すごく愛しく思える人は…。







うっすらと瞳を開けると白い光が入ってきた。

やわらかいシーツが身体を受け止める。




僕…まだ生きてる…?




頭を動かしてここが何処なのかを確認する。

白い部屋。

ここは…。

「っ…!」

身体を起こすと身体中が痛む。

頭やら腕には白い布が巻かれていた。

「寝ていろ。」

「!」

ドアが開くと同時に伝わる声。

それはもう一度聞きたくてたまらなかった愛しい人のもの…。

「イザー…ク?」

不機嫌な顔をして入ってきたのは屋敷の主のイザーク・ジュール。

だが、入ってきたのはイザークだけではなく、紺色の髪の少年も入ってきた。

「アス…ラン?」

どうして…。

自分がなぜここにいるのか、なぜ2人が一緒にいるのかわからない。

自分は確か外で…子供が…。

「!あ、イザークあの子は!?無事なの!?」

イザークは眉を顰めるとベッドの横にあったテーブルに食事を置き、椅子に腰掛けた。

アスランもやれやれと腰をおろす。

「あの子は無事だよ。それより、何であんな無茶をしたんだ?」

「なんでって助けたくて…。」

「そうじゃない、何故薬がもう少ないことがわかっていて家を出た!?」

どれほど心配をかけたかわからないのか!?と叫ぶアスランにキラは俯き、ごめんと謝る。

これ以上迷惑をかけられないと思ったから家を出たのに結果として迷惑をかけてしまったのだ。

「待て、アスラン。」

「イザーク…。」

イザークは俯くキラの頬に手を伸ばす。

また触れたかった愛しい存在が戻ってきて心の底から安堵した。

「もう勝手なことはするな。」

「……うん。ごめんなさい…。」

堪えていた涙がボロボロと流れ出る。

会いたかった…本当は…本当はすごく怖かった。

離れてしまうことが、もう二度と会えないことが。

「全く…まさかイザークとキラが知り合いだったなんてな。」

「ふん、それならば貴様とキラが一緒に住んでいたという方が驚きだ。」

「え…?イザークとアスランって知り合いだったの?」

「………一応な。」

すごく嫌だがと呟く2人はどこか似ている。

アスランとイザークは元同僚だという。

これはすごい偶然だとキラは驚いたがふふふっと笑い出した。

「2人共仲がいいんだね。」

「「よくない!!」」

「え…?あはは、ほらやっぱり。」

一瞬キョトンとしたが、キラは堪えきれずに噴き出した。

よかったまた2人に会えて。

アスラン…イザーク…。

「ところでキラ、これからどうする?」

「え?」

これからって?とわかっていないようなキラに溜息をはく。

「お前は俺とイザーク、どちらの家にいたい?」

「あ…。」

今までずっと一緒にいて、笑いあい、励ましあってきたアスラン。

出会ったばかりだけど温かい場所と優しい手を差し伸べてくれたイザーク。

どちらも大切で大好きな人。

我儘だけど2人と離れたくない。

だけど…。

キラは2人を順に見つめる。

自分が今…一番必要としている人…。

すごく愛しく思える人は…。

キラはすっと手をのばし、その人に抱きついた。

「……一緒にいてくれる?」

「ああ…。」

その人も嬉しそうに抱き返してくれる。

優しく…。








「…………イザーク。」





願いを叶えてくれるガラスの星…。






優しい温もり。

包み込んでくれる腕。

一番安心できる場所。

何より求めていた貴方。

すべてが愛しい。






「キラ。」

「あ、イザーク。おはよう。」

早朝5時、ジュール邸庭。

あの日からすでに3週間が経過しようとしていた。

アスランの家を出て、イザークの家に来た。

アスランは毎日と言っていいほど家に通ってきている。

最初はキライザークの家に行くのを猛反対していたが、仕方ないと渋々了解してくれた。

そのかわり毎日様子を見に来るという条件付きで。

「こんな冷える朝に何をしている?身体に悪いだろうが。」

「大丈夫だよ。手術は成功したんだからもう大丈夫。それにほら朝焼けが綺麗だよ?」

「あぁ、綺麗だ…綺麗だが。」

「うわっ!?」

イザークは軽々とキラを抱え上げ、家の中へと連れ戻す。

手術は5日前に成功していた。

いくら手術が成功したとはいえまだまだ安心できない状況にある。

それなのにキラは病人だったということも忘れたかのように毎日はしゃぐ始末。

なのでこちらは気の休まる時がない。

「ほら、まだ寝ていろ。」

自室につくとイザークはキラをベッドへと下ろし、シーツを掛けてやった。

「もう眠くない。起きる!」

「おとなしくしろ!」

起きようとするキラを押さえつけてイザークはキラの唇に自分の唇を重ねた。

「んっ!?んんっ…う。は…。」

一度唇を離し再度口付けキラの唇を味わう。

甘い口付け。

2人の関係は屋敷中の人物すべてが知っていることだった。

当然アスランも知っているが、中々納得してくれない。

イザークが唇を離すとキラは赤い顔をして自分の口元を押さえ、枕に顔をうめた。

その可愛らしい仕草にイザークは目を細める。

「もう…///」

縮こまるキラの髪に指を絡めるとサラサラと流れるように落ちる。

「そういえば…母上が帰ってくると言っていたな。」

「っエザリアさんが!?」

「あぁ、お前に会いたいそうだ。」

「えっ嘘どうしよう。料理の材料買ってこなきゃ。あ、薄味が好きだったんだよね!?それから、えーっと…。」

「落ち着け、母上は病み上がりのお前に働いてなどほしくないはずだ。」

「だけど…。」

「いいから寝ていろ。」

尚も食い下がろうとするキラに埒が明かないとシーツを顔が隠れるくらいまで掛けてやる。

「わっ!」

キラはむぅっとしてからチラッとのぞくが、心配してくれているのだとわかりそっと目を閉じる。

「イザーク…。」

「何だ。」

「…ありがと。」

「ああ。」
















「……何故貴様がここにいる?」

「毎日様子を見に来る条件だ。」

ここというのはエザリアとの夕食の場。

アスランは昼間から様子を見に来てずっとここにいる。

なぜかはわからないが大荷物だ。

「あら、アスランくん話してなかったの?」

「すみません。今日言って驚かせようと思いまして。」

「何のこと?」

「今日から僕もここでお世話になるんだよ。」

「何!?母上!!」

突然のことにイザークはエザリアへと視線を投げかけた。

そんなこと聞いていないと。

キラはきょとんとしていたがすぐにぱぁっと顔を輝かせた。

「本当!?アスラン。あ、けど家は?」

「父がそのまま住むことになった。婚約の話も保留だ。」

「そっか。」

「母上、なぜこいつが…!!」

「だって、私なんだが息子の新婚生活を邪魔してるみたいなんですもの。」

「ぶっ!!ゲホッゲホッ。」

水を口に含んだキラは思い切り咽てしまった。

それを文句を言いながらイザークはナフキンで口元を拭いてやり、アスランは背中をさすってやる。

「帰ってくるのも気が引けちゃうし、アスランくんが居てくれればまだ帰ってくるのが楽かしらって。それにわざわざ毎日出掛けてくることもなくなるでしょう?」

「何でよりにもよって…!!」

「………略奪愛ってのも楽しそうじゃない?」

ふふふっと笑うエザリアにイザークと使用人達は深く溜息をついた。

もはや何も言うまいと。












夕食も終わり、キラはテラスへと出た。

心地よい風が吹き、うっとりとする。

空には一面の星が輝いて美しかった。

ジッと眺めていると星が一つ流れる。

「あ。」

キラはあわてて指を組んで目を閉じた。

やっぱり祈りはもう定番になってしまったらしい。

「何をしている?」

「あ、イザーク。うん、ちょっとお祈り…かな。」

恥ずかしいところを見られたな…と顔を赤くし、星へと視線を戻す。

今はとっても幸せだから願い事をしたらバチがあたる。

だから今日はお祈りをしたのと目を細める。

「……そうだキラ。お前がくれた星の砂なんだが…。」

「!?え、持っててくれたの?」

キラは目を丸くしたがすぐに嬉しそうな顔へと変わった。

安物だったし、邪魔だから捨てられるかなって思ってたからすごく嬉しかった。

イザークは星の砂を取り出し、すまなさそうな顔をした。

「ガラスの星だが…お前の手術が成功した日に割れてしまった。」

「入ってたの!?」

「あぁ…すまない。」

「ううん。」

願いを叶えてくれるガラスの星…。

割れてしまったのはもしかして…。

「イザーク、何かお願いした?」

「…………まぁ…な。」

めずらしく顔を赤くして目をそらすイザークにキラはふふふと笑ってありがとうと呟いた。

「あ、流れ星。」

キラは咄嗟に指を組んでまた祈りを捧げる。

これからもずっとこの行為は繰り返されるだろう。

「……キラ。」

振り向くと降りてくる唇。

キラはそれを何も抵抗せずにそっと瞳を閉じて受け止めた。









空に輝く星。

願いを叶えてくれる星。

時には見えなくなってしまうけれど消えてしまうことはない。

そう思う…。










今日までの幸せとこれからの幸せに感謝します。