「これは、・・・・どうやって手に入れられたのです?」

ニコルがキラに懐中時計を返しながら問う。

どうしようかという不安でいっぱいで、この懐中時計のことをすっかり忘れていた。

イザークに困ったらコレを見せるようにといわれていたのに。

「イザークからもらって」

「「イザークから?」」

声をそろえて言うと、二人は顔を見合わせた。

そんなに変なことを言っただろうか。

「もしかして、キラ・ヤマトさん?」

「え?」

どうして、この人が自分の名前を知っているのだろうか。

会ったことはない・・・、はずなのだが。

とりあえず、キラはうなづいてみせた。

そうすると、ニコルがにっこり笑ってキラの両手を握った。

「あなたがキラさんでしたか。一度お会いしたいと思っていたんですよvイザークちゃんと連れてくるか心配だったんですよね」

「へぇ、あんたが姫さんか。イザークってやっぱ面食いだよなぁ」

ディアッカがキラの隅々を見るように眺める。

キラは二人の行動がいまだよくつかめずに、おろおろとされるがままになっていた。

「イザークとアスランの話から、どんな方なのかすごく気になっていたんですよ。それなのにイザークってば表に出さないようにしているみたいですし・・。本当にお会いできて嬉しいです」

「そうそう。いろんなパーティーに誘っても自分が出不精だからってことで噂のキラも拝めないしな。以前イザークの家に押しかけたときはエザリアさんが連れてったとかで家にはいないし、イザークの機嫌は悪いし」

「僕はアスランに会いましたよ。散々キラさんのことを聞かせるくせに、写真とかは一切見せないんですから」

自分を間に挟んだまま、二人の会話は続く。

どうやら、二人はアスランとイザークの知り合いらしい。

「あの・・・、二人はアスランとイザークを知っているの?」

「ああ、自己紹介が遅れましたね。僕はニコル・アマルフィです」

「俺はディアッカ・エルスマン」

「ニコル・・・。あ、イザークが言っていた昔の同僚?」

「ああ、ご存知でしたか。ええ、アスランとイザークは僕達とは昔の職場の仲間になります」

「ニコルのことは知っているのか。で、俺のことは何か言っていたか?」

「・・・・・・・知らない」

とキラが言った途端、がくっと頭をたれる。

まぁイザークが自分のことを話していることをあまり期待してもいなかったのだが。

「ん?でもここにいるってことは、もしかしてはぐれたのか?」

「あ、はい・・・・。怒っているかなぁ」

「怒って・・・いるかもしれませんね。烈火のごとく心配しているでしょうし」

「だな。しかたない、連絡すっか」

ディアッカが携帯を胸ポケットから取り出し、短縮を表示してイザークにかける。

プルルルルー     プルルルルー

プルルルルー    プルルルルー

だが、イザークからの反応はない。

「おかしいな。今日はイザーク携帯持っていないのか?」

「持っていたと、思うんですけど」

一度切ってからもう一度かけなおすと、今度はすぐに出てきたようだ。

「あ、俺だけど」

『今忙しい、あとにしろ』

ブツッっと一方的に電源を切ってしまった。

「こりゃ相当あせってるな」

「ですね」

しかたない、ともう一度携帯にかける。

『後にしろといっただろう!何のようだディアッカ!』

「ったく、初めからちゃんと聞けって」

『・・・・切るぞ?』

「別にいいぜ?イザークの探し物見つからなくなるだけだからな」

『なんだと!?』

何ごとかを怒鳴っている携帯を耳元から遠ざけると、そのままキラに差し出した。

おそるおそる受け取って耳に近づける。

『おい、ディアッカ!どういうことだ、答えろ!』

「あの・・・・・イザーク?」

『!?キラか!?今何処にいるんだ!』

「どこって・・・・」

どう答えたらいいのか分からなくて、ニコルの方を見る。

ニコルは心得ているとばかりににっこりと微笑むと、キラから携帯を受け取った。

「もしもし、イザーク?」

『今度はニコルか。お前ら、なぜキラと一緒にいる?』

「まぁいろいろありまして。今から会場に戻るのもなんですし、僕の部屋にいますからそっち来てください」

そういって携帯を切ると、それをディアッカの方に放った。

キラの手を引いて今来た道をまた戻る。

「イザークはすぐに合流するそうですから。どうせなら僕の私室でお話していましょう?」

「あ、うん。でも、いいの?」

「もちろんです。キラさんなら大歓迎ですよ」

 

 

 

 

一方的に切られた携帯をポケットにしまいながらイザークはすぐにニコルの部屋へと向かった。

途中、ロミナと話しているエザリアの横を通りすぎる。

「イザーク、キラはみつかったの?」

「はい、どうやらニコルとディアッカの元にいるようです」

「まぁ、あの子ったら。今どこにいるのかしら」

「自室ということなので、今から来いとのことです」

「それなら、早く迎えに行ってあげなさい」

「はい」

返事をするやいなや、全速力で走っていくイザークをロミナとエザリアは微笑ましく見守っていた。

 

 

 

「う〜、どうしよう〜」

ニコルの部屋についてからというもの、キラはずっと頭を抱えていた。

「どうしたんですか?キラさん」

「絶対イザーク怒ってるよ・・・。どうしよう・・・」

「まぁ、そりゃな」

「そんな感じでしたからねぇ」

二人の何気ない言葉が、さらにキラを追い詰める。

どれだけ怒られるのか、想像もつかない。

と、そのとき、勢いよくニコルの部屋の扉が開かれた。

「!?」

「ああ、こんばんはイザーク。お久しぶりですね」

「よ、イザーク」

挨拶をしてくる二人を無視して、イザークはキラにずんずんと近づいていく。

睨みつけられたままで、キラは動くことができなかった。

「・・・・イザーク・・・」

「この馬鹿が!!あの場所から動くなと言っておいただろうが!聞いてなかったのか!」

「だって・・・・」

「だってじゃない!こっちがどれだけ探し回ったと思っている!?」

「ご・・・ごめんなさい・・・・」

俯くキラにさらに怒鳴ろうとしているイザークをニコルが止める。

さすがにキラももう反省しているだろう。

「それぐらいにしてください、イザーク。あんまりうるさいと追い出しますよ」

「わかった・・・・」

キラの隣にどかっと座ると、イザークはいらいらするように髪をかきあげた。

冷静になろうとするときのイザークのくせなのだ。

キラは恐る恐る近づくと、イザークのそでをひっぱる。

「あの・・・、ごめんね?」

「・・・・もういい」

「怒ってない?」

「ああ」

キラの髪をくしゃくしゃっと混ぜると、ようやくキラの顔に笑顔が戻った。

それを見てニコルとディアッカ、怒ったような顔をしているイザークも内心ほっとした。

やはり、キラには笑顔がよく似合うから。

「でも、イザークがそこまで必死になるとはねぇ」

にやにやと笑いながら、ディアッカがキラとイザークを見比べた。

その目がイザークには気に障ったらしい。

「何がいいたい?ディアッカ」

「別に?ただ、何事にも無興味、無関心だったお前とずいぶん変わったなぁと思っただけだ」

「うるさい」

なんだかんだと楽しそうに(キラから見れば)話す2人を、キラは微笑ましそうに見ていた。

「そろそろパーティー会場の方へ戻りませんか?そろそろ次の企画があるでしょうし」

「そうなのか?」

「んじゃ、行こうぜ。せっかくのパーティーなのに部屋に引きこもってばっかじゃロミナさんに申し訳ないしな」

「ああ」

 

 

 

4人が連れ立ってパーティー会場へ戻ると、ちょうど招待されていたバイオリニストの演奏が始まったところだ。

人々がステージに注目している間を通り抜けて、隅のスペースに集まる。

あまり人ごみが好きではないし、この位置でも十分演奏が聞き取れる。

「お前はやらないのか?」

「僕ですか?もう済ませましたよ。一番最初だったんです。エザリアさんをみてませんから、おそらくイザークとキラさんはまだいらしていなかったのでしょう」

「え?ニコルさんって、なにかするの?」

「ピアノを少々。毎年母の誕生日には新しい曲をマスターして演奏することにしているんです」

「へぇ、すごいなぁ」

楽しそうに話しているキラを見ていると、今日連れてきてよかったと思える。

もうそろそろ、自分達以外の人間とも親しくなったほうがいいと思っていたところだったから。

この二人は最近疎遠だったとはいえもともとは親しくしていたやつらだ。

キラに悪影響を及ぼすようなまねはしないだろう。

 

 

「おや、これはこれはみなさんおそろいで」