「ふぅ」 あまりなじんでいない自分の部屋のベッドに腰掛け、キラはため息をついた。 1週間の任務を終え、キラたちは再びプラント本国のザフト本部へ戻ってきた。 結局、調査に行ったコロニーは無人で誰もいなかった。 確かに最近人がここにきた形跡はあるのだが、ここに長く滞在した様子は無い。 何か特別なものがあるわけでもないコロニーなので、キラたちはあらかたの調査を終了して戻ってきた。 今日中に報告書をまとめ、クルーゼの元へと届けなくてはならない。 「あ、そうだ」 ディアッカに会いに行こう。 突然、ディアッカの顔が頭に浮かんだ。 この1週間、彼の姿どころか、声さえ聞いていない。 そう思ったが早いか、キラは荷物を放り投げたままの状態で再び部屋を出た。 そういえば彼の任務の内容は一体なんだったのだろう。 極秘、というものでなければそれも聞きたい。 なにより、今はディアッカと少しでも話したかった。 「でも、帰ってきてるのかな・・・」 キラたちよりも後から出発したらしい彼が自分たちと同時期に戻ってきているとは限らない。 そんなことを思っていると、前方からかなり慌てた様子でイザークが走ってくるのが見えた。 「イザーク?」 「キラ!」 「え、え?」 近寄ってくるなり、がしっと肩を掴まれて驚きながらもイザークを見る。 「どうしたの?」 「クルーゼ隊長は、今どこだ!?」 「えっと・・、多分部屋にいると思うけど・・・」 「部屋だな!?」 そういい捨てるなり、走っていってしまうイザークの姿にあっけにとられながらも、キラはとりあえず彼の後を追いかけた。 「イザーク、どうしたのさ!」 「とにかく、確認してみないことには納得がいかん!」 「だから一体なにがあったの?」 その問いには答えようとはせずに、イザークは険しい顔で走り続けた。 なぜこんなに怖い顔をしているのかわからなかったが、とにかくキラはそのままイザークと一緒に走った。 「隊長、いらっしゃいますか!?」 「ちょ、ちょっとイザーク・・・」 いつもの彼らしくない口調に、キラは反射的にイザークの名を呼んだ。 普段ならなんだ、と返してくれるのにその余裕はないようで、ひたすら正面の扉を睨みつけている。 『入ってきたまえ』 「失礼します!」 「えっと、失礼します・・・」 まるで突進する勢いのイザークに引き続き、キラはクルーゼの部屋の中に入った。 だが、そこにいたのはクルーゼ一人だけではなく、紅をきた見慣れない少年が一人たっていた。 年の頃は、自分たちより少し上だろうか。 「どうしたね、イザーク。君がそこまで取り乱すなんてめずらしい」 「ディアッカが、部屋にいません」 「まぁ、そうだろうね」 部屋にいない、ということはまだ帰ってきてないのだろうか。 でもそれだけのことで、どうしてこんなに慌てているのだろう。 「荷物も。あいつの荷物がすべてなくなっています!」 「・・・え?」 どういう、こと? 「あれでは、あれではまるで・・・・っ」 「そう。彼はクルーゼ隊から除隊した」 ・・・・・っ!? 除・・・・・・・隊・・・・・? 荷物が・・・ない? 「う・・・そ・・・・」 「四日前、正式に異動となった。今頃はすでに到着している頃だろう」 呆然とするキラとイザークをよそに、クルーゼは冷静にそういい捨てた。 「なん・・・で?」 「おいキラ!しっかりしろ!」 思わずその場にへたり込みそうになるキラの身体を、横からイザークが支える。 その腕は、自分がよく知っているものではなかった。 「・・・っ」 その支えてくれる腕を振り払って、キラはクルーゼへと詰め寄った。 「どうして!?なんで?ディアッカがどうしていなくならなきゃいけないの!?」 「軍部の命令だ。ディアッカもそれを承諾し、私も承認した。それだけのことだ」 「なんで、なんで、なんで!?いやだ、絶対にいや!ディアッカを戻してよ、おにいちゃん!!」 「今は軍務中だ。隊長と呼びなさい」 普段はキラに対して見せないような冷たい態度で、キラを突き放した。 「・・・・・・もういい!お兄ちゃんのバカ!!」 「キラ!」 イザークが止めるのもまたずして、キラは部屋から飛び出していってしまった。 すぐに後を追おうとしたイザークだったが、クルーゼに呼び止められる。 「・・・まだ、なにか?」 その瞳にはディアッカを勝手に除隊させたクルーゼへと明らかな憤りが見て取れる。 それをなんとはなしに受け流しながら、いまだ目の前に立ったままの少年を指差した。 「彼が、ディアッカの変わりに今度この隊に来ることになった。部屋はディアッカのところに入ってもらう予定だ。説明など、頼む」 「・・・・・了解しました。談話室は分かるな、そこで待っていてくれ」 クルーゼに敬礼をとってその男に指示を出すと、今度こそイザークはキラを追いかけるために部屋を出て行った。 てっきり部屋に戻ったのかと思ったキラは、自室にはいなかった。 「一体どこいったんだ?」 キラが普段行きそうな場所はすべて探したというのに、そのどこにもいない。 あと何処を探せば・・と考えたとき、ふと頭に浮かんだ答え。 もしかしたら、と。 そんな考えで自室に戻ったイザークは、自分のベッドとは逆側のベッドに人影を見つけてほっと息をついた。 ディアッカの・・・、元ディアッカのものだったベッドに顔をうずめているのは想像通りキラだった。 大声を上げることなく、肩を震わせて。 「・・・僕の、せい?」 「キラ?」 「僕のせいで、ディアッカいなくなったのかな。僕が、嫌になったから・・・」 はっと後ろを振り返ってそう訴えるキラに、とりあえずは落ち着くようにと肩を抱いてベッドへと腰掛けさせた。 「そんなわけないだろう。ディアッカの異動は軍部の決定だ。けっしてお前のせいではない」 「でも、だって今までこんなことなかった。なのに、なのに・・・・」 ディアッカがいなくなったのは自分のせいだと。 そういって自分を責めるキラに、イザークはもはや何もいえなかった。 |