イザークに告白されて2週間がたった。 あれから、一度もイザークとは顔をあわせてはいない。 アスラン達とはよく会っているみたいから、自分だけが意図的に避けられているのかもしれない。 それも当然か。 自分はイザークの気持ちを受け入れることができなかったのだから。
「ねぇキラ。最近、イザークのやつなんだか変だと思わない?」 「え?」 いつものように部屋に遊びに来ていたアスランが思い出したように言った。 イザークが・・・変って? 「さぁ、僕最近会ってないから」 そう返しはしたが、キラはイザークのことが心配になってきていた。 あの日以来、イザークは自分と顔をあわせてくれないけれど。 それなら、もしかして、自分が原因なのだろうか。 「なんかおかしいんだよ。話していても上の空が多いし、一人でぼんやりしているし。僕に喧嘩も売ってこないなんて、絶対におかしい!」 そう言い切るアスランを横目に、キラはイザークのことが気になって仕方がなかった。
次の日、キラは久しぶりに市立図書館へと出向いた。 ここはイザークもよく出入りしているので、あれから無意識に来るのを避けていたというのに。 昨日アスランが帰った後、キラはニコルとディアッカに電話をかけてイザークの様子をそれとなく聞いてみた。 だが、返ってきた答えはアスランとまったく同じだった。 イザークが今日もここにいるという保証はない。 いないかもしれない。 でも、いるかもしれない。 そんな気持ちでキラは広い図書館の中をキョロキョロと見回し、イザークの姿を探した。
イザークお気に入りの場所で、静かに本を読んでいた。 日の光がイザークの銀髪に反射して、キラキラと輝いているのがとても綺麗で。 キラは声をかけるのも忘れて、ぼんやりとイザークを見つめていた。
当然、というべきか。 イザークが人の気配に気づいてしまった。キラはとっさに隠れようとしてしまったのだが、間に合うわけもなく。
「「あ・・・」」
「キラ・・・」 「久しぶりだね、・・・イザーク」 ゆっくりとキラはイザークに近づいた。 だが、イザークはキラからふいと目をそらすと、また本に視線を落としてしまう。 何か、話しかける言葉を捜すが、うまくみつからない。 「あの・・・イザーク?」 キラが声をかけた途端に、イザークはバタンッと本を閉じる。 机の上に散らばっていた私物を乱暴に鞄に押し込めると、すぐに席を立った。 「本を読みに来たんだろう?邪魔したな」 すれ違いざまにそういうと、イザークは顔も見ずにすぐに部屋を立ち去ろうとする。
「ま、待って!」 キラが慌てて引き止めると、イザークは素直に立ち止まってくれた。 だが、こちらを向こうとはしてくれなかった。 「何だ?」 「あ・・・、えっと。アスラン達が、イザークの様子が変だって言ってて・・・」 「だから?」 「だからその・・・、心配になって・・・」 イザークの声が冷たい。 口調はいつもと変わらないのに。なぜか印象がまるで違う。 いつものイザークの言葉は厳しいけど、温かくて。 でも、今のイザークの言葉からは何も感じることができなくて。 分からないけど、なぜか嫌だった。 こんな風に話すイザークを見るのも。 自分を見てくれないイザークを見るのも。
「別に・・・、お前が気にするようなことじゃない」 「じゃあ・・・、じゃあなんで僕と顔をあわせてくれないの?どうして避けるの!?」 「それは・・・」 「どうして心配しちゃいけないの?なんで・・・」
なんで何も言ってくれないの?
寂しいとは、また違うかもしれない。 悲しいとも、また違う。 ただ、イザークに避けられているという事実が、どうしても嫌だった。
「どんな顔をして会えというんだ?」 「イザー・・・ク?」 「振られたからといって、そう簡単にお前をあきらめることができるわけがないだろう。だから、お前には会わなかった。いや・・・、会いたくなかった」 あきらめることなど、できるわけがない。 ずっと、ずっと恋してきた相手だ。 アスランと付き合っていることを知っても、それでもあきらめることができなかった。 告白して、受け入れられないということは、最初から分かりきっていたことだったのに。 気持ちを伝えた以上、もう今までどおりなんて振舞えるわけがない。
「ごめん・・なさい」 「キラが謝ることなんて、ない」 「ちが・・・、違うの。違う・・・」 キラはただ、違うと繰り返し、その場で泣き崩れた。 イザークは振り向き、涙を流すキラを思わず抱きしめてしまいそうになったが、駄目だと自分に言い聞かせる。 これ以上、キラに踏み込んではいけない。 引き返せなくなってしまうから。 我慢できなくなってしまうから。
「何が、違うというんだ」 キラとの間に、一定の距離を置いて、イザークは静かに尋ねた。 「・・・・・っ」 「お前はアスランが好きで、アスランと付き合っている。だから、俺とは付き合えない。ただそれだけのことだろう?」 「違う・・・」 キラは、ただ違うと行って首を振るだけ。 「僕は・・・」 「何だ?」 「僕は、イザークの・・・ことが・・・」
そこでキラは言葉を切ってしまう。 イザークは自分の心臓がドクンと高鳴るのが分かった。 その続きは? 聞いてはいけないことなのかもしれない。 でも、聞きたい。 キラの口から。 本当のことを、本当の気持ちを。
「僕は・・・イザークのこと・・・・」 「俺のことが・・、何だ?」
「好き」
今にも消えてしまいそうだったキラの声。 でも、確かにイザークの耳にはそう聞こえてきたのだ、キラの言葉が。 だが、それを告げたキラはとてもつらそうで・・・・。 キラが傷ついていることが一目でわかる。 だが、何に対して。 自分に思いを告げたことに対して?
「でも・・・、でも僕はアスランのことも、好きだから。アスランを裏切ることなんか、できないから・・・」 だから、イザークの思いに答えることも、自分の気持ちに正直になることもできない。 そういって涙を流すキラに、イザークはそっと近づきとめどなく流れる涙をぬぐった。 キラは、そのとき初めて顔を上げた。 その涙で潤んだ目は、悲しげにゆれている。
「どうしても、俺と付き合うことはできないか・・・」 「ごめん、なさい。僕は・・・」 「わかっている。そんなお前に、俺は惚れたのだから。ただ、最後に一つだけ、願いを聞き届けてくれるか?最初で、最後の願いを」 「な・・・に?」
「キス、してもいいか?」
イザークの言葉にキラは目を見張る。 「これで、全てを自分の中だけに秘めると誓おう。今までどおり、何も知らなかった時に戻ると、誓う」 だから、最後に一つだけ、この願いを聞いてくれ。 自分の気持ちに決着をつけるために。 以前の自分に戻るために。 「わかった・・・」 キラはそういうと、そっと目を瞑った。 イザークは静かに近づくと、キラの唇に触れるだけのささやかなキスを落とした。
一瞬のような、長かったような、そんなキス。 ただ、イザークの気持ちが痛いほどよく伝わってきて。 そして、自分の気持ちを再認識してしまって。 キスをしている間に、新たな一筋の涙が零れる。
唇が離れたことで目を開くと、目の前にはイザークの静かに微笑んだ顔があった。 「ありがとう、キラ」 「僕も・・・・、ごめんね」 「もう、それは言うな。それでは、また、今度・・・な」 「うん」 そう告げると、イザークは身を翻し、帰っていった。
ごめんね、イザーク。 そして、ありがとう。 こんな僕を好きになってくれて。そして、僕の我侭な願いを聞き届けてくれて。 もしもう少し、君と出会うのがほんの少しでも早かったなら。 僕は君を選ぶことが、できたのかもしれないね。
「ちょ、キラどうしたの!?」 自宅に帰ると、部屋の中にはアスランが待っていた。 アスランは泣きはらした僕の顔を見るなり、慌てたように駆け寄ってきた。 「キラ、泣いたの?泣いたよね、誰かにいじめられた?それとも何かあった?」 そうまくし立てるアスランに微笑んで、キラはそっと抱きついた。 「キラ?」 「アスラン、ぎゅってして。僕のこと、離さないで」 「キラ・・・・」 アスランは希望通りに力強く抱きしめてくれた。 多分、その顔は困惑に満ちているかもしれない。 当たり前か。 普段、僕から抱きしめてくれなんていうこと、ないから。 ごめんね、僕はアスランに本当のことを言うことはできないけれど。 君を裏切ることを僕はしないから。 君が僕を裏切らない限り。
〜あとがき〜 本当の気持ち、続編パターン1です。 佐保さまいかがでしたでしょうか? これの別バージョンで、イザークとキラが付き合う方のリクエストもいただきました。 |