「なんだ、客ってお前らのことだったんだ。元気だったか?」

先ほどの驚いた表情を消し去り、ディアッカは昔と同じように笑う。
いまだにその衝動から立ち直れず呆然とディアッカを見つめるキラを横目に、イザークは立ち上がるとディアッカの胸倉を掴み上げた。

「貴様!ここで一体何をしている!」
「何って、仕事に決まってんじゃない?」

そういいながら手元に持っている資料らしきものをひらひらと振ってみせる。

「お前らこそ、なにやってんの?」
「・・・・クルーゼ隊長の使いだ」
「ふ〜ん」

イザークの手を軽く押しのけるようにして外したあと、ディアッカは手元に持っていた資料をバルトフェルドに向かって差し出した。

「例のレジスタンスとの交渉資料。一応目を通しといてくれる?・・それと、なんだ、この匂い・・・」

資料を手渡して、先ほどから部屋の中に充満している妙な匂いに眉をひそめる。
その大元をたどると、キラが持ったままのマグカップがその発生源らしい。

「あんたはまぁ、あきもせず・・・」

やれやれ、といった感じでキラの持っていたカップを取り上げる。

「あ・・・」

一口それを飲んだ途端、ディアッカは眉をひそめた。

「どうだい?今回のは意外と自信作なんだが」
「豆焦がしすぎ。それに分量も多い」
「う〜ん、まだ及第点はいただけないか・・・」

がっかりした様子のバルトフェルドを横目に、ディアッカは部屋の備え付けのコーヒーメーカーに近づくと、量りもせずに手早くコーヒーを入れる。

「ほら、これなら飲めるだろ」
「・・あり・・・がと・・・」

キラは受け取ったそれに口をつけると、先ほどと同じ飲み物とは思えないほどに味が違った。
砂糖も、ミルクの量も。
まったくのキラが好きなままで。
それを覚えていてくれたディアッカに、キラは涙が出そうになる。

「どうせなら今から二人を案内してあげたらどうだい?地球は初めてなんだろう?」
「お、いいのか?んじゃ、1時間後に始まるレジスタントの会合、あんたが行ってくれるんだよな?なんせあっちは代表者でくるんだからこっちもそのぐらいの・・・」
「ああ、アイシャ。そういえばこの後整備主任が呼んでいたんだったよね?」
「アンディ、よく覚えていたわね。そのとおりよ」

さらりと交わすバルトフェルドに、ディアッカはため息をつくとその手に持っていた資料を取り上げた。

「何都合のいいこと言ってるんだっての。んじゃ、俺はこれからでかけるから、この二人のこと頼んだぜ。あ、ダコスタは俺が連れて行くからな」

言いたいことだけ言うと、ディアッカはさっさと部屋を出て行ってしまった。

「やれやれ、彼にはかなわないな。さて、ご指名を受けたことだし、このあたりを案内しようか?」
「いえ。できれば本日はこれで下がらせていただきたく」

整備主任との話はどうした、と悪態をつきたかったが、イザークは何よりキラの様子が気になった。
いまだにカップを見つめたまま固まっているキラの腕を取ると、そのまま強引に経たせる。

「今日が初めての降下だからね、疲れてもいるか。部屋は用意してあるから」
「ありがとうございます。では、失礼します」

軽く頭を下げると、イザークは足早に司令官室を出て行った。

「やれやれ、少しややこしいことになりそうだね、アイシャ」
「それにしては楽しそうじゃない、アンディ?」
「わかるかい?」

この先、どうなっていくのか。


一度とまった歯車は、再び回ろうとしている。




















「大丈夫か?」
「・・平気」

ようやくショックから少しずつ回復しているようだが、いまだに顔色が悪いように思う。
キラの手には、いまだに先ほどディアッカが手渡してくれたマグカップがある。
飲むでもなく、ただ手に持っているだけなのだが、それを取り上げることがなぜかイザークにはできなかった。

「ディアッカ・・・」
「・・・・」
「ディアッカ。地球にいたんだね・・・。イザーク、知ってた?」
「・・・知っていたわけないだろう」

もし知っていたならば。
何をしてでもここにきて、ディアッカの首に紐をつけてでも連れ戻した。

「そっか」
「おまえ、いいから寝ろ。疲れが出たんだろ」
「うん。それじゃ、ちょっと寝るね」
「俺は隣の部屋にいる。なにかあったら呼べ」
「ありがと」

一人にされた部屋の中、キラはポスっとベッドに腰を下ろす。
イザークに心配をかけているのは分かっているのだが、まともに思考が動いていないのが分かる。



ずっと会いたかった。
会いたい。
会いたい。
会いたい。



そればかりを考えていて。



だからあの時、ディアッカが部屋に入ってきたのを見た途端、呼吸が止まるかと思った。
彼の姿を映す、目が信じられず。
彼の声を伝える、耳が信じられず。

ただ、呆然とするしかなかった。





ずっと会いたかった。
会いたい。
会いたい。
会いたい。





そう願い続けて。
やっと会うことができたのに。
なのに・・・・。







「どうして、こんなに・・・」









苦しいの・・・・?