ど、どうしよう・・・。
久しぶりの休日、キラは一人では広すぎるリビングで頭を抱えていた。 今日は久しぶりにクルーゼ隊に休暇が与えられた。 本国に戻ってきたのも久しぶりだからみんな喜んでいたし、隊全体が休暇ということでクルーゼもほとんど仕事は無いらしい。 両親がいるコロニーまでは時間がかかるので、キラはそこに戻るのはまたにしてクルーゼに部屋に滞在することにした。
と、そこまではよかったのだ。 だが、その休暇初日、キラは思ってもいなかった危機に直面することになる。
クルーゼが、倒れたのだ。
慌てたキラはすぐに医者を呼ぼうとしたのだが、それをほかならぬ本人に止められた。 「ちょっと疲れが出ただけだ。医者を呼ぶには及ばんよ」 「で、でも、すごい熱だよ」 「こうなるのは初めてじゃない。薬はあるから、寝ていれば治る」 だから心配するな、と言ってクルーゼは寝室に戻って言った。 大丈夫なんて、そんな言葉だけを信用できるような様子じゃなかった。 つらそうで、苦しそうで。 キラが寝室に入ると、クルーゼはすでに眠っていた。 だが、それはとても安らかという感じではなく、見ているこちらが苦しくなってくるようだ。
どうしよう・・・。 どうしたら・・・・・。
そう考えていると、いつの間にかキラは自分の携帯でとある短縮ナンバーを無意識に押していた。 何か考えたわけじゃない。 でも、なぜかこの人ならば助けてくれるんじゃないかとそう思った。 「・・・・・でない・・・」 無機質な呼び出し音が鳴るばかりで、相手は一向に出てきてはくれなかった。 そういえば、休暇に入る前に今日は用事があると聞いたような気がする。 一度切ってからもう一度コールしても、やはり出てきてくれない。 キラはあきらめたように携帯をしまうと、クルーゼの手をしっかりと握った。
自分にできるのは、見守ることだけ・・・。
どれぐらいそうしていただろうか。 なんだかクルーゼの熱は一向に下がる様子はなく、逆にどんどん具合は悪くなってきているような気がする。 薬は飲んだ、と本人は言っていたが、それは全く効いていないようだ。 やはり、嫌がっているとしても医者を呼んだほうがいいのだろうか。 でもはっきりどこが悪いというのがわからないからどんな医者を呼んでいいのかもわからない。 クルーゼに持病があるとは聞いたことはないし・・・。 「おにいちゃん・・・」 どうしたらいいの?と答えてくれるわけもない本人に呼びかける。
〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜♪
ふと、急にしまってあった携帯が鳴り出した。 そのディスプレイに表示された名前は・・・・。
『ディアッカ・エルスマン』
その名前に、キラは思わず泣き出してしまいそうだった。 そっとクルーゼの手を離すと、キラは音を立てないように部屋を出た。 『よぉ。なんか連絡くれたか?』 明るい彼の声。 「ディアッカぁ・・・・・」 それにどこか安心を覚え、キラは堪えていた涙を流した。 『キラ?どうかしたか?』 通話に出た途端泣き出した様子のキラに、相手のディアッカは慌てた様子で声をかけてくれる。 「も・・・、わかんない・・・・」 『何が?キラ、なにかあったわけ?』 「おに・・・、倒れ・・・て・・・、苦しそうなの・・・・っ。でも、わた・・・なにもできない・・・」 『クルーゼ隊長が?倒れたってどんな様子なんだ?』 「わかんな・・・。苦しそうなのに、何もしてあげられない・・・」 わからないと繰り返すキラに、ディアッカは冷静に、でも強く言った。
『しっかりしろ!キラがそんなんじゃ、何もできないだろう!』
そういわれて、キラはびくっと震えた。 確かにそうだ。 ないていても、何もできない。 『とりあえず、熱は?どれぐらいあるんだ?』 「ちょ、ちょっと待って」 キラは再びクルーゼの元に戻ると、起こさないようにそっと熱を測った。 「9度5分だ」 『結構高いな。医者は?』 「お兄ちゃんが、呼ばなくていいって・・・。薬は、あるからって」 『本当は医者に見せるのが一番なんだけど・・・。食事は?朝食は取ったのか?』 「多分、食べてない。薬は飲んでたみたいだけど・・・」 『それじゃ薬効かないな。何か消化のよさそうな食べ物あるか?』 そう問われて、キラは冷蔵庫の中身を思い出した。 昨日は二人して遅く帰ってきたので、ほとんど何も用意していない。 そもそも、今日いろいろ買いだしに行く予定だったのだ。 「ない・・・と思う」 『わかった、適当に買っていく。キラは俺が行くまで隊長の体を温めて、額に冷やしたタオル当ててろ。汗が酷いようならちゃんと拭いてやれ』 「え、でも・・。ディアッカ、用事があるって・・・」 『もう済ませた。それじゃ、一時間ぐらいでそっち行くから』 「わかった」 ぷつん、と音を立てて切ったあと、キラは自分の部屋として使っていたところから掛け布を持っていてそれを掛けた。 ディアッカに言われたとおり、濡れたタオルを用意して額に乗せる。 気のせいだろうか、苦しそうにしているクルーゼの表情が少しだけ和らいだような気がする。 キラはもう一枚用意して、頻繁に流れる汗を丁寧に拭った。 不思議と、キラの心にもう迷いは無かった。 ただ、今はクルーゼのことだけを考えて、早くよくなるように願い続けた。
きっかり一時間後、ディアッカはやってきた。 その両手にはいろいろな食べ物やドリンクなどが入った袋が抱えられていた。 「よ」 「ディアッカ・・・」 扉を開いた途端目にした姿に、キラは思わず抱きつきたくなる気持ちを必死で抑えた。 どれだけ、一人でいるのが心細かったのか今頃になってわかる。 「隊長の様子は?」 「少し、楽になったみたいだけど、熱はぜんぜん下がらなくて・・・」 「そうか・・・。とりあえず飯作るか」 ディアッカは持っていた袋の中身をキッチンに広げ始めた。 そこには栄養価の高い果物から、キラの見たことがない食材や調味料までがそろっていた。 「これ、なに?」 「米。なんだ、キラ食ったこと無いのか?」 「うん」 「日本って国の主食になっている食べ物なんだよ。そうだ、キラ、これ」 ディアッカはドリンクを1本取り出すと、キラに渡した。 「隊長が目覚めたらこれ飲ませて。汗掻くから水分補給は小まめにな。食事ができたら呼ぶから、それまでキラは隊長に付いててくれ」 「わかった」 まるでそうすることに慣れているかのようにディアッカはてきぱきとキラへの指示や食事の準備をしていく。 そんなディアッカをすごいと思いながらも、キラはクルーゼの元へと戻った。
「キラ・・か?」 「おにいちゃん!目が覚めた?気分どう?」 出入りする音に気付いたのか、見ればクルーゼが目を覚ましていた。 「誰か、来ているのか?」 「うん、ディアッカが・・・。ごめん、勝手なことして・・・」 「いや・・・」 「これ、飲んで。水分補給しないと駄目だって」 起き上がりにくそうなのを手伝って、なんとかドリンクを飲ませる。 「大丈夫?」 「平気だよ」 そう言って微笑む顔はどこかつらそうだ。 やはり、まだぜんぜん回復していないみたいだ。 「ねぇ、やっぱりお医者さん呼ぼうよ。ぜんぜんよくなってないもん」 「平気だ。それより、キラもせっかくの休日なんだから出かけてきたらどうだ?」 「こんなおにいちゃん置いて、いけるわけ無いじゃない」
気遣ってくれるのは嬉しい。 でもそれなら早く元気になって・・・。 |