「ニコル!」

キラはこちらに駆けて来るニコルの姿を見てにっこりと笑った。

ニコルもつられて微笑む。

「キラ、どうしたんですか?いきなり本部まで来るなんて」

「例の曲、できたから持ってきたんだよ。本当は郵送にしようかなって思っていたんだけど、今日は休暇だって聞いたから持ってきたの」

「ありがとうございます」

キラから差し出された中身を見ると、ピアノの楽譜と見られる紙が何枚も入っている。

ニコルは一通り眺めると、すぐにその楽譜をしまった。

「どうかな?今回ちょっと時間がかかっちゃったんだけど」

「すごく綺麗な曲だと思います。今度帰る時までにはマスターしてみせますよ」

「くすっ、僕とラクスも楽しみにしているよ」

「はい、がんばりますね」

アスランは少し離れているところからニコルと、キラと呼ばれる少女を見た。

普段からニコルは笑顔を絶やすことはないのだが、キラと話しているときはまた自分達と接しているときとはまた別の表情をしている。

なんというか、やわらかいのだ。

表情も、その雰囲気も。

「ニコル」

「ああ、アスラン。こんにちは、ここでなにを?」

「この人は、知り合いか?」

「そういえば、紹介がまだでしたよね」

ニコルがキラを見ると、キラはにっこりと笑ってアスランに言った。

「はじめまして。キラです。いつもニコルとラクスからお話は聞いています」

そういって頭を下げるキラにつられて、アスランも頭を下げる。

それにしても、ニコルだけじゃなく、ラクスとも親しい間柄なのだろうか。

ラクスから、そういう話は聞いたことがないのだが。

「ニコルの恋人?」

「くすっ、それだったらいいんですけどね。この人は僕の姉です」

姉、といわれて、アスランはすぐに反応することができなかった。

ニコルの姉ということは、おそらくは自分と同い年かそれ以上・・・。

どうみても、このキラという少女はニコルよりも年下に見えるのだが。だから、恋人か?と聞いたわけで。

「では、ラクスとは?」

「僕は歌を少々歌っていて、ラクスとはコンサート会場で知り合いました。それ以来、よくラクスとは会うようになって。婚約者であるあなたのことは、よく聞いていますよ」

「はぁ・・・・」

といわれても、自分はラクスからまったく話を聞いていないのだが。

「僕もこの間聞いたばかりなんです。いきなり『ラクスの誕生日に歌を歌うことになったから伴奏して!』と言われるとは思いませんでしたけど」

「しかたないじゃない。僕はニコルの伴奏じゃないと上手く歌えないんだから」

ぷ〜と頬を膨らませる。

とてもかわいい人なんだと、アスランは思った。

同時に、ラクスが気に入るような人であるということも分かった。

「ああ、それで今も楽譜を持ってきた・・と?」

「ええ。普通なら休暇をいただいたときに自宅で練習すればいいのですが、キラが創る曲は綺麗ですけど、とても難しいですから」

「自分が作る以上、気に入るものを創らないとね」

そういって、ニコルは持っていた楽譜をアスランに見せた。

アスランは別段、ピアノができるわけでもないが、楽譜はなんとか読める。

素人のアスランが見ただけでも、十分に難しそうな曲だ。

だが、難しい分実際に弾きこなされればとても綺麗な曲だというのが分かる。

だが、曲よりもアスランを惹きつけたのはその歌の詩だった。

 

 

私とあなたの違いはなんでしょう。

瞳の色?髪の色?

そんなもののために、みんなは争わなければならないの?

私達は同じ人なの。

だから、みんなで幸せになりたいの。

誰一人も不幸ではなく、みんなが幸せでありたいの。

そんな未来が、いつか来る。

それは、遠い未来ではないはずだから。

 

 

平和の歌。

平和を願う歌。

ラクスの曲はどれも平和への願いが込められているが、この曲はそれがとても伝わってくる。

聞くと切ないけれど、それでも誰もが願っていること。

「変、かな?」

楽譜を見たまま黙っているアスランに、キラは不安そうな声を出す。

はっとしたアスランはすぐに顔を上げて否定した。

「そんなことない。すばらしい曲だよ。これ、本当に君が?」

「うん。それは僕の気持ちだから。気持ちを言葉に表しただけ。早くみんなが幸せであって欲しい」

「僕達はそのために戦っているんです。歌の通り、そう遠い未来ではありませんよ」

ニコルがにっこりと笑って、しかししっかりと意志のこもった言葉でいうと、キラもにっこりと微笑んだ。

 

平和を望む気持ちは変わらない。

それが、たとえ、コーディネーターであろうと。

それが、たとえ、ナチュラルであろうと。

 

「そうだ、今日一日は休暇です。キラはこのあと予定は?」

「私?ないよ」

「それでしたら、今日早速練習してみましょうvキラも付き合ってください」

「うん、よろこんでv」

そういって歩き出すニコルとキラに、

「あ、僕もいいかな?」

と言った。キラとニコルは顔を見合わせ、どうしようか、という顔をしている。

「この曲を早く聴いてみたい。だめかな?」

「どうします?」

「ん〜・・・。いいんじゃないかな?」

「キラがそういうなら、僕に異存はありませんよ」

そういって、3人はニコルの部屋へと向かった。

 

 

 

その日の夕方、静かな歌声が本部ないに響く。

ピアノの伴奏に乗せられて響く歌声は、つかの間兵士の癒しとなった。