「「パーティ?」」

長期の出張から久しぶりに帰宅したエザリアとの夕食のとき、一つの招待状をイザークに渡しながら、エザリアは唐突に言った。

「アマルフィ夫人の誕生日パーティらしいわ」

そういわれて渡された招待状を見たイザークは、なぜか表情を険しくさせる。

そこには3人の名前が記されていた。

「母上、これは・・・」

「招待されている以上、行かないわけにはいかないでしょう?」

「それはそうですが・・・」

「いつかは来るのよ。だったら今でもかまわないでしょう」

「・・・・・分かりました」

 

 

夕食後久しぶりのエザリアとの会話を楽しんだ後、イザークはキラを部屋まで送ってから自室へと戻ってきた。

その日の夜、イザークはベッドの上でエザリアに渡された招待状を見ていた。

容姿と家名により、こういう場所にはよく招待されるのだが、あまり好んで出席することは少ない。

どうでもいい家や、自分に関係のないパーティなどは極力出席を控えていた。

だが、アマルフィ家ともなるとそうもいかない。

自分と同等の家だということもあるし、付き合いもなかなか古い。

アマルフィ家の長子であるニコルとも顔見知りだ。

これに出席しないと、後でなにを言われるか分からない。

まぁ、別段パーティに出席することには特に問題はないのだ。

招待されているメンバーの問題以外は。

 

 

時刻はすでに夜中を過ぎている。

普段ならば家中の人間が寝静まっている時間。

なのに、なぜか扉の向こうに人の気配がするような気がしてならない。

それも、一番よく知る者の気配が。

「キラ・・・・」

扉をそっと開いてみると、やはりそこにいたのはキラだった。

いきなり声をかけられて驚いたように体をこわばらせたが、イザークの姿を確認するとほっとしたように笑った。

「どうしたんだ?こんな時間に・・・」

「ん・・・・ちょっとね。起こした?」

「いや、起きていた」

キラの体を抱き寄せれば、かなり体が冷えていることが分かる。

どれだけの間、ここにいたのだろう。

「このままでは風邪を引くぞ」

キラを部屋に入れると、ソファーに座らせてから温かいミルクティーを作った。

「ほら」

「ありがと」

ミルクティーを一口飲んだのを見計らって、イザークはキラに尋ねた。

「で、どうしたんだ?」

「・・・・・・」

キラは口をつぐんでしまって話そうとはしない。

こうなってしまったら、無理やり聞き出そうとしても無駄なだけ。自発的に話してくれるまで待つしかないのだ。

イザークはふっとため息をつくと、立ち上がってキラに手を差し伸べた。

「もう寝ろ、部屋まで送ってやるから」

「や・・・やだっ・・・」

「キラ?」

キラはおびえたように叫ぶと、それきりうつむいたまま何も言ってくれない。

イザークはソファに座っているキラの前にひざまずいて視線を合わせるように顔をそっと覗き込んだ。

その瞳は、なぜか不安に揺れている。

「どうしたんだ?」

できる限り、優しい声で尋ねてみる。

「・・・・・・・・た」

「なに?」

よく聞こえなかったので、キラに耳を近づける。

すると、キラはそっと手を伸ばしてイザークに抱きつくと肩に顔をうずめた。

「怖い夢、見たんだ」

「夢?」

コクリとうなづくのが分かる。キラの体を抱きしめてみて初めて震えているというのが分かる。

それを落ち着かせるようにキラの体を抱き寄せて、背中をポンポンと叩く。

「どんな夢だったんだ?」

「わかんない・・・。けど、なんだかすっごく怖い夢だった。それで、一人で部屋にいたくなくて・・・・」

「それならば、さっさと入ってくればよかっただろうに」

「寝ていたら悪いと思ったんだもん。でも・・・・・」

本当は、気づいてくれないかなって、思ってたんだ・・・・・

キラのささやきに、思わず笑みがこぼれる。

ようやく落ち着いてきたのか、キラの体の震えはいつのまにか止まっていた。

それを確認してから、立ち上がると同時にキラに体を抱え上げた。

「うわっ」

「ほら、もう寝るぞ。明日はいろいろ忙しいからな」

「だから、部屋には戻りたくないって・・・・」

キラの危惧をよそに、イザークはキラを自分のベッドに横たわらせると、部屋の明かりを落として自分もベッドに入った。

最初は呆然とイザークの行動を追っていたキラだが、イザークが側に横になるとホッとしたように体を寄せてきた。

「怖い夢を見たら、かまわずに俺を起こせよ」

「大丈夫だよ、イザークと一緒だもん」

イザークの腕を枕代わりにして、キラはそっと目を閉じた。

トクン、トクン、と規則正しいイザークの心の音が聞こえてくる。

それが、何よりも安心できるような気がした。

「あ、ねぇイザーク?」

ふと、キラが思いついたようにイザークの顔を見上げた。

「なんだ?」

「明日・・・、パーティー行くんだよね」

「ああ。アマルフィ家からの直接の招待ともなれば、行かないわけにはいかんだろう」

「そう・・・」

キラは何か言いたそうにしているのだが、言葉には出さずにイザークの肩に顔をうずめた。

「キラ?」

「パーティーって、どれぐらいかかるの?」

「・・・・分からん。その家によって違うからな。それがどうかしたか?」

「うん・・・・、あの・・・あのね?何時ごろ、イザーク達帰ってくるのかなと思って」

イザークがなぜそんなことを聞く?という顔をするが、キラは少し迷ってからいった。

「だって、明日はイザークと一緒にいられないし・・・、でもずっと会えないのも嫌だから、少しだけでも会いたいなと思って・・・・」

必死に言葉を紡いでいるキラとは裏腹に、途中からイザークのクックッとした笑い声が頭の上から聞こえてきた。

俯いていた顔を上げてみると、思ったとおり笑っているイザークの顔があった。

自分は真剣に話しているのに・・・と、キラも少々膨れ気味。

「あ、すまない・・・」

「何で笑うの?」

「キラこそ、どうして待っている気でいるんだ?」

「え?」

イザークは寝たまま枕もとのスタンドの明かりをつけると、側においてあった招待状をキラに差し出した。

 

 

           

来週の日曜夜6時より、我が妻であるロミナ・アマルフィの

誕生日パーティーをいたします。

以下の方をご招待いたしますので、

ぜひともご出席いただけたら幸いです。

 

エザリア・ジュール様

イザーク・ジュール様

キラ・ヤマト様

                                                      

 

 

「イザーク、これって・・・・」

「招待されているのは俺と母上だけではない。お前もだ」

「え、でもどうして・・・・」

キラは招待状とイザークの顔を交互に見つめる。

どうして自分の名前がそこに書いてあるのかがまったくわからない。

「多分、ニコルの差し金だろうな」」

「ニコル?」

「アスラン同様、俺の昔の同僚だ。このロミナ氏はニコルの母親でな、母上の親しい友人なんだ」

「エザリアさんの?」

「そう。誕生日会には毎年呼ばれている。もっとも、俺が出席するのは久しぶりなんだがな」

ここ何年かは、招待されてはいたものの、仕事が忙しいといったり予定があるといって断ってきた。

今年もそろそろだと思っていろいろと欠席の理由を考えていたのだが、キラが招待されているとなれば話は別だ。

キラのことだ、必ず出席するというだろう。

だったら、キラのエスコートは自分がする。

だれにもゆずるものか。

「ほら、分かったら今日はもう寝ろ。明日はいろいろと忙しい」

「うん・・・。おやすみ、イザーク」

「おやすみ」