ごめんなさい、みんな。

守れなくて。

ただ、僕はあなた達を守りたかっただけなんだ。それなのに、僕はどうしてあなた達を・・・。

 

『どうして、あなたは私達を殺してしまったの!?

『守るといってくれていたあなたが、どうして私達を殺したの!?』

 

分かっています。

僕は、あなた達を殺してしまった。同じコーディネーターであったあなた達を・・・。

父さんと、母さんを・・・。

 

『キラ、あなたは強い子よ。でも、その力を私達に向けるなんて』

『お前が戦ってくれているから、俺達はお前を信じていたのに。その返事がこれなのか?』

 

殺すつもりなんてなかったんだ!

僕はみんなを守るために戦った!だけど・・・・。

 

『だけど、私達を殺してしまったのよ?その償いを、あなたはどうするの』

 

 

 

 

1週間前、地球連合軍によってプラントのコロニーが襲撃された。

たまたまそのコロニーにはクルーゼ隊が滞在していた。

キラたちは本国からの応援軍が駆けつけるまでの間、コロニーを守りきらなければならなかった。

キラはストライクで、アスラン達も自分のMSに乗って出撃をした。

いきなりの出現で、このコロニーに住んでいるコーディネータはすでに宇宙空間へと脱出している。

キラたちはコロニーだけでなく、その非難民を守ることもしなければならなかった。

コロニー内に進入してきた敵を、ニコル、イザーク、ディアッカで迎え撃つ。

宇宙空間では、キラ、アスラン、ヴェサリウスが応戦していた。

「キラ、思ったより敵の数が多い!無茶はするなよ!」

「分かっている」

地球軍の数はこのコロニーに滞在しているザフト軍の約2.5倍。

いくらザフトの方が、軍事力、性能ともに優れているといっても、この状況ではかなりやばい。

はやく、本国からの応援が来ることを祈るだけだ。

 

ふと気づけば、脱出した避難民のポットに照準を向けている地球軍機が目に入った。

「っ!」

本来、殺しを好まないキラだが、今回ばかりは反射的に体が動いた。

すぐにレーザーを的の機体にあわせ、放つ。

だが、その行動が間違っていたのかもしれない

 

「・・・・・っ!」

キラは、自分の目が信じられなかった。

レーザーは確かに敵の中心を射抜いて、相手を確実に爆破させた。

だが、無意識に複数撃っていたレーザーの一つが、非難民のポットに当たってしまったのだ。

その瞬間、キラの周りの時間はスローモーションのようにゆっくりと流れていた。

自分の放ったものが、避難民のポットの中心をも、貫いてしまったのだ。

「あ・・・、あ、あああああああああっ!」

震える手を見る。

殺してしまった。

誰を?

同胞を、同じコーディネーターだったみんなを!

どうして?

僕が、僕が撃ったんだ!僕が、この手で、ストライクを操って!

あのポットには、一体だれが乗っていたのか。

ポットに書かれていたNO.は確か9・・・・・。

9番地帯には・・・、父さんと、母さんが・・・・。キラの両親が乗っているはずだ・・・・。

「あ・・・、父さ・・・、母さん?う・・ぁ・・・・・ああああああああああ〜っ!」

 

 

その後のことはよく覚えていない。

でも、気がついたら僕はヴェサリウスへと帰還していた。

収容されるとすぐにストライクのコックピットが開かれ、アスランの顔が覗いた。

「キラ!」

僕はそんな彼の顔を見ながら、ゆっくりと意識を手放した。

一筋の涙をこぼして・・・。

 

あれから2日、キラはまったく目を覚まさなかった。

目覚めたのは医務室。目を開けば、目の前にはアスランやイザークたちの心配そうな顔が飛び込んできた。

すべては、もう終わってしまっていた。

よく覚えていないが、宇宙空間にいた地球軍をほとんど撃退したのはキラの乗るストライクだった。

あのポットを破壊してから、信じられないような操縦をキラは見せたという。

たちまち地球軍の機体は数を減らしていき、一気に地球軍は撤退したという。

それでもまだなお追おうとするストライクを、アスランの乗るイージスがヴェサリウスへ連れ帰ったのだという。

キラのポット破壊の件については、まったくの処分はないとのことだった。

あれは、事故ということで片付けられたそうだ。

戦争中、身内の犠牲があるのはしかたのないことだと。

だから、キラはこれからもクルーゼ隊に残り、ストライクに乗らなければならない。

「キラのせいではないよ。あの時はしかたなかったんだ」

「お前が気に病むことはない。悪いのはいきなり襲撃してきた地球軍だ」

「キラさんが気にすることじゃないんですよ」

「地球軍を撤退させたお前のことを、みんな評価してくれているんだぜ?もちらん、クルーゼ隊長もだ」

みんなは口々にキラを励まそうとしてくれているのだが、キラの耳には一切入っていなかった。

まるで、意識を持たない人形のように、キラはただ存在していた。

 

 

 

『あなたは何のために戦っているの?』

みんなを、同じコーディネータを守るために。

『だったら、なぜ、あなたは私達を殺してしまったの?』

僕は、みんなを殺したかったわけじゃ・・・・。

『でも、結果は同じでしょう?あなたは私達に、刃を向けたのだから』

それは・・・。

『あなたはその償いを、どうするつもりなの?』

 

 

はっとキラは目を覚まし、体を起こした。

全身汗びっしょりになっていて、気持ちが悪い。

ここは医務室。あれから精神的に不安定だと判断されたキラは、自分の部屋ではなく医務室で治療を受けていた。

毎日見る、あの夢。

避難民ポットを撃破したときのことを今この瞬間のように、夢に何度も見る。

自分が撃ち落してしまった同胞が、毎日キラを攻め立てる。

どんなに後悔しても、どんなに謝ったとしても、あの人たちが帰ってきてくれるわけではない。

今まで、いろいろな人の命を奪ってきた自分。

でも、同胞まで手にかけてしまうなんて。

どうすれば、僕はあの人たちに償える?

どうすれば、僕は許されるんだろう。

 

 

『簡単なこと。あなたが私達のところに来ればいいの』

みんなの、ところへ?

『そう。そして私達に謝ってくれれば、それでいい。それで、あなたは許されるのよ?』

許される?許してもらうことなんて、できるわけがない。

『どうして?そうすれば、私達はあなたを許してあげられるのに』

 

 

 

キラはゆっくりと、再び目を覚ました。

いつの間に、眠っていたのだろうか。最近眠りと覚醒の繰り返しで、自分でもおきているのか、寝ているのかの区別ができなくなってきている。

みんなのところへ行けば、許してもらえるのかな。

この僕が犯した、罪の全てを。

ふと、キラの目に果物ナイフが留まった。

頻繁に見舞いに来ているアスラン達の忘れ物かもしれない。

これで、僕はあの人たちのところへ行くことができるかな。

キラはそのナイフを手に取ると、自分の手首に押し当てた。

その部分からは赤い血が、ぽたぽたと流れ落ちてくる。

キラは、呆然とその流れる血をじっと見つめていた。

痛みはない。

これで、みんなのところへ行くことができる。

ようやく、この僕の罪が許される。

 

 

思ったより仕事が早く済んだニコルは、医務室にいるキラの様子を見に行くことにした。

精神的に不安定なのは誰がみても明らかだったが、ニコルたちGパイロットはそれを敏感に感じ取ることができた。

だからこそ、キラのことが心配だった。

「キラさん、気分は・・・・っ!何をしているんですか!」

医務室の中に入ったニコルの目に飛び込んできたのは、片手にナイフを持って、もう片方の腕から血を流しているキラの姿だった。

「あ、ニコル」

キラは何事もなかったかのようにニコルの微笑んだ。

すぐにニコルが駆け寄って傷をみると、思った以上に深い。

ぽたぽたとおちている赤い血。シーツに広がるしみをみても、傷を負ってかなりの時間がたっているようだ。

このままだと、キラは死んでしまう!

「アスラン、イザーク、ディアッカ!いますぐ、医務室に来てください、早く!」

そう通信機に叫ぶと、ニコルは手じかにあったタオルなどでキラの傷口を縛る。

「どうしたの?ニコル」

「どうしたじゃありません!どうしてこんなこと・・・」

「僕はみんなのところへ行こうとしているだけだよ?」

「みんなって・・・?」

「僕が傷つけてしまった人たち、みんな」


今まで夢でいつも怒られてたんだ。なんでみんなを殺したのかって。

どうしたら許してくれるのかって聞いたら、僕がみんなのところへ謝りにきたら、許してくれるって。

だから、僕は行くんだ、みんなのところへ。

そして、謝って許してもらいたいの。


「そんな・・・・」

そういって微笑むキラは、なぜかこの世のものと思えないくらい、儚くて、美しいものに感じた。

キラの腕を押さえているタオルは、見る見るうちに真っ赤に染まっていってしまう。

血が、止まらなかった。

「もうすぐ、もうすぐだよ。みんなのところへいける」

 

 

キラの嬉しそうな顔を見て、ニコルは知らずに涙をこぼした。

どうして、こんなに優しい人が、こんな戦争なんてしているんだろう。

どうして、この人がこんなに苦しまなければならないんだろう。

自分が変われるものなら、変わってあげたいのに。

この痛みも、苦しみも。全部変わって上げられたらいいのに。

 

だから、だれか助けてください。

この、傷ついた、美しくも儚い魂を。

 

 

〜あとがき〜

斑乃 碕様からいただきました、シリアス系の小説です。
今回、シリアス系を書いたことがなかったので、どうにもうまく進ませんでした。
リクエストを受けてからずいぶん日にちがたってしまいました。

登場人物、少ないですねぇ。
それもCPが成り立っていないし・・・。

斑乃 碕様、いかがでしたでしょうか。
感想のほど、お待ちしております。