ディアッカは面倒だとは思いながらも、指定されていた一時間後近くの自然公園へと足を向けた。

休日ならではで、たくさんの人が楽しそうに微笑んでいる。

こんなところに呼び出して、イザークは何だというのか。

そういえば、前によくアスラン達と一緒にこの公園に来ていたっけ。

あれは、自分達がクルーゼ隊に所属される前。

あの頃、自分はまだキラへの特別な気持ちに気づいてはいなかったのに。

ディアッカは公園の奥、一番大きな木が植えてある場所へと足を向けた。

そこが、ディアッカは一番好きだった場所。

大きくて、なぜか包み込んでくれるようなそんな感じが好きだった。

 

「あ・・・・・」

ディアッカは木に寄りかかっている人物に、思わず隠れてしまう。

キラ、だった。

なぜ、こんなところにいるのか。

いや、そもそもイザークがこんなところに呼び出すにはわけがあると思っていたが、まさかキラがいるとは思わなかった。

このまま会うのは、非常にやばい。

やはり、帰ろう。

そう思って身を翻したときに、信じられないほど心細そうな声が聞こえてきた。

「ディアッカ・・・・」

気づかれたかと振り返れば、キラはうつむいたままこちらに気づいた様子はない。

ホッとしたのもつかのま、ディアッカはキラの様子がおかしいのに気づいた。

木に寄りかかり膝を抱えているキラは、なぜか泣いているようにも見えた。

「ディア・・・、なんで・・・・」

キラはずっと自分の名前と、なぜ、どうしてという言葉を繰り返している。

肩が震えているから、きっと泣いているのだろう。

でも、なぜ?

どうしてキラは・・・・・・。

「キラ・・・」

ディアッカはそっと近づくと、キラの前にかがみこんだ。

そっと肩に触れると、ビクッと体が震えてキラの顔が上がる。

「あ・・・・・」

キラの目が、信じられないものを見るかのように大きく開かれる。

震える手が、ディアッカへと伸ばされる。

「キラ・・・」

名前を呼ぶのと同時に、キラの手がもう少しでディアッカに触れることができる位置で、とまった。

「ちが・・・う、ディアッカじゃない」

「キラ?」

「だって、ディアッカは僕のこと嫌いになっちゃったんだもん。だから、きっと触れたら消えちゃうんだもん」

そういうと、キラのアメジストの瞳からはポロポロと涙がこぼれる。

「なんでディアッカは僕のこと嫌いになっちゃったの?僕、何をしたの?どうしたら・・・」

どうしたら、また好きになってくれるの?

キラの言葉の一つ一つが、ディアッカの胸に突き刺さる。

どういうことなのだろうか。

どうして、キラは俺に嫌われたと思っているんだ?

そもそも、どうしてこんなに泣いている?傷ついているんだ?

「キラ・・・」

「僕・・・、僕は、ディアッカが僕を嫌いでも、ずっと好きだから。だから・・・・」

その言葉を聞いた瞬間、ディアッカはキラを抱きしめていた。

「キラ」

「え、ディアッカ?え、なん・・・で、どうして?」

「ごめん、キラ」

「ディアッカ、本物?」

「ああ。本当に、ごめん」

「ディア・・・カぁ・・・・」

キラはディアッカに思い切り抱きつくと、ディアッカの胸に顔を押し付けて大声で泣いた。

途中泣き声の間に、嫌わないで、側にいてと繰り返されるのを聞いて、ディアッカはそのたびに、キラを強く抱きしめて、落ち着くまで背中を撫でることを繰り返していた。

 

キラがようやく泣き止むと、ディアッカはキラを膝の上に抱き上げ、自分は木に背中を預けた。

キラはまだディアッカの首に腕を巻きつけて離れようとはしない。

離れてしまえば、きっと消えてしまうだろうと考えているからかもしれない。

「ディアッカ?」

「ん?」

「なんで、ディアッカは僕のこと嫌いになったの?」

「嫌ってなんかいないよ。逆さ。俺はお前のことが好きで好きでどうしようもない」

「うそ。だったらなんで僕と別れるなんていったの?それに、僕には他に好きな人がいるって・・・。僕が好きなのはディアッカ一人だけだよ?」

「でも、俺は聞いたんだ。お前が、イザークに向かって好きだと言っていたのを」

「それ、いつのこと?」

「俺がヴェサリウスを降りる、3日前だったかな」

キラは自分の記憶をよ〜く思い出しながら、考え込んだ。

が、分かった瞬間くすくすと笑い出してしまった。

「それ、ディアッカのことだよ」

「あ?」

「イザークにね、本当にディアッカのこと好きなのかって聞かれたの。だから、好きだって答えたんだ」

だから、ぜんぶディアッカの勘違いだよ。

そう聞かされると、ディアッカは驚いたように目を見開いた。

では、今日まで悩んでいた俺はなんだったんだ?

イザークに嫉妬して、キラのためなんだと自分に言い聞かせて身を引いて。

一体、何のために俺はそんなことをしていたんだ?

「どうして、僕がイザークのことを好きだなんて思うかな」

「だってよ、お前イザークと最近仲よかったじゃないか。それで、俺は嫉妬して・・・」

「イザークと一緒にいたのは、ディアッカのことをいろいろ聞いていたんだよ。僕は、クルーゼ隊に入って初めてディアッカと会ったけど、イザークはそれ以前からディアッカのこと知っているし。いろいろ教えてもらっていたんだ」

ディアッカが好きなもの、好きなこと。

ディアッカが昔したという、いたずらや、活躍。

自分が知らないディアッカを知っているイザークが正直うらやましくもあったが、その話を自分が聞くことでディアッカのことをもっとよく知ることができるような気がした。

「そうか・・・。でも、これからは俺に聞いてくれよ。イザークじゃなくてさ。じゃないと、俺また嫉妬するし」

「うん、心得ておくよ。でもね・・・・・」

キラは再びディアッカに強く抱きついてその肩口に顔をうずめた。

「キラ?」

「もう、どこにも行かないで。ずっと・・・、側にいて・・・」

じゃないと、耐えられないから。

半分泣いているような声で、キラは言った。

「ああ、ずっと側にいるよ、キラの、ここにな」

ディアッカはキラを安心させるように、再び力を込めて強く抱きしめた。

 

 

いつの間にか眠ってしまったキラを、ディアッカは自宅へと連れて帰ってきた。

確か、キラは今プラントでは一人暮らしをしているはずだ。キラの両親は別のコロニーに住んでいるから。

自分のベッドに横にすると、また部屋がノックされた。

「誰だ?」

「私だ。ディアッカ、入るぞ」

そういってタッドが入ってきた。その視線はディアッカの側で寝ているキラへと注がれている。

「その子か、お前が惚れているという子は」

「あ、うん・・・。そうだ!軍のことなんだけど」

「安心しろ、クルーゼ隊からの移籍の件は保留にしてある。どうせ、こんなことだろうと思っていたからな」

さすが、ディアッカの父。

全てお見通しだったらしい。

近くによって、じっとキラの寝顔を見た。

「今日、イザーク君が私の元へ来たよ」

「イザークが?」

「お前のことだから、私に軍の移籍を頼んでいるかもしれないが、今日中にはその問題は片付くだろうから移籍の件は待ってくれ、とな」

くわしいことは、全て彼から聞いたと、タッドはディアッカに教えてくれた。

ようするに、イザークはディアッカとキラの後始末を全て引き受けてくれたわけだ。

これで、ディアッカは当分イザークに頭があがらないだろう。

いや、それは今も昔も変わらないか。

「いいことだな、自分を心配してくれる友がいるということは」

「ああ、そうだな」

「それでは、私はまだ仕事が残っているのでね、もう戻ることにするよ。ああ、この子には泊まっていってもらいなさい。夕食のとき、私もいろいろと話してみたい」

「・・・・・分かった」

もとより、今日は帰すつもりなどないのだから。

タッドが車で戻る際、ディアッカにしてははめずらしく父を送るために玄関まで出てきていた。

車に乗り込もうとしたタッドは思い出したように言った。

「そうそう、イザーク君から伝言を頼まれていた」

「伝言?」

「ああ。もし、今度キラを泣かせるようなことがあったら、今度こそ本当に俺のものにするからな、だそうだ」

「・・・・・マジ?」

「せいぜい、奪われないようにするんだな。彼はいい男だぞ」

「わかってるよ、それぐらい」

愉快そうに笑って出かけていったタッドを見送ってから、ディアッカは再び部屋へと戻ってきていた。

キラは相変わらず、幸せそうに眠っている。

思いきり泣いたせいか、目元が赤くなってしまっているが。

「・・・・・ディア・・・・」

寝言をつぶやくキラがかわいくて、ついついいたずら心にキスをしてしまう。

「今度こそ、絶対にお前を悲しませたりしないからな」

 

 

 

〜あとがき〜

龍蘭さまからいただいた「イザキラ風味のディアキラ」です。
なんか・・・、書いていてディアッカの性格と行動がどうにも違うもののように感じていて。

キラは自分の知らないディアッカを少しでも知りたくてイザークに話を聞いていたんだけど、それがディアッカにはおもしろくなかったんですね。
相手を知ろうとするとき、その相手を傷つけるようなことは避けたいことです。

何はともあれ出来上がりました。
龍蘭様、いかがでしたでしょうか。感想のほど、よろしくお願いします。