「兄様!」

キラと呼ばれた少女はイザークの姿を見つけると、すぐに駆け寄ってそのまま抱きついた。

イザークもそれが当然とばかりに受け止める。

「キラ、なぜここに?」

「母様からの届け物なの」

といって、胸に抱えていたものをイザークに差し出す。

イザークがさっそく中身を見てみると、そこには以前に頼んでおいた本が何冊か入っている。

どれも今では手に入りづらいものばかりで、エザリアのつてでようやく手に入れることができたものだ。

「これぐらいなら、何もキラを使わすことをしなくても郵便で済んだだろうに」

「違うよ。僕が行くっていったんだ。最近兄様から何も連絡がないって母様に言ったら、それならこれを持って会いに行ってきなさいって言ってくれたの」

「そういうことか」

ありがとう、といって頭をなでると、キラは嬉しそうに微笑んだ。

それを呆然と見ていたアスランは、ようやくキラと呼ばれた少女とイザークの関係が見えてきた。

「イザーク」

「なんだアスラン、いたのか」

イザークは今気づいたかのようにアスランを見た。

それにつられて、キラもアスランの方を向く。

「いたのかって、最初からいたんだけどね」

「知らん」

「あのね、この人、僕を案内しようとしてくれたんだよ」

「案内?」

アスランとイザークの間に漂う空気を読んだのか、キラがイザークの軍服をくいくいと引っ張る。

「・・・・まさか、また迷っていたのか?」

「う・・・・・」

「迷ったんだな・・・」

ふ〜とため息をつく。

キラは軽い方向音痴なのだ。

今までだって、出かけて行ったまま帰ってこないなんてことが何度あったことか。

だから、キラを一人で外に出したくはないのに。

エザリアにだって、そのぐらいはわかりそうなものなのだが。

「それでよく、このザフト本部まで来れたな」

「じいに送ってもらったの。またあとで迎えに来てくれるって」

「そうか」

まあ、送り迎えがあるのならば、帰りは安心だな。

一人で帰るなんて言い出した場合、休暇をとってでもキラを家に連れて行くつもりだった。

「あのさ、いい?」

「なんだアスラン、まだいたのか」

さっきからずっといるよ、とばかりにアスランもため息をつく。

まぁ、徹底的に無視をされているのは分かっているのだが。

「まぁ、いいけど。その子、イザークの妹?」

「お前に教える義理はない」

「はじめまして、キラといいます。いつも兄がお世話になっています」

頑固な態度を取るイザークとは別に、キラはアスランににっこりと微笑んでぺこりとお辞儀をした。

あまりにも似ていない兄弟だ。

「別にこいつに世話になど・・・」

「兄様わがままですから、お付き合い大変でしょう」

イザークの言葉をさえぎるようにキラは言葉を重ねる。

なんでも自分の思うことをずばずばというイザークとは違って、キラは外交というものを心得ているのだろう。

「こちらこそ、イザークにはいろいろと・・・・まぁ、世話になっているよ」

「なんだ、そのまぁというのは」

「兄様!」

ついついいつも通りのけんか腰で話してしまうイザークをキラが咎めるように名を呼ぶ。

キラがいてはしかたない、とばかりにイザークも黙るしかない。

「キラちゃん、だっけ?僕は・・」

「アスラン・ザラさんですよね。一応知っているんですよ」

「そう・・・。イザークから聞いたの?」

「いいえ。僕、アスランさんの婚約者候補でしたから。お名前とお顔は写真とかで」

「「え?」」

にっこりと笑っていうキラのせりふに驚いたのは、もちろんイザークとアスラン。

アスランの婚約者は、ラクス・クライン。

それなのに、別の婚約者候補?

「え、兄様も知らなかった?ザラ議長はアスランさんの婚約者を決めるとき、僕にも声を掛けたんだよ。母様に断られていたけど」

それで、もう一人の候補者だったラクスがアスランの婚約者に決まったのだという。

イザークとアスランは開いた口がふさがらないといった様子だ。

それほど、キラのもたらした情報は今までまったく知らないかったのだ。

「初耳だ・・・」

「ああ」

イザークは実は内心ほっとしていたりした。

もし、キラが婚約者とでもなれば、将来的にアスランとは義兄弟になってしまうのか?

なぜライバルと思っているやつと・・・。

それに、キラを嫁にやるときは、自分が認めた奴でないと許さないと決めている。

アスランなどもってのほかだ。

確かに腕は一流かもしれんし、名家の出ではあるが、どうにも好かない。

もしも自分がそのとき知っていたとしたら、徹底的に邪魔しただろう。

「そうなんだ、残念だな」

「何がですか?」

「君みたいな子と婚約者になれるんだったら、僕は喜んだんだけどね」

「そんな・・・。アスランさんにはラクスさんがお似合いですよ」

「そう?僕はラクスみたいな上品なタイプよりも君みたいなかわいい方が好きなんだけどな」

「あ、アスランさん・・・・」

アスランの言葉に、おもわずキラは赤面する。

こんなことを面と向かって言われたことは初めてだ。

そりゃ、イザークやエザリアからはかわいいかわいいといわれて育ってきたが。

他人同然の異性からこんなことを言われたのは初めてで、キラはとまどうしかない。

「やだな、アスランって呼んでよ、キラ」

「え、えっと・・・・」

「キラ!俺の部屋へ行くぞ!」

困りきっているキラの手を引いて、イザークは声を荒げながら去っていった。

途中後ろを振り返れば、アスランが笑顔で手を振っているのが見える。

 

 

 

「キラ!あいつには二度と近づくな、絶対だ!」

「う・・・、うん・・・・・」

どうしてイザークが怒っているのかわからず、キラは首をかしげた。

 

 

 

「キラ・・・か。かわいい子だな。今度、デートにでも誘おうか。でもイザークには見つからないようにしないとな」

一人スケジュール帳を確認しながら我策するアスランだった。