次の日、イザークは病院のベッドの横に腕を組みながらじっと座っていた。

その正面には傷ついたシモンの姿がある。

 

昨日、ちゃくちゃくと仕事をこなしていたイザークの元に一つの報告がなされた。

それを聞いたとき、イザークは目の前が真っ暗になったかと思った。

 

シモンが、何者かに刺されて公園で倒れていた。

一緒に出かけたはずのキラの姿はどこにもない。

目撃者をさがすが、人気のない時間だったらしくキラとシモンが誰かに会っていたのを見ている人間は一人も浮かんではこなかった。

鍵を握るシモンは、昨夜遅くまで生死の境をさまよっていた。

今朝になってようやく容態も落ち着き、あとは目覚めるのを待つだけ・・・。

どうしても気がせいてしまい自分を叱咤しつつも、イザークはシモンの目が早くさめることだけを刹那に祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・・」

うっすらと目をあけたキラの目に映ったのは、見慣れぬ天井だった。

しばらくはっきりしない頭のまま体を起こしたが、ふと自分の手につながれている一つの鎖に気が付いた。

「何・・これ・・」

はっとしたように、キラは今の現状を把握した。

シモンと公園を歩いていて、変な3人組にあって・・・。

そして、シモンは・・・

「あ・・、や・・・いや・・・っ」

現実から目をそむけるかのようにぎゅっと目を瞑り耳をふさぐ。

でも頭に思い浮かぶのは、あの時自分をかばって倒れたシモンの姿だけだ。その背中は血が次々と浮かび上がり真っ黒く染まってしまっていた。

「なんで・・、どうしてぇ・・・・」

涙が止まらない。

怖い・・・。

一人で、たった一人でこんなところに連れてこられて、何も分からないまま繋がれて閉じ込められて・・・。

どうしてこんな目にあっているかは分からなかった。でも、一つだけ分かっていることがある。

シモンは、自分が一緒だったから、キラをかばったからあんな怪我を負ったのだということ。

キラが一体何をしたというのだろうか、ここは、一体どこなのだろうか。

あの3人組は・・・一体誰なのだろうか。

「イザーク・・・」

救いを求めるかのように、キラは胸元のポケットに入れてあるはずのものへと、手を伸ばした。

だが、触った感触に求めたものはなく、数枚の生地が重なっているだけだった。

「っ!?」

驚いたキラは上着を脱いでそのポケットの中身を確認し、ズボンなどのポケットも探したが、探しているものは見つからなかった。

「ない」

ずっとお守りのように思って持っていたのに、それがなくなってしまっていた。

寝ている間にどこかに落としたのかもしれないと、キラはベッドを降りてあちこちを探した。

鎖でつながれている両手が不便でならない。

どこか・・どこかにあるはず、あってほしいと願う。

 

 

「探し物は、これかな?」

 

 

静かに問いかけられたその声の先には・・・・

「!?」

わけもわからない恐怖が、キラの心に沸き立つ。

そこには、キラをさらってきた3人組と一緒に、もう一人居た。

あのパーティー会場で会った、あの人物・・・

 

 

ムルタ・アズラエルが・・・・

 

 

「どう・・・して・・・、なんで・・・・」

全身から嫌な汗が噴出す。

おびえるキラを面白そうに眺めていたアズラエルは、手に持っているものをキラに見せるようにかざした。

「お探しのものは、これじゃないですか?」

アズラエルが手にしていたもの、それは・・・。

「あっ!」

イザークからもらった、あの大切な懐中時計だった・・・。

「返して!」

「ええ、返しますよ。調べましたがこれといった仕掛けはしていないようですから。てっきり盗聴器なんか付いてるかと思ったんですけどねぇ」

のんびりと懐中時計を眺めてから、それをキラの方へと放る。

慌ててキャッチしたキラは、その手の重みにほっとする。

ふたを開けてみれば、カチカチと規則正しい音を立てて変わらす針は動いている。

ようやく手の中に戻ってきた重みに、キラはほっとため息をついた。

「さて、キラ・ヤマトくん」

名前を呼ばれて、キラの鼓動がはねる。

自分は知らないはずのこと人が、どうして自分のことを知っているのだろうか。

そしてなぜ、こんなところにつれてきたのだろうか。

「そんなにおびえないでください。どうせ、これからずっと一緒に居ることになるんですから」

「っ、僕はここにはいません、イザークのところに帰ります!」

「そうはいきません。あなたはここにいなければならない運命にあるんですよ。生まれたころからね」

「生まれた・・ころ?」

「ええ。それでは、また今度ゆっくりとお話しましょう」

そういって、アズラエルは3人を連れて部屋から出ていった。

気丈にもアズラエルの前では立ったまま面と向かっていたキラも、扉が閉まる音が聞こえると同時にその場に座り込んでしまった。

怖い・・・。

どうして、こんなに怖いのだろう・・恐怖が心の底からわきあがってくるようだ・・・。

「イザーク・・・」

キラは懐中時計を胸に抱え、ぎゅっと握り締めて願った。

きっとイザークが助けに来てくれる。

だから、それまでなんとしてでもがんばってみるんだ、と。