像できたからだ。

「今日近くで夏祭りがあるでしょ?一緒に行かない?」

やっぱり・・・。

「そういえば、アデスがそんなことを言っていたか。この季節、本部にいるのは久々だからな」

「うん。ねぇ、どうせ暇でしょ?一緒に行こうよ」

「そうだな」

クルーゼはちらっと4人を盗み見る。

全員、自分がキラを誘うつもりだったのに、というくやしそうな表情が読み取れて、思わず苦笑してしまう。

軍人がコレほど分かりやすいのも問題なのだが。

「アスラン達を誘わないのか?」

「そのつもりだったんだけど、なんか疲れているみたいだし。ね?だめかな」

「わかった。後で、・・・そうだな、6時に部屋に迎えに行く。用意をしておきなさい」

「うん!じゃさっそく準備しようっと」

おつかれさまでした〜、と言いながらキラは部屋をでていった。

後にはクルーゼとアスランたちだけが残った。

なんともいえない空気がただよう。

その沈黙を破ったのは、やはりクルーゼだった。

「欲しいものを手に入れられないとは。まだまだ未熟だな」

そう言葉を残し、クルーゼもまた去っていった。

 

 

「お兄ちゃん、早く早く!」

「分かっているから、そう慌てるな」

祭りの音が届く範囲まで来ると、キラは早く行きたくてうずうずしてくる。

逆に、クルーゼはゆっくりと進む。

今のキラは浴衣姿だ。

瞳より少し淡い色の紫に、白い蝶がいくつか描かれている。

これはヤマト夫人の手作りだそうで、祭りがあると知った夫人が送ってきてくれたらしい。

「せっかく送ってきてくれたんだから、着なくちゃかわいそうでしょ?」

浴衣を褒めてくれたクルーゼに、照れたように、それでいてとても嬉しそうに微笑んだ。

祭りの入り口までくると、さすがに年一回ということもあって、すごい人だ。

「すごい人・・・」

「そうだな、軍の人間も結構来ているようだな」

こんな日に夜勤任務に当たった人はかわいそうだと、キラは思う。

だって、せっかくの夏のイベントだ。参加できないのはかわいそうだ。

キョロキョロと周りを見回すキラの手を、クルーゼはそっと掴んだ。

「?」

「お前のことだ、迷子になるといけないからな」

一瞬キョトンとしたキラだが、にっこり笑うとそのまま手ではなくクルーゼの腕に抱きついた。

「どうせならこの方がいいv」

そんなキラに微笑みながら、クルーゼはキラと一緒に祭りの渦中へと入っていった。

 

 

「暇だ・・・・・」

アスランは部屋のベッドの上でごろりと寝転がりながらそうつぶやいた。

もう6時は過ぎた。キラとクルーゼ隊長は祭りへと行った頃だろうか。

もう少し早く誘うことができれば、今頃キラと一緒にいけたのになぁ。

ゴロゴロしていても暇なだけだと思ったアスランは、せっかくだから夏祭りに行ってみようと思い立った。

もしかしたら、あっちでキラと合流できるかもしれない。

二人きりは無理でも、キラとの思い出を作れるということに変わりはないだろう。

そう思い立って、着替えて部屋の外に出ると、そこにはイザーク・ディアッカ・ニコルが集まっていた。

「あ・・・」

「なんだ、やっぱり考えることはみんな同じなんだな」

私服を着ているところからみて、3人もアスランと同じ考えだったのだろう。

「行くか・・・」

誰ともなしにつぶやき、アスラン達は本部を後にし、祭りの会場へと足を向けた。

 

 

 

「すっごい人ですねぇ」

ニコルは関心したような、あきれたような声でつぶやいた。

想像以上の人の多さに、アスラン達もちょっと引き気味。

これではキラを探し出せるかどうか、不安になってくる。

が、それほど心配することもなかったようだ。

「お兄ちゃん、あれやろう!」

前方で、射的屋を指差してクルーゼを引っ張っているキラの姿がすぐに目に付いたからだ。

4人はキラの浴衣姿に目を奪われた。

普段の洋服や制服とはまた一風変わった色気があって、かわいさが増しているような気さえしてくる。

キラはアスラン達の存在に気づくことなく、出店の一つ一つを見て回っている。

「楽しそうだなぁ」

クルーゼといるときのキラは、自分達といるときとはまた違う表情をする。

兄弟ゆえなのか、それとも、信頼している証拠なのか・・・・。

そんなキラの顔を独り占めすることができるクルーゼが、4人は羨ましくもあった。

「あ、アスランたちだ」

キラがこちらに気づいて、クルーゼと腕を組んだ状態でアスラン達に近づいてくる。

それをみたアスラン達の表情も、また複雑だ。

「?どうしたのみんな?」

「なんでもないよ。それより、その浴衣どうしたの?」

「ヤマトの母様が送ってくれたの。どうかな?」

両手を広げて、浴衣が見えやすいようにする。

「似合うよv」

「とってもよくお似合いです」

「かわいいぞ」

「似合ってる」

4人からの賛美をうけ、キラは嬉しそうににっこりと微笑む。

 

 

それから1時間ほど、アスラン達を加えた6人でお祭りの会場を回った。

と、クルーゼの携帯に連絡が入った。

「アデスからだ。なんでも急な召集がかかったらしい」

「私達もですか?」

「いや、私だけのようだ。キラたちは今日はもう帰りなさい」

「え〜!まだお祭り続くよ〜!」

いかにも不服!という風にキラがクルーゼに言う。

「もう全てまわっただろう。大人しく戻りなさい。キラを頼んだぞ」

「「「「はい!」」」」

そういい残して、クルーゼは別の方向へと歩き去ってしまった。

「ほら、キラ今日は戻ろう?」

「え〜・・・」

「文句言わないで・・・ね?」

「うん・・・・」

しぶしぶといった感じで、キラはアスランたちに囲まれて本部へと帰ることにした。

 

 

 

ヒュー        ド〜〜〜ン

 

 

帰る途中、遠くで花火が鳴り響く。

どうやら祭りもいよいよクライマックスへと近づいてきたようだ。

「きれ〜」

キラが上を見ながら歩いて、そうつぶやいた。

それにつられるように、4人もまた上を見た。

「ずいぶん本格的な花火みたいですね」

「ああ。なんでも、花火職人を呼んでいるようだしな」

「すっごいねぇ」

「おいキラ、あんまり上ばっかり見て歩いていると・・・」

ディアッカがそういったのが早いか、キラは浴衣のすそに足を取られて見事に転んでしまった。

上ばかりを見ていて注意が下までいかなかったらしい。

「いった・・・・・」

「大丈夫?」

慌ててかがむと、キラがはいていた草履の鼻緒が切れてしまっていた。

「あ〜、どうしよ・・・・」

「これぐらいなら直せるけど、キラ、立てる?」

アスランが手を貸して立ち上がらせようとした瞬間、キラは顔をしかめた。

「どこかいためたか?」

「足、ひねったみたい・・・・」

そういって、左足首をさする。

花火の明かりを頼りに見てみると、少し腫れているようだ。

「歩ける?」

「たぶん・・・、ごめん、肩貸してくれるかな」

アスランとイザークの肩を借りてなんとか立ち上がったキラだったが、やはり歩くのはつらそうだ。

数歩進んだだけで立ち止まってしまう。

「無理みたいだね」

「しょうがねぇな、ほら」

ディアッカはキラの前にしゃがむと、そのまま背を向けた。

「え?」

「え、じゃないよ。乗れっていってるの」

「で・・・、でも」

「いいから、早くしろって」

「うん・・・」

キラはディアッカの肩にそっと手を乗せると、そのままディアッカの背に乗る。

ディアッカは難なく立ち上がると、そのまま歩き出した。

アスラン達が慌てて後を追う。

「ちょ、ディアッカ!背負うんなら俺が」

「アスランやイザークより俺の方が力あるだろうが。このほうが効率がいいしな」

ディアッカの言うことは正論で、アスランもイザークも何もいえなかった。

もとより、キラより小さいニコルならばなおさらだ。

「ごめんねディアッカ、重くない?」

「姫さん軽いから大丈夫だ。それより、ちゃんとつかまっていないと落ちるぞ」

「あ、うん」

キラはディアッカの首にそっと腕を巻きつけた。

体が密着してディアッカのぬくもりが伝わってくる。

なんとなく、気持ちいい・・・・。

「花火ももう終わっちゃいましたね」

キラのことでごたごたやっている間に、花火は打ち終わってしまったらしい。

祭りの会場から大分離れたために、辺りは静かで夏の虫の声だけが響いている。

「でも、意外と楽しかったですよね」

「この祭りに参加するのは初めてだったからな」

「キラは一番何が楽しかったの?・・・・・キラ?」

返事のないキラの顔を覗くと、なんとディアッカの背で眠ってしまったようだ。

「寝てる・・・」

「みたいだな」

キラを背負っているディアッカは、キラの重さが増したことから寝たことが分かっていた。

さすがにはしゃぎ疲れたというところだろうか。

ディアッカはキラを起こさないようにキラの体を背負いなおした。

 

今はただ、よい夢を。

 

 

〜あとがき〜

夏!といれば夏祭り!

先日、私も行ってきました、夏祭りv
花火がとっても綺麗で・・、カステラやお好み焼きがおいしかったv
これぞ夏の風物詩というものでしょうか。
雨ばかりで花火があるか心配だったけど、特大の花火を見ることができました。
キラたちも、こんな日だけは戦争のことなど忘れて、ただ楽しんでくれたのでしょうね