・・・・・は? ディアッカは自分の耳に聞こえてきた言葉に耳を疑った。
ファースト・キス
「だから、キスの仕方の仕方教えて?」 教えて?といわれても、ディアッカは目の前に座っている人物を凝視するしかできなかった。
キスの仕方?
って、あのキスだよな?
でも、それが何で俺に?
わからないことだらけで、頭の中にはひたすらに?マークが飛びまくっている。 だが、キラはそんなディアッカの様子が逆におかしいとでも言うかのように首をかしげていた。 「どうしたの?」 「いや、どうしたの?じゃなくて・・・。なんだって急に、・・その、キスの仕方なんて知りたいんだ?」 相手はこのクルーゼ隊、いや、ザフト全軍のといっても過言でないほどのアイドル的存在だ。 それがどうしていきなりキスのやりかたぐらいを知りたいなどと突拍子もないことを言い出したのだろう。 「・・・なんとなく。知りたかっただけ」 なんとなくでそんなことを教わりに自分の所に来ないでほしい。 そんなことを考えて動揺しているディアッカはキラが微かに頬を染めていることにも気付かなかった。 確かにディアッカはキラに好意を寄せているし、何もしないでキスができるなら、普通なら単純に喜ぶだろう。 だが、相手はキラだ。 最悪、自分の命の危険がある。 「ね、教えてくれない?」 キラは座っていた椅子から立ち上がってベッドに腰掛けているディアッカの目の前まで近づいた。「いや、まぁとにかくそれはわかった。だけど、なんだって俺のところに来たんだ?」 キラを構いたがっている奴なんてこのヴェサリウスの中にはたくさんいる。 それこそアスランやイザークを筆頭にいくらでも。 そんな奴らをえらばず、どうしてキラは自分を選んだのか。 「だって、ディアッカが一番そういうのに慣れてるんでしょ?」 「・・・・はい?」 「みんなそういってる。ディアッカはキス上手だって」
みんなって誰でしょうか・・・。
ディアッカは真剣にそう訪ねたくてしょうがなかった。 「それに、昨日ディアッカ、キスしてたじゃない」 「昨日?」 言われてディアッカは考える。 昨日、何かあったか? 「・・・・・談話室で、オペレーターの人とキスしてたじゃない」 「あ?・・・・ああ、思い出した」 一人でくつろいでいた俺に近づいてきてべたべたしてきた女だろう。 別に相手する気にもなれなくてそのまま放っておいたが、何もしない自分にじれたのかわざわざ屈んでキスしてきた。 異臭としか思わないようなコロンをつけていて、とにかく最悪のキスだった為に記憶からも消していた。 誰も見てないと思っていたのに、まさかキラに見られているとは。 「それで俺ならキスを教えてくれると思ったのか?」 「・・・・、うん。そうだよ・・・」 なぜか言いにくそうに目線を外すキラに、ディアッカはどうするべきかと頭を掻く。 今更気取ったところでキラにあの現場を見られていれば遊び人同然に思われているだろう。 ならばここでキスしてもいいのではないだろうか。
結局、キラは自分の物にならないのだから。
「んでも、キスの仕方って、アスランとしたことあるんだろう?」 以前アスランがそう言ってイザークに自慢していたことがあったのを覚えている。 「幼馴染だから、ほっぺたとかにはいつもしてたけど・・・・」 「ああ、なるほどね」 確かにアスランも唇にキスをした、とは一言も言っていなかった。 「それじゃ、まぁ・・」 ディアッカはキラの腕を引いて抱き寄せると、その唇に触れるだけの小さなキスを落とした。 ほんの少しだけ触れてすぐに離してしまったが、それはとても柔らかくて今まで感じたことのない喜びが胸の中に広がった。
想い人の唇は、温かかった。
「ほら、これでいいんだろう?」 十分だとばかりにキラの腕を離したディアッカだったが、逆にキラは納得いかないというような表情でディアッカを見た。 「いや、ちゃんとして!」 「は?」 「ちゃんとキスして!こんなんじゃやだ!」 まるで駄々をこねるように叫ぶキラに、ディアッカは重くため息をついた。 これは理性との戦いになりそうだ・・・。 「ちゃんとしたキスって、どんなキス?」 「・・・・え?」 「キラはどんなキスを俺に教えてほしいわけ?」 キスといっても、いろいろある。 今キラと唇を合わせたこれも、確かにキスだ。間違ってはいない。 だがキラが望んでいるのは『別の種類のキス』らしい。 「え・・・と・・・、あの・・・・」 「ん?」 「・・・・の、キス・・・」 「きこえねぇぞ」 「恋・・・人同士の・・・キス・・・・・」 「恋人同士のキスがいいのか?」 きちんと訪ねると、キラは耳まで真っ赤にして、だがしっかりとうなづいた。 何をおもってそんなことを知りたくなったのか。 「しかたないか・・・」 ディアッカは再びキラの腕を取ると、それをぐいっと引きキラの体を自分の膝の上に引き上げた。 「ディアッカ?」 自分の膝をまたがせてそのまま引き寄せると、二人の距離はぐっと近くなった。 「ディア・・・・・・んう・・・・・・」 背中と頭に手を回しくちづけると、いきなりのことに驚いたのかキラはぎゅっと目を閉じた。 そんな仕草がかわいいと思いつつ、ディアッカはゆっくりと唇をついばめた。 「あ・・・・んむ・・・・・、ぁ・・・・・」 やわらかな唇を堪能するかのように軽く吸ったり、少し唇を強引に重ねて少し開かせる。 ディアッカの服をぎゅっと掴んでいた手を開かせると、それを自分の首へと回させる。 ディアッカの意図に気付いたのか、キラも腕に力をいれさらに体を密着させた。 「ん・・・・ん・んん・・・・・、は・・・・・・」 キスを教えてくれというだけあって、キラはたどたどしくディアッカのキスを受けていた。 唇を吸ったり歯列をなぞったりするたびに、びくっとはねるキラの体。 ういういしいそれに、次第にディアッカも溺れていった。 ゆっくりとキスを深いものへと変えていく。 「・・・・・・はふっ・・・・」 ちゅっと音を立てて唇を離すとキラはキスに溺れかけた吐息を大きく吐き出した。 ぎゅっとつぶっていた目を開き視線をディアッカに向けてくる。 その目はキスの余韻が残っているのか、ぼんやりと潤んでいた。 「キラ、ちょっと口あけて。・・・少しでいいから」 「・・・・え・・・?」 言われていることを理解しているのか、ぼんやりとしたままキラは小さく口を開いた。 「ディア・・・カ・・・?ん・・・んん・・・・っ」 キラの小さく開かれたそれに、先程のキスとは逆に深く強引に口付けた。 再び目を閉じたキラは、ディアッカにすがる腕に力を込めた。 「あっ・・・あふ!うく・・・・ふ・・・んく・・・・・・」 割り開いた口に自分の舌を差込み、驚いて逃げようとするキラのそれにそっと触れた。 とたんびくっと震えて反射的に目を開いたキラだったが、じっと自分を見つめているディアッカの視線に気付いて慌てて目を閉じた。 「ん・・・・ふぅ・・・・・っ」 「キラ、息しろって。唇からじゃなくて、・・・・そう・・・」 「ん・・・・・ふ、はふ・・・・・」 キスがはじめてのキラは、ディアッカのキスに進んで応じることはない。 しばらくその幼い反応を楽しんでからディアッカはようやくキラの唇を解放した。 「ふ・・・・はぁ・・・・・・」 巧みな舌に翻弄されてしまったからか、解放してからもキラの体からは力が抜けていてしばらく空ろな視線を泳がせて、くったりとディアッカに体を預けて浅い呼吸を繰り返す。 「どうだった?」 「ん・・・・・・・」 こてっと力を抜いてディアッカに寄りかかるキラに苦笑が漏れる。 やはりはじめてのキスだというのにやりすぎただろうか。 「大丈夫か?」 「だいじょう・・・ぶ」 「にはみえないけど」 キラが落ち着くように背中をなで髪を梳いていたが、ふと小刻みにキラの体が震えているのがわかった。 「キラ?」 顔を微かに上げさせれば・・・。
キラは、泣いていた。
「お、おい。どうしたんだよ。苦しかったか?」 慌てるディアッカにキラは静かに首を振った。 「それじゃ、嫌だった・・・とか?」 再びキラは首を振る。 「ごめ・・・そう、じゃ・・・ないの・・・・」 「キラ・・・・」 「ごめんなさい・・・・・」 「いや、ごめんて・・・。とにかく泣き止んでくれよ・・・・」 「うん・・・・」 それからしばらく泣き続けるキラを慰めていたディアッカだが、ようやくその理由を聞くことができた。 「・・・・嫌、だったの・・・・」 キスが嫌だった、ということだろうか。 やはり最初にあれはやりすぎだったか。 だが、一応はキラが望んだことだし、念は押した。 「キスが、嫌だったんじゃないの」 ディアッカの考えていることがわかったのか、キラはそう否定した。 キスが嫌じゃなかった。 それじゃ、キラは何が嫌だったんだ。 「ディアッカが・・・こういうキスを、他の人にもしてるって思ったら・・・嫌だったの・・・」
・・・・・は・・・・・・?
「ディアッカが他の人とキスしてるのに、僕してもらったことないし・・・。それに昨日の見て、胸がぎゅってして、痛かったの」 「えっと、・・・キラ?」 「だからディアッカにキスしてもらえばぎゅってするの治るかなって思ったんだ」 「あ〜と・・・・、それで、治った・・・のか?」 「ううん」 キラは静かに首を横に振る。 「キス、すごく気持ちよかったけど、同じだけ胸が痛かった。他の人にもこんなキスしてるんだって思って・・・、それが・・・・・」 嫌だった、とキラは泣く。 だが言われたディアッカはどうしたらいいか正直わからなかった。 キラがキスを教えてと言ってきたときは本当に軽い気持ちだったのに、こんなにキラが思いつめるとは思っていなくて。 それに、これではまるで・・・。
「嫉妬、してるみたいだな・・・」
ぽつり、とつぶやいた言葉は当然のようにキラにも伝わり、キラは涙で潤んだ瞳でディアッカを見上げた。
「みたいなんかじゃない」 きっと睨みつけられて、ディアッカはぐっとひるむ。 「みたいじゃないもん。嫉妬、してるんだもん」 「・・・え?」 「ディアッカのこと好きだから、嫉妬してるの!」 顔を真っ赤にしてそう叫ぶキラに、正直ディアッカの思考は停止した。
嫉妬してる? 俺のことが、好き・・だと?
「マジ?」 「大マジ!」 「好きって、恋愛感情なわけ?」 「そうだよ!そうじゃなきゃキスしたいなんて思わないもん!僕はディアッカが好きなの、大好きなの!だから・・・・だから他の人とキスしてるところみて、すごく嫌だったんだもんっ」 「わ、わかったから落ち着け、な?」 「どうせディアッカはたくさんの彼女とかいるし、僕なんかに好かれても迷惑だってわかってるけど、それでも好きだもん。だから・・・だから・・・・・・・」 「ちょ、ちょっと待てキラ。俺にたくさんの彼女がいるって誰に聞いたんだ?」 なんとか泣き止ませようと髪を梳いたり背中をさすったりしながら問うと、じゃっかん泣き止んだ様子のキラが答えてくれた。 「イザークが・・・。ディアッカは遊び人でたくさんの人とお付き合いしてるって・・・」 あのやろう・・・・。 イザークはディアッカの気持ちを知っている。 そして、イザークもキラに思いを寄せていて。 なおかつ、イザークがキラのディアッカを好きな気持ちを知っていたとすれば・・・・。 「キラ、俺は確かにいろんな奴と遊んでるけど、別に付き合っている奴はいないぜ?」 「え・・・?」 「それに、俺はちゃんと好きな奴いるし。まぁ、そいつと付き合えるなんて思ってもみなかったんだけど・・・・」 「好きな人、いるの?」 ディアッカの口から聞いたせいか、それが自分だと知らないキラは途端の顔色が悪くなっていく。 「ああ、いるよ」 「だ・・・れ・・・・?」 不安げに見上げてくるキラに微笑んで・・・。
「おまえだよ、キラ」
そういって、もう一度キスを交わした。 少し触れただけで離れてしまったが、キラは呆然とディアッカを見つめるしかできなかった。 「え、え、えええええ!?」 ようやく理解を少しできたのか、キラは真っ赤になりながらディアッカの顔を見つめた。 「ほ、ホント?」 「ホント」 「だって、ディアッカ今まで一度も・・・・」 「そりゃ、下手に告白して仲がこじれるよりも、自分の気持ち隠してキラの側にいたほうがいいに決まってるからさ」 「た、たくさんの人とお付き合いしたって・・・」 「だから付き合ってないって・・。それに、俺が他の奴相手にしてるのは、行ってみりゃキラの代わりだよ。俺は本命手に入らないなら誰でもいいって最低なタイプだからね」 「で、でも・・でも・・・・」 いまだに信じ切れていないキラにため息をつくと、ディアッカは自分の胸を指し示した。 「キラ、ここに耳当ててみな」 「ここ?」 ディアッカが差しているのはちょうど心臓の辺り。 言われるがまま、そこに耳を当ててみると・・・。
あ・・・・・・
トクトクトクトクトクトクトクトクトクトク
すごく早い鼓動がキラの耳に届いた。 それは今の自分の鼓動とすごくよく似ていた。 「キラが側にいるだけで、こんなに緊張してるんだぜ、俺。こんなになるのは、キラだけだよ」 「ホントに、ほんとうに僕だけ?」 「もちろん」 「信じていい?」 「ああ。好きなだけ信じてくれ。俺はキラを裏切らないよ」 そう言って頭を撫でられれば、キラは本当に幸せそうに微笑んだ。 ずっと大好きだった人が、自分と同じ気持ちだった。それが、こんなにも幸福に感じる。 「なら、お願い、一つしてもいい?」 「なんでもいいぜ」 「他の人と、こんなこと、しないで・・・・」 キラの目は真剣で、ぎゅっとディアッカの胸元を握り締めていた。 「他の人とキスしないで、他の人を抱きしめないで、僕だけ・・・僕だけにして・・・」 他の人を見ないで、とキラは懇願する。 以前適当に付き合っていた奴らにも同じ様なことを言われたことがある。 そのときはうざいだけの言葉だったけれど。 キラに言われるだけで、こんなにも嬉しい言葉だったんだと気付く。 「それはキラ次第だな」 「僕、次第?」 「同じことを、俺はお前に言うよ。俺意外とキスはするな、抱きしめられるのも抱きつくのも禁止。寂しくなったら、俺がいくらでもしてやるから」 「僕が約束守ったら、ディアッカも守ってくれる?」 「ああ。キラをそれを望むなら」 「キス・・・とか、いっぱい、してくれる?」 「いくらでも」
なんなら、今からもう一回する? そう問えば、キラは嬉しそうに笑って小さくうなづいた。
二度目のキスは、幸せの味がした・・・・。
〜 おまけ 〜
「イザーク!」 イザークは後ろから走ってきたニコルの声に振り向いた。 「聞きましたよ、ディアッカってばまた艦の人間に手を出したんですって?」 「ああ。でも、今回はそれでよかったさ」 「?どういう意味です?」 にやりと笑うイザークに、ニコルと、そしてその後ろから現れたアスランは顔を見合わせる。 「その現場を、ちょうどキラが見ていてな」 「!?キラがか?」 アスランが驚きの声を上げる。 キラがディアッカに片思い中(本人談)ということは、アスランたちはとっくの昔に知っていた。 「ただのキスだったが、キラから見ればショックだったろう」 「キラさんってば、どうしてあんなディアッカなんかすきなんでしょう」 「だが、今回のことでキラも目が覚めるだろう。キラに、ディアッカが遊び人だということを散々言って聞かせたからな」 「ふ〜ん。それじゃ、いまがキラを落とすチャンスかな」 アスランが何気につぶやいた一言で、3人の視線がバチバチと火花でも飛び散りそうな勢いで絡み合う。 キラをねらっているのは、3人とも同じである。 「あ、みんなv何してるの?」 そこでようやく話の中心人物であるキラが3人のところに駆けてきた。 その後ろには、なぜかディアッカもいる。 「別にただ話していただけだよ」 アスランが早速というようにキラの肩に腕を回した。 「キラこそ、どうしてディアッカと一緒に?」 アスランを睨みつけながら、イザークがキラに問う。 「えっと、実はね・・・」
「キラ」
キラの言葉をさえぎるようにディアッカがキラの名を呼んだ。 その声に振りむくと同時に、キラの表情は固まった。 それを見て取ったのか、ディアッカは今来た道を戻り始めた。 「ま、待ってよ!」 キラはアスランの腕を振り払うと、急いでディアッカの元へと走り、その腕にぎゅっとしがみついた。 「抱きしめられるの禁止って、俺言わなかったか?」 「・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」 しょんぼりと頭をたれるキラに一つため息をついて、許す代わりに頭をぽんぽんと叩く。 それにほっとしたのか、キラも顔を上げて微笑んだ。
!?
呆然とその様子を見ていた3人だったが、見てはいけないものを見たような気がする・・・。 顔を上げたキラに、ディアッカがキスをしたのだ。 「もう、ディアッカ!」 「なんだよ。キスしないほうがいいのか?」 「キスしてくれるの嬉しいけど、みんなの前じゃだめ!」 「それじゃ、どこならいい訳?」 「・・・・・・・・二人きりに、なれるとこ・・・・」 「OK。それじゃ、キラの部屋行く?」 「うん!」 はしゃぐキラに引っ張られるように歩くディアッカが、軽くイザーク達を振りむく。
そこには、勝者の笑みが浮かんでいた。
〜 あとがき 〜 |