昼食用のサラダをテーブルの上に置くのとキラがリビングに戻ってくるのは同じだった。

「隊長の様子どうだった?」
「寝たよ。ご飯、ちゃんとたべてくれた」

キラが持っているお盆の上にはディアッカが作ってキラに運ばせたお粥の空の器が乗っていた。
どうやらあの程度を平らげるだけの食欲はあるらしい。
そのことにひとまずため息をついた。

「薬は飲ませたのか?」
「うん。自分で飲んでたよ」
「よし、ならひとまず様子を見ようぜ」
「大丈夫かな・・・」
「隊長の心配より、キラはこっち」

キラの持っているお盆を取り上げると、キラをテーブルに座らせてそれを一度キッチンへ戻す。
テーブルの上には二人分のオムライスとサラダが乗っていた。

「オムレツ?」
「オムライス。米が余ったから作ったんだよ」
「これがさっきのお米なの?」
「そ。とりあえず食おうぜ」
「いただきます」

ディアッカの家では使用人たちがわりと賄いで食べていたもので、ディアッカも時々相伴に預かっていた。

「おいしいっ」
「よかった。たくさん食えよ」
「うんっ」

どうやらキラの口には合ったらしい。
ようやく元気を取り戻してくれたとほっとしつつ、ディアッカも食事に手を伸ばした。
















キラが食事の後片付けを申し出てくれたので、ディアッカはその間に必要だと思われるものをメモに記していた。
この間のは長い任務だったし、長期休みが取れたのも久しぶりだった。
だからというべきか、この家にはほとんどなにもない状態といっていい。
適当に急遽必要と思う分だけ買ってきたが、どう考えても再び買出しに行く必要がある。
ドリンクに食材も少し買い足す必要がある。
あれやこれやとメモっていると、ずいぶんな量になっていた。

「ディアッカ、それ、なに?」
「買出しリスト。これからちょっと行って来るから・・・・」
「僕が行く!」

隊長のことをちゃんと見ていろ・・というつもりだったのに。

「ずいぶん量があるし、キラじゃ運べないだろ?」
「でもディアッカ一人でも大変でしょ?一緒の方が楽だよ、きっと」
「ふぅ・・・。わかった、それじゃ着替えて来いよ。外ちょっと冷えるからちゃんと上着も羽織って来ること」
「うんっ」

返事をするとキラは自分の部屋だと思われるドアの中に飛び込んでいた。
まったく、元気なことだ。



「ディアッカ、そこにいるか?」



と、突然奥の部屋から声がして思わず硬直してしまう。
ゆっくりと振り向くと、先ほどからキラが出入りしていたクルーゼの寝室の扉が少し開かれており、声は間違いなくそこから聞こえてきていた。

「いないのか?」
「あっと。ここに」
「入ってきたまえ」

そう言われて、ディアッカはさてどうするべきかと考える。
キラに呼ばれて来たはいいが、ここはクルーゼの家。
ディアッカは無断で入ったことになる。しかも、直属の隊長の家に。
しかし悩んでいても仕方ないので、とりあえずはノックをして中へと入る。

「失礼します」

ディアッカが中に入ると、クルーゼはベッドに上半身を起こしていた。
倒れただけあって少し顔色が悪いような気がしたが、相変わらず燐とした雰囲気がある人だと改めて思う。

「すまなかったな、せっかくの休暇に」
「いえ。具合はどうっすか?」
「大分落ち着いたよ。キラは?」
「着替えてます。今からちょっと買出し行って来るんで。何かいるものありますか?」
「いや・・・。それより、明日も予定がないなら、泊まっていってくれないか?私はこんな状態だからな、キラに余計な心配をかける」
「了解しました」

正直、いいのだろうかと思わないではないが、この際気にしないでおこう。

「何か礼をしなくてはな。望みはあるか?」
「いや、特には・・・」
「なんだ、欲がないな」

いきなり言われても思いつくものではない。
そんなディアッカの考えが顔に出たのか、クルーゼはいつでもいいから、とだけ付け加えた。

「そうだ、ひとつ聞いてもいいですか?」
「なんだね?」
「近いうちに、クルーゼ隊のメンバーを数名、地球に下ろすという噂を耳にしたんですけど・・・」
「ああ、もう知っていたか。そういう要請が来ているのは確かだ。だが、まだ本決まりではないし、誰かを行かせるという予定もない」
「そうなんですか」
「なんだ、行きたいのか?」
「いえ、そういうわけでは・・・・」




「あれ、ディアッカ?」





扉の向こうからキラの声が聞こえてくる。
どうやら準備ができたようだ。

「では、クルーゼ隊長」
「ああ。気をつけてな」
「はい。隊長も、ちゃんと寝ていてくださいよ。じゃないと、キラが泣きますから」
「わかっているよ」

クルーゼが横になったことを確認してから、ディアッカは部屋を出た。











地球・・・・か。