「ディアッカ!」 途端、キラと呼ばれた少女の困ったような表情が笑顔に変わる。 「どうしたんだ?本部まで来るなんて」 「せっかくのお休みに帰ってこないディアッカが悪いんだ」 ぷ〜っと頬を膨らませて拗ねるキラの頭を、ディアッカは苦笑しながらなでる。 「悪い悪い。休みって言っても一日しかないだろう?ちょっと日程的に無理なんだよ」 「お休みのときは必ず帰ってきてくれるって約束したのに。最近じゃ、ちっとも連絡すらくれないじゃない」 そういって、ディアッカの軍服の裾をぎゅっと握る。 連絡がないと何かあったのではないかと心配になる。 ディアッカもキラが心配しているのは分かっているのだが、ここ数日連合と一戦交えていたため気軽に連絡が取れない状況だったのだ。 でも、心配させたことに変わりはない。 その点では、ディアッカも反省はしている。 キラが心配性なのは分かっているから。 「そういえば、キラはなんで今日が休暇だって知っているんだ?」 「父さんとイザークから聞いた」 「あいつら・・・」 二人とも、なにを考えているのだか。 うかつに軍の情報を与えれば、キラの心配を増幅させることになるなど分かりきっていることなのに。 「ディアッカ」 話も途切れたところで、アスランはディアッカに話しかけた。 「なんだよ、アスラン」 「この子は、お前の知り合いか?」 「あ?ああ、知らないのか。これは俺の妹のキラ。キラ、挨拶」 「キラです。こんにちは、はじめまして」 「こちらこそ、はじめまして。なんだ、身内っていうのはディアッカのことだったのか」 早く言ってくれれば連れて行ってあげたのに、というアスランにキラは笑ってすいません、と答えた。 「それにしても・・・・」 アスランはキラとディアッカをまじまじと見比べる。 そんなアスランの視線にディアッカはなんだよというように睨み、キラはどうしたの?というように首をかしげた。 「似てないな」 「コーディネーターで、兄妹が似ていないなんてよくあることだろう?」 「いや、そうじゃなくて」 外見じゃなくて、性格がね。 と言いたかったが、とりあえずは口をつぐんでおいた。 そのとき廊下の奥からニコルとイザークがこちらに向かって歩いてきた。 「あ、イザーク!」 キラがイザークを見つけると、手を大きく振って自分の存在をアピールした。 なにせ、ディアッカもアスランもキラより身長が高いからキラは隠れてしまうのだ。 「よう、キラ。来ていたか」 「うん。あ、通行証ありがとう」 「ああ」 よくみると、キラの首からは通行証が掛けられていて、その通行証の発行者はイザークとなっていた。 ということは、イザークはキラの訪問を最初から知っていたことになる。 「なんで教えなかったんだ?」 「キラから口止めされていたからな」 平然と言うイザークに、ディアッカはう〜んとうなった。 その間に、キラはニコルと話していた。 「はじめまして、キラさん。ニコルです」 「はじめまして。僕以前にニコルさんの演奏会行ったことあるんですよ?」 「そうなんですか?それはありがとうございます」 「すっごく素敵でした。本人に会えるなんて嬉しいv」 「くすっ。では、今度はキラさんのために何か引いて差し上げましょうか?」 「本当?約束ですよ!」 「はい」 と、会った途端に仲良くなってしまっているニコルとキラをイザークとディアッカは横から眺めていた。 まぁ、来てしまったものはいまさらしかたがない。 今は、キラの笑顔を見れるでいいとしよう。 「あ、ところでクルーゼ隊長って人が今どこにいるか分かる?」 と、キラはいきなりクルーゼの所在をディアッカに聞いた。 「隊長?あ〜、多分本部のどこかにはいると思うけど・・・・。それが?」 「父さんから、なんか書類預かってきたの。極秘だから直接渡してきなさいって」 そういって、今まで抱えていたものを見せた。 表書きは何も書いていない。 だが、評議会議員であるディアッカの父親からの極秘文書だとすると自分達がうかつに受け取るわけにもいかない。 「しかたない、隊長を探すか」 「それでしたらおそらく自室にいらっしゃるはずです。さきほど見かけましたし」 というニコルの発言で、とりあえずキラはディアッカたちに引き連れられてクルーゼの自室へと向かった。
「失礼します」 自室にいたクルーゼはすぐにディアッカたちを迎い入れた。 だが、すぐにキラの存在に気づき目を細める(仮面で隠れて実際は見えないのだが)。 「そのこは?」 「俺の妹でキラです。なんでも父からクルーゼ隊長あての書類を預けられたとかで。ほら、キラ」 ディアッカが促すと、キラはぺこりと頭をさげてから書類を渡し、すぐにディアッカの側に戻ってしまう。 ディアッカの父からということだけでクルーゼはなんのことかわかったらしく、すぐに開いて中身を確認する。 「ああ、確かに約束していたものだ。キラ・・・だったね。感謝する」 「いえ・・・・」 「それでは、失礼します」 5人は頭を下げてクルーゼの自室をあとにすると、次に向かったのはディアッカとイザークの自室だった。 「クルーゼ隊長って、いつもあんな仮面つけているの?」 「あ?ああ。そうだけど」 「なんか怖いね。取ればかっこよくてもてすぎるとか・・・・」 「そんな理由で戦場でも仮面をつけていたりしないだろう」 イザークがあきれたようにいう。 もちろん、キラが本気言っていないことなどはわかっているのだが、冗談には冗談で、というところだろうか。 キラは久しぶりに会えたディアッカとイザークと存分に話ができてすごく満足だった。 もちろん、知り合いになれたアスランとニコルともたくさん話をしていたが。
時が流れるのも早い。 すぐに時間は一般人との面会時間終了時刻となってしまった。 表にはもう迎えの車が来ている。 「もっとお話したかったのに〜」 「しかたないさ。今度、ちゃんと家に帰るから」 「本当に、本当?約束だよ」 「ああ。だからキラもいい子にしているんだぞ」 「僕はいつでもいい子だよ」 それだけいうと、キラは迎えの車に乗り込んだ。 すぐに窓を開けて、車が出発しても見えなくなるまでずっと手を振り続けていた。 「キラ、あいかわらずだったな」 「ああ。あいつのためにも、俺たちはがんばらなければならないさ。一刻も早く、戦争を終わらせるために」 |