キラがクルーゼ隊に入隊してからはや3ヶ月がたった。

入隊したての頃はイザークのように女だからといって侮っていたりしたものもいたが、最近ではキラの実力を知りそういった態度を取るものもほとんどいなくなった。

Gパイロットの4人もキラとは仲良くなっている。

幼馴染のアスランや人懐こいニコルだけでなく、あのイザークやディアッカとでも親しそうに笑って話している様子は、ヴェサリウスのクルー達を驚かせた。

自然、この5人は一緒に行動することが多くなった。

キラが来る前はアスランとニコル、イザークとディアッカの2人組に別れていて、一緒にいるところなどめったにみなかったのに、だ。

それだけ、キラの影響は大きかったということだろう。

だが、反面問題がなくもない。

今まで女気のなかったヴェサリウスの中で、キラはまさに高嶺の花。

笑顔に誘惑されて、キラを襲おうとするクルーがちょくちょくでてくるようになった。

そのたびにアスラン達がキラに気づかれないようにして処分してきたのだが。

ある日、艦内に妙な噂が流れた。

ここ何日か、キラが毎夜、クルーゼ隊長の部屋に通っているということだった。

それも消灯時間が過ぎた夜半に、だ。

実際に夜中艦内を歩いているキラを見ているクルーや、クルーゼと話しているキラを見かけているというクルーもいる。

「どういうことだ？」

「クルーゼ隊長が、キラのような子供に手を出すというのか？」

「キラさん、かわいいですからねぇ」

「クルーゼ隊長が相手じゃ、俺達いつもの手は使えないぞ？」

いつもの手。

キラを守るために、ディアッカたちは言い寄ってきそうな素振りを見せてきたクルーに、キラに近づかないようにと脅しをかけていた。

時には腕にものを言わせて。

「だが、まだ事実かどうかも分かっていないんだろう？」

「それはそうだが」

「でも、火のないところで煙は立たないっていいますし・・・」

「確かめてみるのが一番じゃないか？」

「「「どうやって？」」」

問い返されて、そのまま悩みこむ。

問題はそこ。

いきなりキラに向かって隊長と付き合っているのか？

などとは聞けるわけがない。

「やっぱり、夜中に何かやっているのを突き止めるしかないんじゃないか？」

「それしかないか」

ということで、決まった『キラの真実を確かめよう作戦』。

決行は今日の夜００００時。

その日の夜、アスラン達がそんな計画を立てているとは知らないで、夜中、キラはこっそり自室を抜け出した。

もう消灯時間を過ぎているので廊下には誰もいない。

着ているだけで目立つダークレッドの制服は今は来ていない。

ジーンズにＴシャツといった、きわめてラフな格好。

キラは廊下に誰もいないことを厳重に確認してからそっと部屋を抜け出した。

（おい、本当にでてきたぞ、キラのやつ）

（じゃ、噂は本当だったっていうことですか？）

（まだそうと決まったわけじゃないだろう）

（ああ、とにかくこのまま後をつけるぞ）

キラの横の部屋であるアスランの部屋に潜んでいた4人は、キラに気づかれないように細心の注意を払いながらキラの後をつけた。

各要所要所で人がいないか確認しながら進んでいるキラが向かった先は、やはりというかなんというか。

クルーゼの私室であった。

軽くノックすると中からクルーゼが出てきてそのまま迎え入れる。

そうすると、すぐに扉は閉まってしまう。

それを見た4人は呆然とつぶやくのだ。

「やっぱり噂は本当だったというわけですか？」

「クルーゼ隊長がロリコンだったとは・・・」

「おい、イザーク。それは言いすぎ」

「でも、事実そうなるんだよな」

こんな夜中に男女が一緒の部屋にいてやることと言ったら、一つしかないだろう。

彼らコーディネータは少年ではあるが、法律では立派な成人だ。

そんなことも分からないほど、純真ではない。

「で、どうするんだ？これから」

「どうするって？」

「キラがクルーゼ隊長の部屋に通っていることは噂どおりだったということだ。それで、どうする？」

「相手が隊長じゃ、連れ帰って説得、というわけにもいかないですからねぇ」

実は4人とも、キラには思いを寄せているのだ。

だが、戦争が終わるまでは全員抜け駆け、手出し一切無用という協定を結んでいる。

だからこそ、4人は一致団結して今日までキラを守ってきたのであり、他のクルーの抜け駆けを一切認めなかったのである。

「でも、クルーゼ隊長とキラさん、一体いつからなんでしょうか」

「付き合っているのがか？」

「最初から、なんてことはないだろうなぁ」

「いや、わからないぞ。最初から隊長はキラには甘かった」

キラが入隊したころ、キラのクルーゼに対する口のきき方に自分たちはそれとなく注意をしていた。

でもキラはそれに反省するでもなく、公式の場ではきちんと話すものの、普通に会ったりするときなどは少し（かなり？）慣れなれしすぎるところがあった。

もしかしたら、入隊前からの知り合いだったのではないかとも思っていたが。

「そこで何をしている？」

と、4人はいきなり声を掛けられた。

恐る恐る振り向くと、クルーゼの私室の扉は開かれており、そこにはきちんと制服を着込んだクルーゼが腕を組み立っていた。

「クッ、クルーゼ隊長！」

4人はあわてて敬礼を取る。

「何をしている、と聞いたのだが」

「それは・・・・・」

キラの後をつけてきた・・・・、などとはいえるわけがない。

どうするべきか。

「・・・・まぁいい。それより、君達は今暇かな？」

「あ、はい。何か？」

「この部屋の中でキラ・ヤマトが寝ている。私はブリッチへと顔を出さねばならないから、その間彼女についててくれ」

そういうだけ言うと、返事もまたずに部屋の扉を開けたままクルーゼはブリッチのある方向へと進んだ。

残された4人はなんともいえない状態だ。

「ついててくれって・・・」

「どういうことなのでしょうか」

「普通、自分の女が眠っているところを他の男に見られるの、嫌なはずなんだけどな」

「我々は眼中にない、とでも考えているのではないか？」

わけがわからない、という風な4人もとりあえずは部屋の中に入る。

4人が扉を閉めると同時に、自動的に鍵がかかる。上官室はそういう機能までついているのだ。

何かあったときのために、敵の侵入を阻止する意味で。

部屋の奥へと進むと、クルーゼが言っていたようにキラがクルーゼのベッドですやすやと眠っている。

まさか、情事のあとじゃないだろうな・・・・・。

という考えが頭をよぎったが、あんな短い時間にそんなことができるわけがなく、眠っているキラにもそんな形跡は見られなかった。

そのまま立ち尽くしているのもなんなので、4人はそれぞれ近くにあったソファへと腰を下ろした。

見た目平然としている4人だが、本当は頭のなかは混乱していた。

なぜ、キラはこんな夜中にクルーゼの部屋を尋ねたのか。

なぜ、キラはクルーゼの部屋にきてい眠っているのか。

なぜ、クルーゼは自分たちにキラを預けていったのか。

「ん・・・・・」

考え込んでいる余人をよそに、その気配に気づいたのか、キラの目がうっすらと開かれる。

「ラウ・・・・・・ちゃん？」

ラウちゃん！！！！？？？？

キラの口から発せられた言葉に、思わず4人は目を見開く。

「どうしたの・・・・？」

寝ぼけているのか、目の前にいるアスランをクルーゼと間違えているらしい。

目を開くか開かないかという感じでボーっとしている。

「えっと、キラ？」

「・・・・・・え？」

アスランの声にようやく正気に戻ったのか、キラはがばっと体を起こした。

その途端、キラは苦しそうに腹部を押さえた。

そのしぐさに、アスランはキラを覗き込む。

「キラ？大丈夫？」

「あ、うん。それより、どうしてみんながここに？」

この部屋、確かクルーゼ隊長の部屋だよ？

キラが部屋の中を見渡してもクルーゼの姿はどこにもいない。

それに、どうしてアスラン達がこの部屋にいるのか。

「クルーゼ隊長ならブリッジにいった」

「俺達にキラについててやってくれっていってな」

「そうなの？」

キラが不満そうにしながらベッドの上に座りなおした。

「えっと、キラさん聞いてもいいです？」

「なぁに？ニコル」

「どうしてキラさんはこの部屋に来ているんですか？」

「あ〜、それはね・・・・・」

キラはしゃべりにくそうに顔を背けたが、4人はじ〜とキラを見つめている。

「キラ、起きたのか？」

そのとき、助け舟とばかりにクルーゼが部屋に戻ってきた。

「あ、おかえり」

「ただいま。どうだ？具合の方は」

「今のところは平気」

「そうか」

「あの・・・、クルーゼ隊長？」

「なんだ、アスラン」

「キラの具合とは・・・？」

別段、日中のキラはどこが具合の悪いところなどは対してなさそうに見える。

それも、連日キラはクルーゼの私室に来ているという噂なのだ。

病気か何かが原因でクルーゼの部屋を訪ねているのだというのなら、自分たちがそれに気づかないのはおかしい。

「ああ、それは・・・・」

「わ〜っ！ラウお兄ちゃん言っちゃダメ！！」

「「「「・・・・・は？」」」」

「あ・・・・」

キラは自分が言った言葉を反芻して、言ってはいけないことをいったのだと気づき自分の口を押さえた。

「キラ？今、なんて・・・・」

「確か、『お兄ちゃん』って言ってましたよね」

「言ったよな」

「言ったな」

４人の視線は２人の間をふらふらとさまよった。

クルーゼはあいかわらず仮面で表情を読み取ることはできないが、キラはしまったという顔で額を押さえていた。

「あ〜あ、バレちゃった」

「お前の失態だな」

「む〜、お兄ちゃんだって悪いじゃない」

「キラのミスだ。私のせいにするんじゃない」

仲良く兄弟げんかを始めた二人。

一番最初に頭の整理をつけたのは、イザークだった。

「クルーゼ隊長、キラがあなたの妹だとういうのは、本当なのですか？」

「ああ。育った環境は違うがね。間違いなくキラは血の繋がった妹だ」

なんでも、キラが生まれて間もないとき、キラとクルーゼの両親は事故死したのだとういう。

その当時、すでにザフト軍入隊が決まっていたクルーゼは遠縁で子供のいなかったヤマト夫妻にキラを預けた。

「では、今回キラがクルーゼ隊に入ったのは、クルーゼ隊長の配慮なのですか？」

「まあそうなるな。ザフトに入ると言って聞かなかったからね。目の届かないところよりは届くところのほうが安心だろう？それに、キラにはクルーゼ隊に入るための資格は十分にある」

それには４人もうなづいた。

会ったばかりの頃にこのことを知っていたのならば、身内の七光りだといってキラを追い出していたかもしれない。

しかし、今はキラのことをよく知っている。

パイロットとしても、プログラマーとしても自分たちに引けをとらないぐらい優秀だ。

クルーゼと血が繋がっていると聞いて、ある程度うなづけるところもある。

キラがクルーゼとの関係を言わなかったのも、自分の実力を知られていないうちに自分を否定されるのが嫌だったからだろう。

「それで、どうしてキラさんは夜になるとこの部屋に？」

今日だけじゃないですよね、とニコル。

「えっと、ま、気にしないで？」

笑顔でごまかそうとするキラ。

でも、ごまかされたないのがこの４人だ。

キラが答えそうにないとしると、４人は視線をクルーゼへと向けた。

「女性特有のものだからな。月に一度のことだ」

「「「「？」」」」

「お兄ちゃん！！」

女性特有のもの。

月に一度。

キラは顔を真っ赤にしながら、クルーゼを睨みつけた。

だが、それに対しクルーゼは涼しいお顔。

４人も、キラがなぜ具合が悪かったのか、ある程度想像がついた。

「あ・・・、そういうことか」

「確かに女性ですからね、キラさん」

「そんな痛いもんなのか？」

「俺が知るか」

４人の言葉に、バレたことを悟ると、キラはシーツを被って隠れてしまった。

その子供みたいな行動に、クルーゼは苦笑し。

「ということだ。今日はキラはこの部屋に泊まっていく。各自部屋に戻って体を休めるように」

「わかりました」

それぞれ座っていたところから立ち上がってクルーゼに敬礼するとそのまま部屋を出ようとした。

「じゃ、キラ。僕ら戻るからね」

「キラさん、お大事に」

「ちゃんと寝てろよ〜」

「無理はするなよ」

顔は出さないまでも、シーツから手をだし４人に振る。

扉が閉まった頃に、キラはまたもぞもぞとシーツの中から這い出した。

「お兄ちゃんの馬鹿・・・・」

そうつぶやいてキラはクルーゼを睨んだ。

そんなキラの頭を撫でると、そのまま寝るように促す。

自分を撫でてくれる手が心地よくて、キラもまた再び眠りに付いた。

あとがき

妹シリーズ３-２です。
う〜、なんか書いているうちに私もおなか痛くなってきちゃいました・・・（苦笑
月に一度でも、これってつらいんですよねぇ。
女にしか分からない痛みってやつ？

だからってキラはなぜクルーゼ隊長の部屋で寝ているのか？
私だってわかりません。
ただ、なんとなくこんなんだったらいいのにな〜、と。

まだ３−１verの方がよかったのかも。

キラがクルーゼの妹！
本当だったら仲むつまじい兄弟なのではないでしょうかね。
今回はキラがただ話をするためにクルーゼの部屋を訪れておりますが、もう一案の方が３-２の方にありますので、よろしければそちらもどうぞ。