フリーダムが墜とされてから数日、キラはようやく意志からの許可が下りて自室に戻ることを許された。

「キラ、平気か?」

「大丈夫だよ。心配しないで」

付き添ってくれているカガリは数メートル進むたびにキラを心配そうに覗き込んでくる。

ようやくたどり着いた部屋は、あらかじめきちんと整えられていた。おそらくは艦長やミリアリアだろう。

ほんの数メートル歩いただけなのに、けだるい疲労感がキラを襲う。

「ごめん、ちょっと寝るね」

「ああ。無理はするなよ」

ベッドに入ったキラにしっかりと掛け布を上げてカガリは部屋を出て行った。

キラはただ、無機質な天井を眺めながら思った。









授かった力を失った。

最高のコーディネーターといわれたキラだけれど、剣を持たなければ何もできない。

みんなを守ることも。

自分を守ることも。

・・・・あの人の居る世界を、守ることも。



『キラは俺が守る』



聞こえてくる、愛しい人の声。

「イザーク・・・・・」

キラは両腕で目元を覆った。

一筋の涙がキラの頬を流れた。






「会いたい・・・・・・・」













その頃のブリッチでは、マリューや他のクルー達によって今後の進路が相談されていた。

「キラ君の怪我は完治しているのでしょう?」

「医師の話に寄れば、傷は完治しているはずだと。ですが、事実キラの体はうまく動かないんです」

医師の話によれば、キラの傷の完治には精神的なものが邪魔をしているらしい。

傷を直す手助けはできても、精神的な病までは治すことができないから。

そのとき、ブリッチの扉が開いてカガリが戻ってきた。

「カガリさん、キラ君の様子はどう?」

「やっぱりしんどそうだ。今も眠っているけど・・・やっぱり元気がない」

「フリーダムを失ったことが原因なんでしょうけど・・・」

そればかりは、カガリたちにはどうしようもなかった。

おそらく、キラの心を癒すことができるのはここにはいない。




いるのは、プラント・・・・・




「なんとか、プラントに連絡を取れれば」

「プラントに?・・・・そう、彼ね」

「あいつなら、キラのことをどうにかできるかもしれない」

それは口に出さなかっただけで、誰もが心で思っていたこと。

彼なら、今のキラを支えることができる。

彼以外の、誰もできないことだけれど。

だけど、完全に敵同士となっているプラントに連絡を取れる手段を持つものなど・・・・

「取れるわよ。連絡」

「え?」

はっと声をしたほうを見れば、ミリアリアが難しい顔をしていた。

「彼にはさすがにできないけど、あいつなら・・・。ディアッカになら、なんとかできると思う。それで、彼に伝えてもらえるかも」

「本当か!?頼む、ミリアリア!」

「うん」



















「フリーダムが、墜とされた・・・・だと?」

部下からの連絡に、イザークは信じられないとばかりに目を見開いた。

「生死は確認不明ですが・・・、フリーダムの爆破は間違いなく確認した・・・と」

イザークに報告しているシホの言葉に、イザークは信じられなかった。

キラが墜とされた?

死んだ・・・・だと?

「そんなこと、あるわけないだろう!」

ダンッと叩きつけられる拳に、シホはなんと言っていいかわからなかった。

シホはキラを知っていた。

イザークとフリーダムのパイロット、キラがどんな関係なのか。

どれほど、お互いを思っているかも。

「アークエンジェルにつきましては、いまだその消息は不明とのことです」

「・・・・そうか」

イザークはそれだけ言うと、引き出しの中からある程度必要なものを取り出してアタッシュケースへとまとめ始めた。

「隊長、一体何をなさってるんですか?」

「地球に下りる」

「!?なりません!この情勢下、地球に下りる許可など本国からでるはずが・・・っ」

「隊で降りるのではない、俺が行くんだ」

「え・・・?」

「キラは必ず生きている。俺には、わかる」

シホはどういっていいかわからなかった。

確かにキラが生きていることは信じたいが、けれども希望がなさすぎる。

それに、たとえ生きていたとしても今アークエンジェルは行方知れず。

それをどうやって探そうというのか。

あまりにも、無謀だった。

「あれ、イザーク。お前何やってるんだ?」

のんきにそう言って入ってきたのは副官であるディアッカ。

「ちょうどいい、俺が居ない間のジュール隊の指揮をすべてお前にまかせる」

「は?」

どういうことだ?とシホに訪ねればこれまでの経緯を話してくれる。

フリーダムが墜とされたとのことはディアッカも噂で聞いていたのでそれほど驚きはせず。

それによってイザークの行動の意味がわかった。

「闇雲に降りてどうするんだよ」

「うるさい」

すでに周りの言葉などに耳を貸すことさえしなくなったイザークに、ディアッカはため息をつくと一枚のメモをイザークに差し出した。

「・・・なんだこれは?」

「何って、オーブにあるターミナルの一つだよ」

「そんなことはわかっている!これがなんだというんだ!?」

一刻も早く地球に下りたいイザークは、その紙を破ろうとしてふとあることに気付いた。

どうして今頃になったオーブのターミナルなのか。

「期限は1週間だ」

「なんだと?」

「とりあえず、お前の休暇は明日から1週間だってこと。その間は俺とシホがなんとかジュール隊ひっぱってるから、お前は用事済んだらさっさと帰って来いよ」

「貴様、一体なんの話を・・・」

話が繋がらずいらいらしているイザークに近づき、その耳元で彼にだけ聞こえる小さな声で言った。







「キラは生きてる」






「なん・・だと?」

「確かだぜ。なんせ出所は天使のCICからだからな」

天使・・・・アークエンジェル。

「その紙の場所に迎えがいるから、そこに行けよ」

呆然とイザークはディアッカと、そして受け取った紙を見比べた。

一体、いつのまにこんなところまで手を回したのだろうか。

それに、この状況下で一体どうやって連絡を取り付けることができたのか。

いろいろな疑問が浮かんだが、今はそんなことを言っては居られなかった。

ただ、キラの元へ。

それだけしか考えられなかった。

「急げよ。本国へ戻るシャトルを用意させた。・・・・・それと・・・」

言いにくそうに言葉を濁す。

「なんだ・・・」

「ちょっと、な。怪我が思ったよりもひどいらしい」

「・・・・・・・・」

覚悟はしていたが、やはりその言葉を聞くとどうにも落ち着かない。

命があっただけで、ありがたいと思わなければ。

早く会いに行きたい。

会って、抱きしめたかった。

「では、後のことは頼んだ」

「ああ」

「隊長」

今まで黙っていたシホは無言でイザークのコートを準備していた。

「お気をつけて」

「ああ」












待っていろ、キラ。

すぐに、お前のもとへ・・・・。














<間書き・・・?>

久しぶりにイザキラ書きました!
といっても、キラ・イザーク単体でしかでてきてないんですが・・・。
次の話ではちゃんと会えますよ!

久しぶりなのでちょっと暴走するかも(笑

よろしければ拍手もらえると嬉しいです