「どういうことなんだ、一体!」 ダンッ、と机を殴る音に周りいた人たちは驚いてそちらに振り向くと、そこには赤を纏う3人の少年兵がいた。 この艦内では知らない者など居ない有名な3人。 イザーク、アスラン、そしてニコルだった。 この艦には他に二人の赤服エリートが所属しており、その2人を除いてこの3人が一緒にいるなんて珍しいなと思いつつ、食堂にいた兵士達は慌てたように次々と食事を済ませ立ちあがった。 理由は簡単。 赤の中でも一番癇癪が激しいイザークが今まさにイラついているのと、それの押さえ役である者の姿がここにないからだ。 「静かにしてくださいよ、ここは私室じゃないんですから」 そういいながらお茶を飲むのは最年少のニコル。 だが、この少年を最年少だと侮って返り討ちにあった者はかず知れず。 そのためか、イザークもまだまだイライラしている様子だが、それでも大人しく立ちあがった状態から腰を落ち着けた。 「まぁ、イザークの気持ちもわかりますけど」 「ふんっ」 イザークがいらついている理由。それは今まさにここにいない赤2人に原因があった。
キラとディアッカ
つい先日までほとんどの行動を共にしていた5人だったが(あくまでキラが居るときに限り)、最近キラは何かとディアッカと一緒に居ることが多い。 訓練ではいつもキラと誰が組むのかを4人で争っていたにもかかわらず、最近ではほとんどキラと組むのはディアッカだ。 もちろん、これがディアッカから言い出していることならばディアッカ一人に制裁を加えればいいだけの話。 だがそうもいかないわけは、他でもないキラからディアッカを相手指名するからだ。 キラ本人に言われてはアスランたちは何もいえない。 「キラに聞いたところで、あいつには自覚がないからな。でも、一体いつからキラはディアッカを・・・」 アスランの言葉にニコルとイザークもう〜ん、と頭を捻らす。 軍人ならばもっと他のところで頭を使った方がとも思うが、あいにくこの3人の世界はキラ中心に回っている。 キラをおいて他の事を考えるなど、無理な話だ。 「そういえば、キラさんが怪我をされてからじゃないですか?キラさんがディアッカにべったりになったの」 「怪我?」 「ああ、そういえばあったな」 数週間前の話。 キラが訓練中に足を捻り、それを放っておいたせいでかなり悪化してしまって数日動けなかった日があった。 あの時、キラの怪我をいち早く発見したのはほかならぬディアッカ。 「でもあの時ディアッカはほとんどキラに構っていなかっただろう?訓練を遅れて来たからって終わったあとも自主練してたから」 ほとんどキラを構ったのはアスランたちであって、ディアッカは医務室に運んで以来キラにあっては居ないはずだ。 だが、これはアスランたちの認識。 「・・・あのあと、ディアッカはキラと会っている」 仏頂面を隠すことなく、イザークは言い捨てる。 アスランたちは知らなくても、イザークは知っていた。 ディアッカが消灯時間を過ぎてからキラを抱えて自室に戻ってきたことを。 「どういうことです?イザーク」 「俺たちは消灯時間ぎりぎりまでキラ一緒にいたんだぞ、ディアッカはそのころバスターの中だっただろう?」 「知るか。消灯時間を過ぎても戻ってこないと思っていたらキラをつれて来たんだ。包帯を巻きなおすためとか言って。それに、それにあいつは!」 ドンッ、と再びイザークはいらだったように机を叩いた。 おかれていたティーカップがぐらぐらと揺れて倒れる。 中身が入っていないのが幸いと思いつつ、ニコルがそれを置きなおすとイザークに事の真相を尋ねた。 「ディアッカ、何かしたんですか?」 「あいつ、よりにもよってキラと同じベッドで寝やがった!」 「「なんだって(ですって)!?」」 驚きにアスランとニコルも場所を考えず大声を出してしまう。 「ちょっと、どういうことなんですか!」 「なんでそんなの黙ってみてたんだ!」 「うるさい!俺だって止められるもんなら止めたわ!」 キラが言い出したこと出なければ、そんなこと許すはずがない。
「おお、いたいた。探したんだぞお前ら」
そこに幸か不幸か、話題の中心にあったディアッカがやってきた。 まわりでみていた兵士たちは、さらに激しくなりそうないい争いを前に誰一人として食堂に残ることなく立ち去った。 だがそんなこと知るはずもないディアッカは3人へと平然と近づいた。 「どうしたんだ?何かあったのか?」 3人を取り巻く雰囲気に怪しいものを感じて、ディアッカも怪訝な表情を隠さない。 一番最初に動いたのはニコルだった。 「ちょうどよかった、今あなたの話をしていたんですよ。こちらに来ていただけますか?」 恐ろしいぐらいににっこり笑うニコルに頬を引きつりつつ、ディアッカは言われたとおり3人の下に近づいた。 と、途端に・・・ 「、うわっ!」 アスランに襟を捕まれ壁に叩きつけられた。 「何すんだよ!」 「うるさい。それより答えろディアッカ、お前キラに何をした?」 「は?キラ?」 一体なんのことだ?と覚えもない怒りを向けられて眉をしかめるが、見ればアスランの後ろにいるイザークとニコルも同じような険しい表情でこちらを睨みつけていた。 「一体なんのことだよ」 「とぼけるな、最近のキラと貴様のこと、俺たちが気付かないとでも思ったのか?」 「一体キラさんと何があったのか、この際はっきり吐いてもらいますからね」 下手すると尋問を始めそうな勢いの3人にディアッカは冷や汗をかく。 そのとき、天の助けといわんばかりの声が部屋の中に響いた。 「あ、みつけた!」 「「「キラ(さん)」」」 アスランはばっとディアッカの襟を掴んでいた手を放した。 まるで何事もなかったかのようににっこりと微笑んでキラを見ている。 「キラ、どうかした?」 「うん、おにいちゃ・・・じゃなかった、クルーゼ隊長が先日の報告書を早く提出するようにって」 「報告書?あれって明日提出予定だったはずだが?」 「そうだったんだけど、クルーゼ隊長、明日評議会の出頭命令が下ったから今日中に提出するようにって」 以上、伝言終わりっ、とキラがにっこり笑う。 そんなキラにつられて笑う3人だが、瞬時に各々時間を確認する。 現在昼過ぎ、明日評議会出頭ということは少なくともあと2時間後にはプラントに戻るということだ。 「まずいな」 正直、ここ数日キラとディアッカのことばかり気になっていて報告書など二の次三の次へと回していた。 「とにかく、仕上げてしまいましょう。未提出はいろいろとまずいです」 「そうだな。キラもまだだろう、一緒に・・・」 「え?僕はもう出してきたよ」 一緒にやろう、と声をかける前にキラは言った。 きょとん、とイザークたちの視線がキラに止まる。 いつも報告書提出はいつもキラが最後なのに。 キラはディアッカの横に移動すると、その腕に抱きつく。 「今回はディアッカが手伝ってくれたから早く終わったんだ」 ねぇ〜とディアッカの方に言うと、先程キラに向けられた視線とはまったく別の殺意さえ感じる視線が向けられる。 「別に俺が特別手伝ったわけじゃないだろ。キラ、俺の横でやってただけで俺口出ししてないし」 「それでも自分でやるより進んだもん」 痛くなる視線を感じつつ、ディアッカはキラに尋ねた。 「クルーゼ隊長の方はいいのか?なんか頼まれてたろ?」 「ディアッカが戻ってくるの遅いから僕も探しに来たんだ。終わったら話しあるって言ってたでしょ?隊長も忙しいし、用件だけ聞いてきたの」 「ああ、そういえば・・・。で、なんだって?」 「あのね・・・。って、あれ?イザークたち報告書いいの?」 すっかりディアッカと話し込んでいたキラだが、ふとイザークたちがまだこの場に居ることに気付いた。 「え、あ、まぁ戻らないとな・・・」 「3人でやってしまいましょ、イザーク、あなたの部屋でいいですね」 「まぁかまわんが」 そう話しながらもキラがディアッカに言おうとしたことを話さないかととどまってみる。 が、キラはイザークたちをじっとみつめるだけで続きを放そうとはしなかった。 「時間ないぜ」 結局、キラの話が気になりつつも3人はイザークの部屋へと移動した。
「納得いかないな」 ポツリ、とアスランが零す。 その指は止まることなくキーボードの上を走っており、それでも思考は別のことを考えているらしい。 「何がです?」 「あの二人のことに決まってるだろうが」 ニコル、イザークにいたっても報告書を着々と仕上げながらも口ではまったく別の話をしている。 「やっぱり何があったのかディアッカを問いただす」 「賛成だ」 「でも、そのまえにこれ仕上げましょうね。隊長が居ない間ゆっくり聞き出せばいいだけのことです」 にっこりと笑うニコルに、それでも何か不吉なものを感じながらアスランとイザークもうなづいた。
「終わったか?」
ここでようやくディアッカが部屋に戻ってきた。 ここはイザークとディアッカの相部屋なので、戻ってくることは容易に想像がついた。 「あと少しです。隊長は今どこに?」 「隊長室で執務中だとよ」 そういうと、ディアッカはロッカーを開けて何がし始める。 最初は気にしなかったが、それが荷造りだといち早くニコルが気付いた。 「ディアッカ、何をしているんですか?」 「見て分からない?荷造りだよ」 軍から供給されているスーツケースをの中に必要なものを詰めていく。 「荷造り?貴様、まさか休暇を取るつもりか?」 「違うって。クルーゼ隊長の護衛でプラントだよ。期間は1週間ぐらいだと」 「護衛?」 ニコルとイザークがアスランを見る。 こういうとき、いつもならアスランがクルーゼに付いてプラントへと向かうことがほとんどだ。 だが、アスランが首を振る様子を見ると、どうやら彼は何も聞いていなかったようだ。 「隊長の出頭が決まったのが急遽だったからな。ちょうど隊長室に行ったからその関係なんじゃないか?お前らは書類提出がまだで準備だのバタバタしてられないだろうから」 と話しているうちに手早く荷物をまとめ終えたディアッカは空いている椅子に座った。 「さっきの質問だけどよ」 「質問?」 「まぁ尋問と言ってもいいだろうけど。いっとくが俺とキラは特別な関係はないぞ」 さらりと言ってのけるディアッカだが、それではあのキラの様子はどう説明するつもりなのか。 「まぁ、キラの様子を見ればお前らがかんぐるのも分かるけどな。俺からしてみればまったくお前らの考えはまったく検討はずれ」 「どう外れてるというんです?」 「どうせ、俺がキラにちょっかいだして、とかなんとか思ってるんだろ?」 「手が早いお前のことだからな」 「俺から見れば、お前らの方がよっぽどうらやましいけどな」 そう言ってため息をつくディアッカに、アスランたちは顔を見合わせる。 ディアッカの様子からキラに手を出していないというのは本当らしいが、それでもなぜアスランたちがうらやましいということになるんだろうか。 「どういう意味だ?」 「それはな」 アスランの問いに答えようと口を開いた瞬間、またしても明るい声が部屋の中に飛び込んできた。 「ディアッカ!準備できた?」 入ってきたキラはそのまま椅子に座っているディアッカの背中に飛びついた。 「キラ、準備って?」「今日から一週間、ディアッカと一緒に隊長の護衛でプラント行くの!」 嬉しそうに答えるキラに、アスランは何もいえない。 反動で倒れそうになるのを堪えながら、ディアッカは後ろのキラを振り返る。 「終わったよ。キラの方こそできたのか?」 「もちろん!」 「じゃあ評議会会議室に入室するときにいるIDカードも当然持ったよな」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・とって来い」 「・・・は〜い」 返事をするとキラは慌てた様子で部屋を出て行った。 キラとディアッカのべたべたした様子を久しぶりに間近で見たアスランとイザークは思わずこぶしを握る。 これのどこが何もないのだろうか。 どこが俺たちの方がうらやましいって? 今にもディアッカに掴みかかりそうな二人に対し、一人ニコルだけは何かに気付いたように考えこんだ。 「ねぇディアッカ、今の様子って・・・」 「ようやく気付いた?」 こくり、とニコルがうなづく。 二人の間だけで無言のまま話がまとまってしまうが、アスランとイザークには何が気付いたのかわからない。 それを尋ねると、ニコルは平然と言ってのけた。 「いえ、間近で見ていたからこそ気付いたんですが、キラさんの表情が・・・」 「キラの表情が、なんだ?」 「隊長と一緒に居るときと、まるっきり同じなんですよ」 「「・・・・・・は?」」 ニコルの言葉に、ディアッカはうんうんとうなづき、アスランとイザークは先程のキラの表情を思い浮かべた。 「てことはつまり」 「キラは俺のこと兄貴のように慕ってるだけだぜ。キラは結構なブラコンだからな、そりゃおまえらから見れば親しく見えてもしかたねぇけど、結局は俺はクルーゼ隊長と同類。異性として見られてねぇよ」 だから、立場的にはアスランたちの方がうらやましいと。 「ま、そういうことだから、お前らも気にすんなや」 そう言って立ち上がるとディアッカは準備があるからと自分とキラのおいていったスーツケースを持ちながら部屋を後にした。 取り残されたイザークたちはどこか納得したような、納得していないような表情でお互いの顔を見合わせていた。 |
<あとがき>
久しぶりに更新です。ずいぶん間が空いちゃいましたね。
今回のコンセプトはずばり、「ディアッカ・・・・・・・おにいちゃん!?」でした。
なのですが・・・あまり精進できていませんね;反省・・・・。
前回ディアッカだけがキラに甘く接しなかったので、それがクルーゼとどこかだぶりそれ以来キラはディアッカを兄のように慕っています。
ネタ晴らしをするならば、この時点ではディアッカはキラに恋愛感情は持っていません。
どちらかというと、クルーゼと同じく妹をかわいがる、という感じでしょうか。
だからこそ、アスランたちのように何から何まで手助けするのではなく、自分でやれることはやらせる、できないようならば手を貸すぐらいのことしかしません。
そんなところがキラがなつく要因の一つなのかもしれませんが。