「どういうことなのですか、クルーゼ隊長!」 アスラン達が格納庫へ入ると、ちょうどイザークが何事かをクルーゼに訴えているところだった。 「どうとは?イザーク」 「あのキラという女のことです。女などは戦闘においては足手まといになるだけです。それなのに、なぜ入隊を許可なさったのですか!?」 アスランとニコルは、イザークの少し離れた後ろで見守っているディアッカの元へ向かった。 「何があったんです?ディアッカ」 「どうもこうも。隊長が来られてからずっとあの調子さ。でも、隊長はまったく相手にしていないみたいでさ。どうやら、かなり気に入らないみたいだぞ、あのキラっていうやつのこと」 ディアッカの言うとおり、イザークはクルーゼに、キラをどうして入隊させたのか、足手まといになるに決まっている。 などと、クルーゼに詰め寄っている。だが、クルーゼの方はまったく相手にしていなかった。 「まだ言っているの?」 と、そこに登場したのはキラ。 またもや気に障ったのか、ぐるっとキラの方を見て、イザークは固まった。 いや、イザークだけではない。 アスラン、ニコル、ディアッカ。 そのほか、格納庫にいた全ての兵士がキラへと視線を集中させている。 ただ一人、クルーゼだけが一人満足そうに笑みを浮かべてうなづいていた。 「キラ・ヤマト、ただいま出頭いたしました」 一人クルーゼに向かって敬礼をしているキラの服装は、アスラン達と同じダークレッドの制服を着ていた。 一部違うのは、キラが女性のため、ズボンではなく動きやすいようにスリットを入れたスカートを着用しているということ。 それが、キラの容姿に予想以上にぴったり合っていて、かなりかわいくなっているということ。 呆然としているもの、アスランを含め大多数。 「キラ、こちらへ」 「はい」 キラがクルーゼの横に立つと、改めて4人にキラを紹介した。 「もうすでに顔合わせは終わっているようだが、改めて紹介しよう。今日付けでクルーゼ隊に配属になった、キラ・ヤマトだ」 「キラ・ヤマトです。よろしくお願いします」 敬礼したキラにアスラン、ニコル、ディアッカはあわてて敬礼を返したが、イザークだけは納得いかないという風に腕を組んでキラを睨んでいる。 そんなイザークに苦笑しつつも、クルーゼはキラの紹介を続けた。 「キラ・ヤマトにはGのプログラミングのと、非常時のストライクのパイロットを担当してもらう」 「「「「ええっ?」」」」 確かに、今ストライクのパイロットは不在だが。 それをまさかキラにやらせるとは。 しかも、全てのGのプログラミングも担当するだと? アスランの記憶によれば、確かにコーディネータの中でも飛び出てプログラミングの才能はあったのは確かだ。 だが、Gをいじるにはそれなりの経験と知識が必要になる。 それも、プログラミングだけではなくて、実際にストライクにも乗るというのか? 「非常時だけ、ですか?」 アスラン達の驚きをよそに、キラは不平をもらす。 「通常の地球軍との交戦ならばGは4機あれば十分だ。あくまでストライクは緊急時のみの出動となる。いいかね?」 「・・・・了解しました」 まったく納得してはいない様子だったが、しぶしぶという感じでキラは返事をした。 だが、それに黙っていないのが、またしてもイザークだ。 「緊急時にこの女を出すのであれば、余計に邪魔になるだけです。それこそストライクをみすみす失うことにもなりかねません」 それにはさすがにキラもむっときたのか、イザークを睨みつける。 それに臆することもなく、イザークもまた睨み返す。 しばし、双方のにらみ合いが続いた。 まさに一触即発。 間に口を挟もうものなら、普通の兵士だったら一発でのされてしまうだろう。 「言ってくれるじゃない。僕だって、隊に入ったからには甘えは許されるなんて思ってはいない」 「実際に戦場に出たこともないのだろう?言っていられるのも今のうちだ。弱音を吐く前にやめたほうがいいんじゃないのか?」 「僕だって、赤を着る資格を得た者だ。ちゃんと自覚はある」 「本当に実力で得られたものならばな」 「言ってくれるじゃないか」 「もうやめろ、イザークもキラも。隊長の前だぞ」 これ以上ほうっておくと、際ほどのように暴力沙汰にもなりかねない。 そうなると、どれだけ優秀な兵士であろうと、男と女の差があるわけで。 キラに勝ち目がないことは目に見えて分かることだ。 「ならば、試してみるがいいだろう」 「隊長!」 「デュエル、ストライクの出撃を許可する。一度、二人で戦ってみるのもいいだろう」 クルーゼの提案に、イザークとキラは一も二もなく同意した。
「大丈夫だよ。そんなに僕って信用ない?」 「そうではありませんけど、イザークはかなりの実力です。気をつけてくださいね」 「わかっているよ、ニコル」 そういうと、キラはストライクのコックピットへと消えていった。 デュエルの方を見れば、イザークもちょうどディアッカとの話を終えてデュエルに乗り込もうとしているところだった。 イザークは強い。 日ごろ、訓練をともにしている自分たちが、それはよく知っている。 確かにGパイロットの中ではアスランがエースパイロットとして通っているが、イザークの実力は時としてアスランをも超えるときがある。 前エースと現エース。 実力の差は五分五分といったところだろう。 「それでは二人とも、検討を祈る」 クルーゼの言葉が、2機の出撃の合図となった。 「デュエル、イザーク・ジュール、出る!」 「ストライク、キラ・ヤマト、行きます!」
それからの2人の戦いはすばらしいものだった。 両者、実力には大差ないことは誰の目に見ても明らか。 イザークの出したビームをキラがよければ、キラの撃ったビームをイザークが避ける。 接近戦に持ち込めば、両者一歩も譲らない攻防戦。 それは時として優雅に。 それは時として激しく。 それは時として美しくといえるほどすばらしい戦闘だった。
とても短く感じた戦闘の結果は、双方ともに過度の損傷はなく、ストライクは右腕が、デュエルは左足の一部を焦がしていたものの、修理をするものとしてはたいしたことはなかった。 キラはストライクから降りると、すぐに後から収納されたデュエルの方へと近づいた。 デュエルのすぐ側には今降りたばかりであるイザークがたっていた。 「怪我はない!?」 「あ、ああ・・・」 キラのあまりの形相に、おもわずイザークは面食らってしまった。 今の今まで自分と戦っていたというのに。 その敵の心配をしてどうするというのか。 イザークは思わず苦笑してしまう。 「そう、よかった。で?僕の実力、少しは理解してもらえた?」 「そうだな、実力があるのは認めよう」 イザークにしてはめずらしく、素直に実力を認めた。 たとえ実力が自分と同じでも、それをなかなか認めようとすることがなかったあのイザークが。 向こうの待機室の方からアスラン達がこちらに向かってくるのがわかる。 「そう、よかった。それじゃ」 「え?」
アスラン達も、おもわず立ち止まってしまう。 左の頬が嫌に痛む。 触ってみて、その部分が熱を持っていることに気づき、ようやく自分がキラに殴られたということを理解した。 「な・・・っ」 「食堂の時のお返し。これで貸し借りなしだからね。これからよろしくね、イザーク・ジュール」 「こちらこそ、だな。キラ・ヤマト」 にっこりと微笑むキラに、イザークはにやりと笑って差し出された手を握り返した。
待機室に一人残っていたクルーゼがそうつぶやいたのを聞くものは、誰もいなかった。 |