ある日、アスラン・ニコル・イザークはその日の訓練を終え、軍の用事でヴェサリウスから外出していた。

「これで、とりあえずは終わりだな」

「ええ。あとは艦に戻ってクルーゼ隊長への報告だけです」

「これぐらい一般兵にやらせておけばいいものを」

イザークがめんどくさそうにいう。

それもそのはず。

今回の外出の目的はザフト関係者への情報交換。

本来ならばアスラン達パイロットがするべきことではない。

だが、今日は艦の整備に人を使っているため、アスラン達以外に暇な人間がいなかったのだ。

 

「おい、あれラクス・クライン嬢ではないか?」

「え?」

イザークが指し示す方向をあわててアスランが見ると、その方向には確かにラクスの姿があった。

「ラクス?」

どうやらラクスは何人かの男達に囲まれているようだ。

あわてたアスランは、すぐに駆け寄る。イザークとニコルもそれに続いた。

「貴様ら、そこで何をしている!?」

アスラン達は一定の距離を保つと、男達に拳銃を向ける。

それを見た男達は、ちっと舌打ちすると、バラバラと散っていった。

「ラクス、大丈夫ですか?」

「あら、アスラン。お久しぶりですわ」

今男達に囲まれていたというのに、ラクスはまるでおびえた様子もなく側によってきたアスランに微笑んだ。

あいかわらず、天然だよな、ラクスは・・・。

安心したようにため息をつくと、アスランはふとラクスの側にいる少女に気づいた。

少し長めの茶髪に、印象深いアメジストの瞳。

今までみたどんな子よりも、可憐で美しく見えた。

アスランより先に彼女に気づいたニコルとイザークも同様で、じっとキラを見つめている。

そんな視線に気づいたのか、少女は首をかしげる。

「ラクス、僕の顔に何かついてるかな?」

「いいえ。キラの顔はいつも通りかわいらしいですわ。3人はあなたに見惚れているだけですわよ」

自分の婚約者であるアスランのことも含めて言った。

「僕じゃなくて、ラクスに。の間違いでしょ」

「私の顔など、どこにでもありますわよ」

「どこにでもって・・・・」

確かに、ラクスは歌姫としていろいろなTVやポスターなどにも顔を出しているが。

キラと呼ばれた少女はあきれたように笑ってラクスの横に並ぶ。

「はじめまして。キラ・ヤマトといいます。よろしく」

「あ、はじめまして。僕は・・・」

「ニコル・アマルフィさん、ですよね。それでそちらがイザーク・ジュールさん。で、アスラン・ザラさん」

キラが自分達の名前を言い当てたことに、少々驚く。

「えっと、俺達のこと知っているの?」

「クルーゼ隊は有名ですし、よく聞いてもいますから」

アスランはそう聞くと、ラクスに視線を移した。

ラクスはそれを受けてにっこり微笑んだので、自分達のことを話したのはラクスなのだと、アスランは考えた。

「ところでラクス、どうしてここに?」

「追悼慰霊団のお仕事でキラとこちらに来たのですが、護衛の方々とはぐれてしまって」

「撒いた、の間違いでしょ」

「そうともいいますわね」

ようするに、ラクスはキラと2人で勝手に抜け出してきたということらしい。

あいかわらず、無茶をするお姫様だ。

でも、護衛が側にいないのならば、このまま2人を残しておくわけにはいかない。

ここならば2人を送るよりヴェサリウスに連れ帰ったほうが利口かもしれない。

「ラクス、一度ヴェサリウスへ。護衛もつけずにいるのは危険です。キラさんもよろしいですね」

「そうですか?では、お邪魔します」

「ちょっとラクスっ」

「いいではないですか、キラ。ヴェサリウスへ行けば彼に会えますよ」

「それはそうだけど。でも、あいつは軍人で彼らも今は任務中でしょ?邪魔になるよ」

キラは彼らが着ている軍服を見ていったのだろう。

軍人とて休暇はあるが、そのときは皆軍服を脱ぎ私服を着用する。

軍服を着て艦を出ているということは、何か軍の仕事があるということを示している。

「それならご心配なく。今日やることは終わっていますから」

ニコルがそういってくれるが、キラはでも・・・、としぶる。

「キラは彼に会いたくないのですか?」

「そりゃ、会いたいけど・・・」

「でしたら、決まりですわね」

ラクスがいう「彼」が誰なのか非常に気になるところだが、アスラン達はとりあえずヴェサリウスへとラクスとキラを連れて歩き出した。

 

 

ヴェサリウスへ戻った後、アスランとイザークは報告の為クルーゼの元へ。

ニコルは2人を客室へと案内した。

「すぐにアスラン達も戻ってくると思いますよ」

そういってニコルは2人に飲み物を差し出した。

それを受け取って飲んでいるうちに、アスランだけが客室に戻ってきた。

「おかえりなさい、アスラン。あれ、イザークはどうしたんです?」

「ああ、医務室によると言っていた」

「まだディアッカは医務室にいるんです?」

「そうらしい」

2人がそう話しているとき、ふいにガチャンという音が聞こえる。

はっとしてそちらの方をみる2人が見たものは、真っ青な顔をしてコップを取り落としているキラと、それを横で支えるラクスの姿だった。

「キラ、しっかりなさい。アスラン、ディアッカ様はお怪我を?」

「え、ええ。訓練中に少し。でも、たいしたことはありませんが・・・・」

「でしたら、会わせていただいてよろしいですね」

「あ、僕呼んで来ます」

ニコルはそういって部屋を飛び出していった。

アスランはその間、真っ青な顔をして体を振るわせるキラと、それを支えるラクスの様子を呆然と眺めていた。

 

 

「なんで俺がいかなきゃならないんだ?」

医務室でイザークと話していたディアッカは、ニコルの急な呼び出しによって客室の方に向かっていた。

「いいから、急いでください」

「へいへい」

まったく。

怪我をしたときぐらい、大人しくしていろって言ったのは自分達ではなかったか。

イザークが自分の様子を見るために医務室に来たのはいいとして、ニコルは訪ねてきた途端に一緒に来い!だ。

イザークのほうも意味が分からないという風にニコルの後を付いていっている。

面倒くさいと思いながらも、ニコルに逆らうと後が怖いので大人しく着いていく。

「連れてきましたよ」

ニコルは部屋に入るとすぐに誰かに駆け寄った。

その人物ははっとしたように顔を上げたのだが・・・・。

「あ・・・、キラ?」

「ディアッカっ!」

キラはディアッカの姿を確認すると同時に、ディアッカに駆け寄り抱きついた。

「おっと」

ぶつかるようにして抱きついてきたキラを、ディアッカは抱きとめる。

抱きとめたキラの体はかすかに震えていて、どうやら泣いているようだった。

「おい、キラどうした?誰かにいじめられたか?」

「・・・・、怪我したって・・・、聞いた」

「あ?ああ・・・。大丈夫、たいしたことないよ」

ほらな、といってキラをぎゅっと抱きしめる。

そんなディアッカにホッとしたのか、キラは少し体を離して傷を確かめる。

確かにそれほどひどい怪我をしたわけではないようだ。頭に包帯を巻いているが、それほど大げさなものではない。

包帯の上にそっと手のひらを添える。

「痛い?」

「ま、多少はな。でもドクターからは2,3日で治るってお墨付きもらってるから。本当に心配いらねぇよ」

そういって微笑んでくれるディアッカに、キラはようやく安心したようだ。

「ディアッカ、知り合いですか?」

落ち着いたらしいキラとディアッカに、ニコルが尋ねた。

それにはアスランとイザークも同意見らしく、じっとディアッカのことを見ている。

「なんだ、まだ言ってなかったのか」

「そういえば・・・・」

「キラは俺の婚約者なんだよ」

「え?」

「そうなんですか?」

「初耳だぞ」

ディアッカの婚約者発言に、3人は驚く。

どうやらラクスは知っていたらしく、アスランの横に立ってにこにこと笑っている。

彼女がさきほど言っていた『彼』というのも、どうやらディアッカのことらしい。

今までこの中で婚約者がいるのはアスランだけだと思われていたから。

でも、ディアッカに抱きついているキラはいかにも幸せそうで、婚約者というのもなぜか納得できてしまった。

「でも、なんでお前がここにいるんだ?姫さんも一緒に」

「追悼慰霊団の仕事でこちらに来ていましたの。そしたらアスラン達にお会いしてこちらに」

「へぇ。ちゃんとやれてるのか?」

「ディアッカが軍でやっている程度にはね」

「言うじゃないか」

2人は話がら笑いあう。

完璧に二人の世界、といった感じだ。

アスラン達が入る隙間が、すこしもない。

だが、ラクスはそんなことは気にしないという風に、キラとディアッカの横に並ぶ。

ディアッカたちはアスラン達の存在を無視するように、世間話を多数繰り広げる。

一緒に話したくてもなかなか3人の中には入れない。

「そうそう、私、ディアッカ様に会ったらまず、いわなければならないことがありましたの」

「俺に?」

「ええ。余計なことかもしれませんが、キラにもう少し連絡をするように心がけていただけません?」

「ちょっ、ラクス」

いきなり言い出したラクスに、キラは戸惑う。

軍人であるディアッカに我侭を言って困らせたくはない、嫌われたくもない。

キラはいつもそう思っている。

「だって、ディアッカさまからのご連絡はよくて週1。少しでも連絡が遅れると死ぬほど心配しているのですよ、キラは。ですから、もう少しこまめに連絡を取ってキラの心労を軽くしてくださいな」

ディアッカからの連絡が少しでも遅れると、何かあったのではないかとラクスに相談にくる。

そんなキラがかわいいと思いながらも、キラに心配をかけるディアッカが許せなくもあった。

「んなに心配しなくても大丈夫だって」

「男性の方はそうかもしれませんが、女はそう簡単にはいきませんの。お約束願えますか?」

「ん〜、キラ、お前はどうなんだ?」

ディアッカからのメールは週に1度。だが、キラからのメールは日に1度。

ディアッカにしてみればキラの動向はメールで確認できるからいいと思っていたのだが、よく考えてみればキラはディアッカの情報が週に1度しか受け取れないのだ。

確かに、それは不公平なのかもしれない。

「僕は・・・」

「はっきりいいなさいな、キラ」

「遠慮はするなよ」

「できれば・・・・、もう少しメール欲しい・・・な。それに、声もたまにでいいから聞きたい」

「・・・・・・OK」

ディアッカは再びキラをぎゅっと抱きしめる。

おとなしく抱きしめられながらも、キラは付け加えることを忘れなかった。

「でも疲れている時や忙しい時は無理しないでね」

「わかっているよ」

 

 

その後、ヴェサリウスから連絡を受けた追悼慰霊団の人間がキラとラクスを迎えに来た。

アスラン達は見送りのためにそのまま一緒に外にでた。

が・・・・・。

アスラン、ニコル、イザークはやはりやめておけばよかったと後悔もした。

「じゃあ、怪我とかしないでよ、ディアッカ」

「ああ。キラも気をつけろよ」

ちゅっ

といって、キスを交わす2人をじかに見てしまったからだ。

ラクス達の姿が見えなくなったディアッカは、アスラン達からキラのことに関する質問攻めにあったとか。

 

 

〜〜数日後〜〜

「キラ、その後ディアッカさまからのご連絡はどうです?」

「あ、うん。あれから最低でも3日に1度はメールくれるようになった。それはいいんだけど・・・・・」

「?どうしました?」

「これ」

キラが示した画面を見ると、そこには知っている名前が数多く並んでいる。

アスラン・ザラ

イザーク・ジュール

ニコル・アマルフィ

ディアッカ・エルスマン

メールの数の大きいほうから並べるとこんな感じ。

「まぁ」

あまりのことにラクスも呆れ顔。

イザークやニコルは1日に多くても3通。少なくて1通。

だが、アスランは毎日必ず10通以上は送ってきている。

一番待っているディアッカからのメールは数えるしかないというのに。

そんな状態に、ラクスは再びため息をつくしかなかった。

 

 

〜あとがき〜

河内由布さまからのリクエスト「ディアッカ婚約者」です。
これを考えているとき、なぜかラクスが出張っているものが出てきていて、なんかディアの活躍がものすっっごく少ないような。
でも、ディアッカってこまめにメールしなさそうじゃないですか。
逆にアスランは気を引くために山ほどメールを出していそう。
だから、ディアッカの情報なんかはアスランのメールで得ることの方が多いとか(笑

河内さま、いかがでしたか?