「今日は午後からちょっとお客さんが来るからね」
「客ぅ?おいおい、そんな暇あんのかよ」

手にもった資料で肩を叩きながら呆れた顔をして上司を見る。

「まぁね。優秀な側近のおかげで、僕は案外暇なんでね」
「・・・だったら、仕事増やしてやろうか?」
「遠慮しておくよ♪」


















「ねぇ、砂漠の虎って、どんな人?」
「いや、俺もよく知らん。だがザフト本部内でも一目置かれるとか聞いた事あるぞ」
「へぇ」

キラとイザークはようやく地球へと到着し、今は基地からの迎えを待っていた。
待っている間イザークがどこからか手に入れた資料を覗き込んでいた。

「お待たせしました!」
「ん?」

向こうから見慣れたザフトの制服をまとった青年がこちらに向かって走ってくる。

「あれか」
「お待たせしました。イザーク・ジュール君とキラ・ヤマトさんですね」
「はい」
「ダコスタと申します。お二人を基地へとご案内します」
「よろしくお願いします」









ダコスタの案内の元、キラとイザークは目的の基地へと向かった。
だが、二人にとっては初めての地球、体にかかる重力も気温の暑さも今まで経験したことのないものだ。

「あっっつぅーーーい!!」
「キラ、騒ぐな」
「だってぇ・・・」

というイザークも額から流れる汗を拭いつつ、照り付ける太陽を見上げている。

「プラント育ちの人は暑いでしょ、ここ。私もそうですから、一週間もすれば慣れますよ」
「・・・一週間後には、プラント戻っていると思います」

半ば、ふて腐れた様子で椅子に沈み込むキラにイザークは苦笑をもらした。

「今は良いが、隊長の前ではしゃきっとしろよ」
「わかってま〜す」












到着したキラとイザークはすぐにこの基地の司令官室へと通された。

「やぁ、よく来たね。アンディ・バルトフェルドだ」
「クルーゼ隊所属、イザーク・ジュールです」
「同じく、キラ・ヤマトです」

握手を求められ、それに答える。

「君が噂のクルーゼの妹さんかい?」
「あ、はい」
「ほう。どんな子かと想像していたが、あまり彼には似ていないようだね」
「はぁ・・・」

何が言いたいのだろうか、とキラが身構える前にイザークがキラを背後へとかばった。

「これがクルーゼ隊長からの資料です。ご確認ください」

睨みつけるように見るイザークに軽く苦笑して、差し出したMOを受け取った。

「ま、中身は見なくても分かるんだけどねぇ」

そんなことを言いながら手の中のMOをくるくると回す。
キラとイザークはその中身までは知らされていない。
微妙な表情を見せるバルトフェルドに、キラとイザークはこっそり目配せをするが、それを気にした様子もなくそのMOをコンピュータに差し込んで中のデータを表示する。

「ああ、やはりな」

MOの中身が予想通りのものだったらしく、彼は意外にも困り顔で画面とにらめっこをしている。
そのままなにやら考え事に突入してしまったので、二人としてはどうしていいのか分からない。
と、そんな二人の助け舟を出すように、一人の女性が部屋の中に入ってきた。

「あら、もう到着していたのね。初めまして、アイシャよ」
「イザーク・ジュールです」
「キラ・ヤマトです」
「キラ?・・・・ああ、あなたが」

つぶやくと、アイシャと名乗る女性はキラの顔を覗き込むようにして背をかがめた。

「あ、あの・・」
「なるほど。確かにかわいらしいお姫様だわ」

そういってにっこり微笑むと、バルトフェルドの横に立つ。

「アンディ?」
「ああ、アイシャ。これを見てくれ」

そういって画面を見せると、アイシャも納得が言ったかのように笑った。

「あら、意外と早かったのね」
「まぁね。僕としてはもう少々遅くてもよかったんだけどねぇ」

二人の間で話は終わっているらしいが、そんな言葉だけではキラとイザークにはなんのことだかさっぱり分からない。
やはりここは、部屋を辞するほうがいいだろうかと思った矢先、バルトフェルドが通信機を手に取った。

「ああ、今、大丈夫かい?・・・なら、ちょっと僕の部屋まで来てくれないか?なるべく急いでね」

なにやらやりとりをしている間に、アイシャが二人をソファに導いたので、部屋から出て行くことはかなわなかった。

「コーヒーはいかがかしら?」
「あ、いえ。自分達は」
「遠慮しないでくれ。僕が作った特製ブレンドコーヒーだ。ぜひ、味を見てくれたまえ」

通信を終えたバルトフェルドが直々にコーヒーを入れにかかったので断ることもできずにその差し出されたものに口をつける。

「「・・・・・・っ」」

途端、なんともいえない味と香りが口の中に広がり、なんとも言いがたい衝撃が身体に走った。

これは、なんといっていいやら・・・。

「どうだね?」
「いや、あの・・・」

さすがに上官が入れてくれたものにけちをつけるつもりはもうとうないが、これはちょっとひどすぎるのではないか・・・。
どう言い訳しようか悩んでいるとき、更なる衝撃が二人を襲った。





「悪い、遅れた」





そういって入ってきた兵に、キラとイザークは驚きのあまり声が出なかった。

「あれ?」

相手もイザークたちに気づいたのか、驚いた表情だ。




ちょっとだけ痛んだような金髪。
焼けたように黒い肌。
キラと同じ、紫の瞳。






「ディアッカ・・・・」







現れた少年は、間違いなく。






かつてのクルーゼ隊、ディアッカ・エルスマンに間違いなかった。