「これはこれはみなさん、おそろいで」 いきなり掛けられた声に、イザークたちが後ろを振り向くと、そこには一人の青年が立っていた。 その青年にイザークは見覚えがあったが、誰なのかは思い出せなかった。 「おい、あれは誰だ?」 ニコルがその人物への挨拶を済ませている間、イザークは横に立っているディアッカにそっと尋ねた。 「あ?ああ、ブルーコスモスって組織のトップだろ?たしか、ムルタ・アズラエルっていったか」
ブルーコスモスのムルタ・アズラエル。
そういえば、最近よく聞く名前だ。 医学などの分野で急激に発達してきているブルーコスモスという組織は、今マスコミの注目を集めていることが多い。 その宣伝、というかテレビや報道の場面では必ずと言っていいほどこの人物が出てきた。 だが、イザークはあまりこの人物に好印象は抱けていない。 今初めてあったはずなのだが、なぜだか分からないのに嫌悪感を感じる。 それはディアッカも同じらしく、睨みつけるような姿勢でアズラエルを見ていた。 「こちらのお二人は、ジュール家とエルスマン家のご子息ですか?」 「ああ、紹介します。彼がイザーク・ジュール。そして、ディアッカ・エルスマンです」 ニコルに紹介されて、しかたなく、二人とも頭を下げる。 他のパーティーならば適当に無視をするということも可能なのだが、いかんせんここで印象を悪くすればアマルフィ家に迷惑がかかってしまう。 それは避けなければならない。 「はじめまして、ムルタ・アズラエルと申します。今後、お会いする機会が増えると思いますので、ぜひお見知りおきを」 「「よろしく」」 二度と会いたくはない。 と、なぜかディアッカとイザークは思った。 「そちらの方は、なんとおっしゃるのかな?」 アズラエルの視線がキラへとむけられる。 つられてキラの方を向いたイザークが見たものは、目を大きく見開いてアズラエルを凝視しているキラの姿だった。 「キラ?」 イザークが名前を呼ぶと、はっとしたようにキラはイザークの方を見た。 「どうかしたか?」 「・・・・・・・なんでも、ない・・・・」 と言葉では言うが、どうみても様子がおかしい。 イザークがそっとキラの体を抱き寄せれば、キラはイザークの腕にぎゅっと抱きついてきた。 どうしてキラがこんな状態になっているのかは分からないが、何かに怯えている。 それは、キラの体の微妙な振るえから分かる。 「おやおや、具合が悪いようですね。なんでしたら、私が見て差し上げましょうか?」 そういってアズラエルが伸ばした手がキラに触れる寸前、 「い、いやっ!」 キラはその手を嫌がるように払いのけた。 だが次の瞬間、キラは自分がなにをしたか分からないという風に自分の手を見つめた・・・。 「おやおや、嫌われてしまったようですね。それでは、私はこれで退散するとしましょう。また、いつかどこかでお会いしましょうね、みなさん。・・・・・・キラさんも、ね」 名前を呼ばれたことで、ビクッと大きく震えるのが分かる。 キラらしくない、といえばそれまでだが、何かがおかしい。 そのまま何かたくらんでいそうな笑みをそのままに、アズラエルはその場を後にした。 「なんか、嫌な感じだな」 「そうだな。なんであんな奴招待したんだ?」 「最近、取引をするようになったので、とりあえず招待状は出したんです。来ないと思っていたのに」 そういいながら、ニコルたちはアズラエルが消えていった廊下をじっと見ていた。 何か・・・、そう、何かが引っかかる。 あのアズラエルという男の何かが。 今まで感じたことがない、どこか不思議な違和感。 何かが、起ころうとしているのだろうか。
「・・・・・・たい・・・・・」 「キラ?」 小さな呟きを発したのは、いまだにイザークの腕に抱きついているキラ。 その体の震えは収まるどころか徐々に大きくなってきている。 「キラ、どうした?」 「・・・・たい、ここに・・・、いたくない・・・・」 「え?」 「やだ・・・、ここは嫌・・・かえる・・・・・・っ」 「お、おいキラ」 「帰りたい・・・・、ここは・・・・・・」 そう何かに浮かされたようにつぶやくと共に、キラは自分の意識を手放した。
「キラ!?」
ここにはいたくないの・・・・。 はやく、かえりたい・・・・・・・。
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