「あれなら別に僕じゃなくてもいいのに・・・」

キラはミリアリアに頼まれたプログラムの不一致を修正して自室に戻る最中だった。

呼ばれた先は格納庫で、この船に乗っているオーブのMSの何機かに乗せているプログラムをアークエンジェルに装填するというもの。

アークエンジェルとつなげることによって、連絡等をスムーズに済ませるという利点があるのだ。

だがそれは決して難しいものではなく、キラでなくてはならないというものではない。

「ノイマンさんとかでも、十分できると思うんだけどなぁ」

あの場にいたメンバーを思い出してつぶやく。

なんとなく、みんな様子がおかしかったように思う。

プログラムを短時間で修正するなんてことは今更なのに、なぜかみんなキラをその場にとどめるかのように質問を続けた。

何かが、おかしい。

キラ自身もそう感じていた。

だがそれが何かわからなくて、キラはただ頭を捻るのみだった。

「あれ?まだ戻ってない・・・・」

自室を覗けばそこには誰もいなかった。

てっきりイザークの方が先に戻っているのかと思っていたが、カガリの頼まれごとのほうが複雑なものなんだろうか。

しばらくそのままイザークが戻ってくるのを待っていたキラだったが、さっきまでイザークと一緒に居た空間に一人というのがなぜか無性に怖く感じて、すぐに立ちあがった。

「終わってなかったら手伝えばいいんだ」

なんとなくそう自分に言い訳をしてキラは自室を出た。

さっきは自分とは反対方向に連れて行かれた・・。ということはブリッチかどこかだろうか。

イザークを探しながら歩いていると、談話室の辺りから誰かが言い争うような声が聞こえてきた。

「この声・・・カガリ?」

談話室に入ろうとした直前に、カガリの叫び声にキラは立ち止まってしまった。






「どうするつもりなんだ、お前は!」






大きな叫び声にそっと中を覗けば、中にはイザークとカガリだけだった。

いつも休憩を取る人たちが数人いるというのに、今はカガリとイザークだけだった。

さっきのカガリの言葉は、どういう意味なのだろうか。

「どうするもこうするも、お前に関係あるのか?」

「あたりまえだ!あいつは私の妹だぞ!」

「妹だからなんだというんだ。あいつの道はあいつだけのもの。お前のものではない」

「そんなことわかってる!だが・・・、だけど・・・」

カガリは何か苦しそうにしてイザークと向き合っていた。

なにがあったのかぜんぜんわからなかったけれど、それが自分のことだということがわかった。

二人は、キラのことについて何か話をしているのだと。

「なるべく、俺はあいつに率直に決めさせるつもりだ。時間を置けば、あいつ自身の決意は鈍る。もう二度とあいつを苦しませたくはない」

「それは・・・」

「カガリ、確かにお前の気持ちもわからんことはない。だが、俺はなによりもキラを優先させる」










「そんなことわかってる!でも、おまえはもうすぐプラントに帰るんだろうが!」












「え・・・・・・」













カガリの言葉に、キラは目の前が真っ暗になるように感じた。

それ以上キラはその場にいることができず、身を翻すと自室へと飛び込んだ。

わかっていた、イザークがずっとここにいることができるはずないことを。

でも考えないようにしていた。

イザークと一緒にいたかったから。

彼が隣にいる事実を失うことがとても怖かったから。

わかっている、どうしようもないことだってことは。

イザークと同じ道を、自分もフリーダムに乗って目指していたのだから。

たとえ、存在する場所は違っても。

「キラ、戻っていたのか」

シュンッ

カガリとの話を終えたのか、イザークが部屋へと戻ってきた。

「うん、・・・・」

「どうかしたか?」

「・・・・ううん」

デスクの椅子に座っていたキラにいぶかしんだが、イザークはベッドに腰掛けた。

キラはそのまま立ち上がると、イザークの足元に座り込んで、こてんとその膝に頭を乗せた。

「どうした?」

キラを慰めるように髪を梳いてくれる。

「イザーク」

「なんだ?」

「いつまで、ここにいれるの?」

「・・・・・・」

「ずっとは、いられないでしょ?いつまで、ここに・・・・・」

思いつめたような表情で見上げてくるキラに、イザークはなんといっていいのかわからなかった。

だが、言わなければならない。

「明日、この船を出る」

「あ、明日!?」

そんなに急に・・・っ

「隊をディアッカに任せておけるのは、それが限界だ。俺には隊を任されている責任がある。それを無碍にはできないさ」

「そう・・・だよね。イザークは、やるべきことがある・・・し」

しかたないことだとは、キラもわかっている。

わかっているけど、気持ちがおいついてくれない。

「なぁ、キラ・・・」










一緒に、こないか?












「え・・?」

イザークの言葉が、最初判断できなかった。

「一緒にプラントに来ないか?」

「プラントに・・・て・・・」

「プラントのあるコロニーに、政界を引退した母がいる。そこに行かないか?」

「エザリアさんのところにって・・・どうして?」

イザークはキラの手を引くと、自分の横に座らせた。

「俺はもうこれ以上キラに傷ついてほしくないんだ。そのコロニーに行けば、絶対に戦火は届かない・・・。苦しむことはない」

「イザーク・・・は?」

「俺はまた戦場に戻ることになるだろう。キラとの約束を守るために・・・。戦争のない平和な世界を築くための助力をおしまないつもりだ」

だから、キラには見ていてほしい。

いつか平和な世界になったら、隣に居てほしい。

それまで、偽りでも平和な世界で暮らしてほしい。

そんなことをイザークは願っていた。

キラの幸せだけを・・・。





「うん、うん・・・。ありがとう、イザーク」





「キラ、それじゃ・・・」

「でも、ごめんなさい。僕は、プラントにはいけない・・・」

キラははっきりと首を振った。

「多分、イザークが示してくれた道が、一番僕にとって幸せなのかもしれない。でも、それを選んでしまったら絶対僕は後で後悔すると思うんだ」

「後悔?」

「うん。何もできなかったんじゃない、何もしなかった自分をきっと後悔すると思うんだ」

途中であきらめてしまったことを。

投げ出してしまったら、きっと後悔する。

「イザークも言ってたじゃない。強すぎる力ではできないことをすればいいって・・・。僕は、それを探そうと思うんだ・・・。僕でもできることを、僕にしかできないことを・・・」

イザークがそっとキラの頬に手を伸ばし、キラもその手に自分の手を重ねた。

「イザークとの約束、僕も守りたいから・・・」

「キラがそう決めたのなら・・・俺はもう何も言わない」

「ん・・・・」











それからは、本当にあっという間だったように思う。

残り少ない時間を大切にしたくて、そして相手のその姿を心に焼き付けたくて。

最後はもう、何も話さなかった。

ただ、ずっと隣に居た。

「そろそろ時間だな」

「うん・・」

イザークが立ちあがったのに一緒に行こうとキラも続いたが、イザークがそれを引き止めた。

「え・・?」

「見送りはいい。ここで、な?」

「でも・・・・。・・・うん、わかった」

格納庫まで行けば、きっと別れがつらくなるだけだから。

ならば、ここであなたを見送ります・・・。

「キラ」

ゆっくりと開かれるイザークの腕の中に、迷うことなくキラは抱きついた。

しばらくこのぬくもりを感じることは、できない。

「忘れないでくれ。どんなに離れていても、俺はお前を想う・・・」

「うん・・。僕も、僕もだよ。イザークが、大好きだから・・・・」

ゆっくりと引き寄せられるように、キスを交わす。

「また、な」

「うん。今度会うときは、平和な世界に少しでも近づいているように・・・」

「ああ。お互いに死力を尽くそう」

イザークはキラの体をそっと離して、背を向けた。

部屋を出るまで、振り返ることはなかった。

振り返れば、キラの意見を無視して連れて行ってしまいそうだったから。

部屋の外には、カガリとマリュー、ミリアリアが待っていた。

「キラを、頼む」

「わかってるわ」

「まかせておいて」

「お前ほどじゃないが、私たちだって少しはあいつを支えられるんだ」














アークエンジェルから飛び立つストライクルージュを見送りながら、キラはそっと瞼を閉じた。



またね、イザーク。

きっと、また会おうね・・・・。



















<あとがき>

最後、結構微妙な仕上がりとなった・・・かも?
キラをプラントに連れ帰って!という意見をたくさんもらいましたが、なぜかそうはならなかった・・・。
私自身、キラをイザから離すのはもう限界だったんだけどな。
やはり、キラはそんなに弱くはないってことなんでしょうか。
一人で立っていられるほど強くない。
けれど、すべてを寄りかかって生きるほど、弱くもない。

そんなキラが、大好きです。
お付き合いいただいてありがとうございました。

よろしければ拍手などいただけると嬉しいです。