ディアッカの代わりに入った彼、ハイネは思った以上にスマートにクルーゼ隊に慣れていった。
本人の人柄が友好的なこともあるが、それ以上にハイネの実力が物を言った。
今までは他の隊のエースを務めていた紅ということもあり、アスラン・イザークに勝るとも劣らず。
おのずと行動を共にすることが多いアスランたちにもその存在は大きくなるばかりだった。






ただ、一人を除いては。







「今日の午後からシューティングやるけど、誰かつきあわねぇ?」

今日の訓練内容を午前中にこなしてしまった面々は、少し遅めの昼食をとっていた。

「あ、僕お付き合いします。ちょうど訓練規定が少し残ってますし」
「俺も付き合うかな。どうせ暇だし」

アスランとニコルは同意を示した。

「俺はパスだ。読みたい本がある」
「そっか。で、お前は?」

みんなの視線がハイネから一番遠い席に座っている人物・・・、キラの方へと集まる。
その視線を感じているのかいないのか、キラは黙々と食事を口に運んでいる。

「キラ、どうかした?」
「何が?アスラン」
「いや。・・・・午後からの予定だけど・・・」
「整備主任からプログラムの修正頼まれているから。そろそろ時間だし、行くね」
「行くって、キラさん食事まだ残ってますよ?」
「あんまりおなかすいてないから」

ごちそうさま、とつぶやいてまだほとんど口をつけていないお盆をもってキラは立ち上がる。
そのまま誰の返事をまとうともせずにキラは食堂から出て行ってしまった。
その背中を見つめながら、アスランやニコル、イザークはため息をつく。



ディアッカがいなくなってからというもの、キラはいつもこんな感じだ。
まるで何かが切れてしまったかのように黙々と任務をこなす。
他愛もない話も、前はみんなで笑ってよく話していたのに、最近のキラは無駄なことは一切口にしない。
たまに話したかといえば、任務のこと、整備作業場の注意点、伝達、それぐらいだった。
部屋に引きこもることも多くなり、前はよく訪ねていたクルーゼの部屋にも用がなければ行くこともなくなったようだ。

「相変わらずつれないねぇ。よっぽど嫌われてるのね、俺」
「そんなことはないと思います。ただ・・」
「ただ?」
「いえ、なんでもありません」

言いよどむニコルに眉を寄せながらも、それ以上の追求は避ける。
ニコルがいいたことは、アスランとイザーク、二人とも分かっていた。
だが、分かっていたからといってどうにかなるものではない。
















「では、ここはこのように。あとは細かい部分だけ調整しておきました。詳しいことはこちらにまとめておきましたので確認しておいてください」
「わかりました」
「あと、他に何かありますか?」

キラからの申し出に整備主任は思わず隣にいる補佐と顔を見合わせる。

「なにか?」
「い、いえ。あの、こちらから頼んでおいてこんなことを言うのもあれなんですが・・・。ちゃんと休んでいますか?顔色が優れないように思いますが」
「・・・・ほどほどには。今は何もなさそうですね、また何かありましたら連絡してきてください」




それ以上何かを言われるのが嫌で、キラはそのまま格納庫を後にした。
なんとなくそのまま部屋に戻る気もしなくて、談話室の方に向かう。
だが、こんな時間に誰かがここにいるわけもなく、いつもにぎやかな部屋の中はシンと静まり返っていた。
四六時中流れているニュース映像をぼんやりとみながら、キラはふと鏡に映る自分の顔に気づいた。

「そんなに、疲れて見えるのかな」

キラにしてみれば、別段疲れているという意識はない。
それに、何かをしていれば余計な事を考えてしまいそうで怖くなる。

「いいや、考えるのよそう」

そっと息を吐き出すと、キラはそのまま目を閉じた。














「あらら、ぐっすり眠っちゃってまぁ・・・」

シューティングを終え、軽い休憩を取るために談話室に来たハイネだったが思わぬものを見てしまった。
ソファに縮こまりながら横になって眠っているキラに近づく。
キラは人が入ってきたことなど気づいた様子もなく、ただ眠り続けている。

「こんなんで眠ってて、疲れなんて取れるわけねぇよなぁ・・・」

しみじみとハイネはキラを見てつぶやく。
キラの寝顔は安眠とはかけ離れたもので、眠りながらも眉をひそめ、つつけば泣き出してしまいそうだった。
実際、キラの頬には涙が溢れた痕が残っている。
それを無造作にぬぐいながら、しばらくはそのままキラの寝顔を眺めていた。
だがこのままほうっておくこともできないので、とりあえずハイネはキラを抱き上げて談話室を後にした。
誰に会うことなくキラの部屋に着いたはいいが、ふと気づいた。

「俺、こいつの部屋のパスワードしらねぇぞ?」

ここまで運んでおきながらわざわざ起こすのもかわいそうだ。
いっそ、シューティングルームにいるアスランたちを呼んでこようかとも思ったが、その前に腕の中のキラが身じろぎした。
うっすらとキラの目が開かれる。

「よ、よぉ」
「・・・・・・」

ハイネはキラによく思われていないことを知っていた。
まずい、と慌てるハイネをよそに、キラはじっと彼を見上げていた。

「ディ・・・・・ア・・・・・?」
「え?」

どうやら、抱き上げているのをディアッカだと間違えているらしい。
ハイネはこれ幸いとキラの顔を肩に押し付け、耳元でささやいた。

「パスワード、なに?」
「ディア・・・、たんじょう・・び・・・・・」
「あ〜、なるほどね」

ハイネはキラの体重を片腕にかけると、パスワードを入力して部屋の中に入る。
先ほどまで仕事をしたいたと分かるほど、机の上に資料がたくさん開かれていた。
それは一部ベッドの上にまでおかれている。
とりあえずそれを脇にどけ、キラをベッドに降ろした。
掛け布を掛けて部屋を出ようとしたのだが、キラの紅服を掴んだ手がどうしても離れない。
無理強いをすると起こしてしまいそうなので、そのままベッドを背に床に腰掛けた。

「さっきより、ましか。何の夢見てんだろうな・・・」

いたずらに頬をやわらかくつつけば、ふわっとキラの表情がほころぶ。










「ディアッカ・・・・」










そのキラの表情は、普段のキラからは見たことないほど、幸福に満ちた笑顔だった。

「あいつも、ばかだよな。こんなに想ってくれているのに、なんでわかんないんだか」

今この船にいない、地球へと逃げたバカへと思いをはせる。
絶えられないと逃げ出したあいつ。
それが、ないより大切な奴を傷つけることになるとも知らないで。




「今は優しい夢で休めよ。・・・・でも、優しい夢に、逃げるな」







ハイネは一人、ぽつりとつぶやいた。










☆なかがき☆

やっと中盤ぐらいにさしかかりました!
更新速度が「亀」以下の「なまけもの」状態になってしまいました・・・;

この話で、ついにハイネが我がサイトにはつお目見えです!
といっても、いまだにうまくこの方の特徴や正確を把握していないのでうまく掛けていないような気もしますが・・・その点はご勘弁ください。

今度の展開、どうなるのか私にもさっぱり分かりません!(おい)
でも、ちゃんとハッピーエンドで終わるつもりなのでv
長くなりますが、お付き合いください・