自室に戻ってから、キラはほとんど人に会おうとはしなかった。

食事にもほとんど手をつけようとはせず、日に日に弱っていくキラをカガリたちはただ見ているだけしかできなかった。

「キラ、もう少し、あと少しでいいから食べないか?」

「ごめん、カガリ。でも、もうおなか一杯で・・・」

「でもほとんど食べてないじゃないか」

「ただ寝てるだけだもん。おなかすかないんだ」

「そう・・・か、わかった。それじゃ、ちゃんと寝てるんだぞ」

「うん、わかってるよ」

カガリを見送ってからキラはそっとため息をついた。

みんなに心配をかけているのはわかる。

けれど、これから自分がどうしていいのか、何をなすべきなのか。

そればかりが頭をよぎって、いっそのこと何もかも放り出したい気分になってしまう。

そんなことできないのに、そんなことを考えるのはいけないことなのに・・・。




「イザーク、今何してるのかな・・・」




ふと浮かぶは誰よりも愛しいあの人の姿。

隊を率いるあの人は今もきっと前線にいる。




「会いたいな・・・・」

無理だとわかっていても、気持ちは・・・・心は、イザークを求めていた。














キラの部屋の外には心配そうな表情のミリアリアと艦長がいた。

「カガリさん、どうだった?」

「だめだ。どんどん弱ってる。食事もほとんど取ってくれない」

「このままじゃキラ、本当に・・・・」

三人で顔をあわせてため息をつく。

どうしようもないとわかっているけど、早くキラの元気な姿が見たくて気持ちばかりが焦ってしまう。

「それよりもうすぐ時間だろ。やっぱり迎えには私が行ってくる。ルージュで行ったほうが早いだろ」

「そうね。少しでも早い方がいいわ。カガリさん、頼むわね」

「わかった」

それから一時間もたたないうちにカガリはイザークとの待ち合わせの場所へと急いだ。









「ここか」

イザークはディアッカからもらった紙を確認してから周りを見回した。

ディアッカが言っていた迎えはまだ来ていないらしい。

壁に寄りかかったまま、腕を組んで目を閉じる。

キラは大丈夫だろうか。

怪我がひどいと聞いたが、どれほどのものなのだろうか。

じっとしていれば気ばかりがどんどんあせる。

早くキラに会いたい。

会って、無事を確かめたい。

「あ、いたいた」

自分に向けられた声に顔を上げれば、目の前には息を切らせたカガリの姿があった。

「お前が迎えか?」

「そうだよ。ほら、さっさと行くぞ」

「ああ」

二人はルージュが隠してあるところまで行くと、その中に乗り込んだ。

操縦席に座ろうとするカガリを奥に押しのけて、イザークが操縦席に座る。

「ちょ、おい!」

「うるさい。こっちは急いでるんだ。さっさと道案内しろ」

「ったく。キラがあんなじゃなかったらお前なんて・・・」

「キラ、どういう状態なんだ?そんなに怪我がひどいのか?」

視線だけを向けながらカガリを睨むように訪ねる。

一瞬むっとしたカガリだったが、イザークがそれだけキラのことを心配しているということなのでとりあえず答える。

「体の方はひどい怪我もないし、順調に回復している。ただ・・・」

「なんだ?」

「フリーダムを墜とされたことで、精神的なショックを受けている。ほとんど食事もとってくれないし、眠れてもいないみたいだ・・・」

「・・・・・そうか」

「正直・・・な。お前がこっち来てくれて助かってる。キラは・・・・もう、私たちじゃどうすることもできなくて」

「おまえらがそんな弱気でどうする」

「そうだけどさ・・・」

それ以上、カガリは何もいえなかった。

そんなカガリを横目で見ながらも、イザークは何も言わなかった。

ただ、今はキラのことだけしか。

愛しい人を腕に抱くことしか。



早く、側に・・・。









ふと、キラは廊下から聞こえる話し声に目を覚ました。

いつのまにか眠ってしまっていたようだ。

外に居るのはカガリだろうか。

恐らくキラの様子を見に来てくれたのだろうけど、キラは今誰にも会いたくなかった。

いや、会いたい人はいる。

でも、会えるわけはない。

ずっとずっと遠くにいる人だから。

「キラ、入るぞ」

「あ、うん」

体を起こして扉の方を見る。

そこにはカガリがいた。

「・・・・・っ!?」

カガリは、いる。

だけど、その後ろに・・・・・。



「・・・・・・ザー・・・・ク・・・・?」



「久しぶり、だな。キラ」

懐かしい、声。

ずっと思い浮かべていた姿。

会いたかった、人・・・・。

でも・・・・






「ぃ・・・・・や・・・・っ」

「キラ?」

キラに近づこうと一歩踏み出したところで、キラが同じ分だけ後ろに下がる。

といっても、ベッドの上なのでそれほどの移動はできなかったけれど。

「キラ?一体どうしたんだ?」

「いや、来ないで!」

「お、おいキラ!」

足を止めるイザークとは逆に、カガリがキラに駆け寄る。

「どうしたんだよ。キラ、イザークに会いたかったんじゃなかったのか?」

「会いたくない!帰って!」

「キラ!?」

激しくイザークを拒絶するキラに、カガリは慌てて落ち着かせようと肩を掴む。

が、キラは会いたくない、とだけ繰り返すだけでその目はイザークを見ようとはしなかった。

「カガリ」

イザークはキラに近づくと、そのすぐ近くにいるカガリの肩を掴んだ。

「しばらくキラと二人だけにしてくれ」

「で、でも・・・」

「いいから、お前は外に出てろ」

有無を言わせぬイザークに、キラはもう一度うつむいているキラに視線を向けてから大人しくうなづいた。

「談話室にいるから。何かあったら声を掛けてくれ」

「わかった」

カガリが出て行ったのを見送って、改めてイザークはキラを見た。

いつのまにかキラは頭からすっぽりとシーツを被っていてイザークの前から姿を隠してしまっていた。

ベッドに腰を下ろせば、キラはそれに反応してびくっと震えるのがわかる。

「怪我は、もういいのか?」

コクリ、とうなづくのがかろうじてわかる。

イザークは無理にキラのシーツを取ろうとはせず、かろうじて外に出ていた手にそっと自分のそれを重ねた。

じんわりと伝わってくる、キラの体温。

それはキラが生きていてくれる、なによりの証だった。

「キラ、俺に会いたくなかったのか?俺の顔をみたくないほど」

「会いたく・・・・ない・・・・・」

「それでも俺は会いたかった。フリーダムが墜とされたと聞いて、いてもたっても居られなくて。無事で本当によかった」

「・・・・・・・」

キラからの反応はない。

「なら、俺は帰るから」

無意識だろうか。

つないでいるキラの手に若干力が加わった。

恐らくキラは今精神的にも限界に近づいて居るのだろう。

本当は側に居て支えてやりたいけれど、キラの心がイザークを求めていないのならば無理はしない方がいい。

気持ちの整理をつけるには、一人になった方がいいときもある。

今は、キラの無事がわかっただけで十分だった。

「早く元気になってくれ」

布越しに、キラの髪に口付ける。

つないだ手に一度ぎゅっと力を込めてから、イザークは手を離して立ちあがった。

「じゃあな、キラ」

そのままイザークは部屋を出ようとした。・・・・そのとき。














「・・・・・ゃ・・・・やだぁ!!」








キラの叫び声がイザークの耳に響いた。







<中書き>
微妙なところで切ってすいません;
でもこれから先結構長くなるので・・・・とりあえずはここで。

キラのイザークにあってからの心情は3の方でかきますので、お楽しみに・・・・(え。

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