アマルフィ家のパーティーから約1ヶ月が経とうとしていた。 あれからキラは、なかなか家の外に出ようとはせずに何かに怯えたように家の中ですごすことが多かった。 時折庭にでて庭師と共に花の世話をしているようだが、誰かが訪ねてくるたびに怯えたように部屋に閉じこもる。 唯一の例外は、ニコルやディアッカが訪ねてきたときだろうか。 この二人が来たときだけは素直に笑っていてくれる。 そんなキラを心配したアスランも、実家での用事を早々に済ませるとまたジュール家で生活するようになった。 パーティーの時、父親の命令で実家に帰宅し、出席できなかった自分を大層怨んでいたようだったから。
そんな、ある日。 「イザーク、ちょっといい?」 「キラ、どうした?入って来い」 書斎で書類と格闘していたとき、めずらしくもキラが部屋に尋ねてきた。 普段なら、仕事の邪魔になるからとこの部屋に近づいてこようとはしないのに。 「あのね、今からちょっとお出かけしてきてもいい?」 「キラ?」 その以外な言葉に、イザークはキラの顔を凝視した。 「いつまでもこのままじゃダメだと思うし、この近くぐいらなら僕も大丈夫だと思うから」 「本当に大丈夫なのか?無理はしてないか?」 キラの体を引き寄せると、ふんわりと抱きしめる。 キラもちょっと照れたように背中に腕を回した。 「ちょっと怖い、けど。でも、そんな風に怯えていても何もできないでしょ?」 「お前がそう決めたのなら。でも、もう少し待てないか?この書類だけ終わらせたあと、俺も付き合うから」 「ダメだよ。イザークすごく仕事がたまっているってエザリアさんが言っていた。終わらせないとみんなが困るんでしょ?」 見抜いているかのようにキラはにっこりと笑った。 確かに最近、なにかしらイザークに回ってくる書類やら仕事やらが急に増えだした。 イザークだけではない。アスランやディアッカ、ニコルもそうらしく、最近では頻繁に訪ねてこれないようだ。それでも時間を見つけては来ているのだが。 今日はアスランも仕事で留守にしている。 「大丈夫だよ、僕一人でも」 「いや、心配だ。そうだ・・・・」 ふと思いついたようにイザークは内線を掛けると、誰かを呼び出した。 数分して部屋を訪れたのは、この家の庭師・シモンだった。 日に焼けたような金髪と、めがねに覆われているその優しげなまなざしの青年は、まだ若いがエザリアが腕を見込んでこのジュール家の庭師に雇われている。 キラもよく庭で草木の世話を共にしている姿をよく見かけるので、結構親しい間柄だ。 「シモン、これからキラが出かける。ついていってやってくれ」 「かしこまりました」 「え、いいよ!シモンさんだって仕事があるだし、迷惑がかかる!」 庭師の仕事が大変なのは側で見ていることが多いキラがよく知っている。 自分が少し散歩に出たいぐらいの外出に、多忙な彼に迷惑を掛けることはできない。 「だが、他の者をつけるのはもっと嫌がるだろう、お前は。シモンがダメならやはり俺がついていく」 「だから、イザークには仕事が・・・」 ついていく、一人で大丈夫の押し問答を繰り返している2人を見かねて、シモンは声を掛けた。 「それでしたら、キラさま。よろしければ私の買い物に付き合っていただけますか?」 「え?」 「なに?」 シモンの言葉に、言い合いを止めてそちらを見る。 シモンは片手を胸に当ててにっこりと微笑みながら言った。 「実は、先日草木用のはさみが壊れてしまって、そろそろ買わなければいけないと思っていたところなのです。それに、これから寒くなりますと、草木にもいろいろといるものがでてきますので。よろしければ今日お付き合いいただけますか?」 「え、でも・・・いいんですか?僕なんかが一緒で」 「ぜひ、お願いいたします。一緒に来ていただいて新しい植え木の吟味などもしていただきたいですし。そうですね、30分後ぐらいに出かけましょうか」 「あ、はい。じゃ、僕準備してくる!」 そういうと、キラは飛んでいくように部屋から出て行ってしまった。 そんな様子を見て、イザークはほっとしたようにため息をついた。 「すまないな」 「いえ。ずっと家に閉じこもっているのも確かにいいことではありませんし。せっかくキラ様が自分から出かけると言い出されたのですから」 「ああ。・・・・・・頼んだぞ」 「お任せください」
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