呼び出しを受けたイザークとキラはすぐにクルーゼの元へと向かった。 「なんだろう、私たちだけって」 「さあな。面倒なことではなければいいが」 「確かに、ね」 だがあのクルーゼ直々の呼び出し。 しかも、こんないきなりでは何かあると覚悟を持っていたほうがいいだろう。 それにしても、なぜキラとイザークなのだろうか。 こういう突発的な任務はアスランかイザークが呼ばれることが多い。 ペアを組むにしても、キラはイザークと二人で組んだことはない。 クルーゼの意向を考えつつも、キラとイザークはクルーゼの執務室へと到着した。 「失礼します。イザーク・ジュール、参りました」 「キラ・ヤマトです」 『入りなさい』 ピッという電子音と共にドアが開かれた。 そこには珍しい渋面で(仮面をつけているのでこれが分かるのはキラぐらいなのだが)なにやら考え込んでいる様子だ。 「あの・・・」 「ああ、すまないな」 クルーゼは一つのディスクを取り出し、イザークへ差し出した。 「これは?」 「極秘文書だ。君とキラにはそれを届けてもらう」 「・・・了解しました」 キラはイザークの手に移ったディスクをまじまじと見つめる。 極秘文書であればあるだけ、それを運ぶ人間には危険がつき物だ。 いつどこで襲撃されるかわかったものではない。 これまでにもイザークは数度、極秘文書を運んだことがある。 だが、目立たないようにという理由と、他の様々な理由からそれらは常に単独行動だった。 「届け先は、地球のヴァルトフェルド隊長の元だ」 聞いたことがある。 確か別名が、『砂漠の虎』 「1時間後に地球に下りるシャトルが出発される。君達はそれで地球に向かいなさい」 詳しくはこれに書かれていると、1枚の紙が差し出される。 イザークはそれを一通り目を通すと、それをキラに差し出した。 同じように目を通して、隅々まで一字一句違えることなく頭に叩き込んでおく。 すべてに目を通してからイザークに戻すと、それは部屋の墨に置かれたゴミ箱の上にかざされ、戸惑うことなく火をつける。 極秘とは、そういう意味だ。 跡形もなく。 証拠を残してはならない。 「では、私たちはこれで失礼します」 「ああ、頼んだぞ」 「「了解しました」」 イザークの後に続いて部屋を後にしようとしたキラだったが、ふと立ち止まった。 「キラ?」 「ごめんイザーク、先行ってて」 「・・・出発は1時間後だ。遅れるな」 「わかってる」 そのままイザークの背中を見送って。 二人きりになった部屋の中に、僅かな沈黙が訪れた。 「どうした?早く任務に・・」 「・・・おにいちゃん・・・・・」 早く任務に就け、といいかけたクルーゼの言葉を小さく、だけど確かな声がさえぎった。 呼んだはいいが、キラには何を言っていいのかがわからず、ただクルーゼに背を向けていることしかできない。 しばしそんな沈黙を続けていると、カタンと、クルーゼが椅子から立ち上がる音が聞こえた。 その気配だけが、キラへと近づいてくる。 くしゃり、と髪が撫でられた。 「どうした?」 「・・・・・・・」 優しい声。 大好きな声。 大好きな、手のひら。 「・・・・っ」 キラはまるで耐えられないとでも言うように、後ろを振り返ってすぐ目の前にある胸に飛び込むように抱きついた。 「・・・・ぅ・・・・・」 「どうしたんだ?」 「・・・め、なさい・・・・」 「ん?」 「ごめんなさい・・・」 「・・・・・」 ずっと意地を張って、ここにはこなかった。 違うのに。 この人のせいではないのに。 「ごめんなさい」 何度もそう繰り返すキラに、クルーゼは分かっているといわんばかりに背を抱いてくれた。 それがうれしくて。 情けなくて。 キラはすがる腕に力をこめた。 違うのに・・・。 ディアッカが、いなくなったのは・・・。 この人のせいじゃないのに。 それなのに。 八つ当たりをして。 我が儘を言って。 意地を張って。 ・・・ずっと、向き合うのが怖かった。 認めてしまうのが怖かった。 ディアッカがいなくなったという事実が。 もう会えないかもしれないという不安が。 心の奥底を支配する、分からない感情が。 知ってしまえば、何かが変わってしまう。 それが、とても怖かった。 どのくらいそうしていたのだろうか。 クルーゼの撫でてくれる手に、キラはすっかり落ち着きを取り戻していた。 「もう、大丈夫か?」 「うん」 最後に一度頭を撫でられて、クルーゼはキラの身体を離した。 「・・・・そろそろ、行くね。イザーク待たせてると思うし」 「ああ。気をつけるんだぞ」 「わかってる。一人じゃないもん」 「・・・そうだな」 「それじゃ、行ってくるね」 「ああ」 キラは久しぶりにクルーゼに向かって微笑みを向けて、部屋を出て行った。 −−−−−一方、その頃の地球で。 「ふふふふ・・・」 「何か面白いことでもあったの?」 「いやいやいや。なかなかに面白いものが届いてね」 男は手にしていた書類を傍にいる女性に手渡した。 「まぁ」 それに目を通した女性も、また声を上げる。 「どうやら、しばらくは退屈せずにすみそうだ」 |