アスランがミネルバを離れてから、いろいろなことがあった。
自分達はオーブとは完全に敵となった。 あんな国、大嫌いだったけれど。 でもあの人が居る国だから。 関係がなくなってしまうのだけが・・・・悲しかった。 もう二度と会うことのないとわかっていた人。 それでも、悲しいと思うこと、会いたいと思うことだけは許してください。
その日は、突然訪れた。 見たこともない赤いMSが、シンの居るミネルバに降り立ったのは。
気になって向かった格納庫には案の定あの赤いMSがいた。 その足元にはたくさんの整備士や艦の人間がひしめくように集まっている。 「一体、誰が・・・」 シンも好奇心からその場所へと向かう。
人々の隙間から見える、その人の顔。
あれは・・・・
「な、なんであんたがこんなところに!?」
驚きを隠せず叫ぶシンを制したのは、アスランの目の前に立っていたルナマリアだった。 「シン、彼はフェイスよ!」 「!?」 そういわれて再びアスランを見れば、その襟元に輝くフェイスの印。 慌てて敬礼を返しながらも、シンは驚きを隠せなかった。 「ご案内します」 「ありがとう」 ルナマリアがアスランの案内役をかってでたときも、シンは何もいえなかった。 歩き出す少し前に、ちらりとアスランの視線がシンを捕らえる。
『また、あとで』
声に出さずに。 だがはっきりとアスランはそうシンに告げた。
何もする気力が起きなくて、シンは部屋に戻って自分のベッドにバタッと倒れこんだ。 フェイス。 その能力と実績を認められたものに与えられる称号。 前大戦で英雄であるアスラン・ザラには当然のものかもしれない。 それより、なにより。 そのアスラン・ザラが、今再びこの艦に訪れた。 彼が纏っていたのは、自分と同じ紅。 「どうして・・・・」 なんで、戻ってきたのか。 都合のいいことばかり考えてしまう。 自分の元に、戻ってきてくれたのかと。 シンに会いたいから、再びここに戻ってきてくれたのだと。 思いあがりも甚だしいけれど、シンはそう思いたかった。 アスランの気持ちが、まだ、自分にあると信じたかった。 「シン、いるの?」 「ルナ・・・」 いきなりノックも無く入ってきたのは先程までアスランの案内をしていただろう、ルナマリア。 「いたいた。シン、あの人が読んでるわよ」 「え?」 「アスラン・ザラ。どうやら本当にフェイスでこの艦に所属になるみたいよ。さっき艦長と話してたわ」 「そう・・・なんだ」 「部屋にいるから、すぐに来いって」 先程のような態度は取らないよう重々注意を受けながら、ルナは部屋を出て行った。 シンものろのろと体を起こしてベッドから降りる。 すぐ近くにいるとわかっていても。 胸の奥が、すごく重かった。
『はい』 ルナマリアに教えられたアスランの私室をノックすると、すぐに返事が返って来た。 「シン・アスカです。お呼びだそうですが」 『ああ。鍵は開いているから入ってくれる?』 「失礼します」 そのまま扉を開くと、アスランは自分の荷物を片付けている最中だった。 入り口に立ち尽くしているシンに気付いて、アスランは自分の近くに手招きしてくれる。 「元気だった?」 「・・・・一応」 「そうか」 アスランの手がシンの頬に触れれば、びくっとシンの体が震える。 それに気付いたアスランだったが、そのままシンの体を抱き寄せた。 「アス・・・?」 急に抱き寄せられてどうしていいかわからないシンだったが、アスランはそのまま落ち着いたように息を吐き出した。 「シン、だね」 「え?」 「シンだなぁって思って。遅くなってごめんな」 「いえ・・・・」 おずおずとアスランの背に手を伸ばせば、そのまましっかりと抱き寄せられた。
「あんた、仕事はどうしたんだ?」 「ん?」 アスランとシンはベッドに隣合わせて座ったまま話をしていた。 「オーブの、あいつの護衛だよ。それに、なんで紅で・・・フェイスって、一体・・・・」 「シンに会いたかったからだよ」 笑顔でそう告げるアスランに、シンはむっと顔をしかめるとその頬をぎゅーっと引っ張った。 「痛いんだけど」 「本気でそんなこといっているんなら、俺、あんたを軽蔑するからな」 嬉しいのに、その気持ちを素直に表現できない。 それに、自分に会いたいだけなんて、そんなことあるわけないから。 「まぁ、確かに。それだけじゃないんだけどね」 シンの手を離すと、アスランは話だした。 「オーブにいても、俺は何もできなかった。それでも刻々と変わる世界情勢の中で俺にはなにができるのかかんがえた。それで、俺は一度プラントに向かったんだ」 「本国へ?」 「ああ。議長にお会いすることができた。そして、俺は自分の力がまだこの世界に役に立てるかもしれないと思ったんだ」 アスランはじっと自分の手を見た。 「何ができるかなんてわからないけど、少なくとも何かの役にはたつはずだから」 「いいな、あんたは」 力があって。 シンにはそこまで確固たる力があるか分からなかった。 ザフトの紅を纏い、インパルスを与えられて力を得た。 それで、こうしてこのミネルバを守ることもできた。 けれど、目の前にいるアスランたち「ヤキン・ドゥーエ」の英雄達は、そんなシン達の実力の何倍もの力を持っている。 ないもの強請りなのはわかっているけれど。 自分もそんな力がほしい。 「シンも守ったじゃないか。オーブを出る際に、地球軍からミネルバを守ったのはシンだと聞いた」 「それは・・・そうだけど」 なんとなく納得していないようなシンの髪をくしゃくしゃとかき乱して、アスランは笑った。 「シンは多分、今の気持ちが一番正しいんだと思うぞ」 「え?」 「シンは、このミネルバを守りたかったんだろう?」 コクリ、とシンがうなづく。 「その気持ちが大切なんだと、俺は思う。みんな何かを守りたくて生きている、戦っている。人の強さの大きさっていうのは、結局はその気持ちの大きさだ。その気持ちが大きいだけ、人は強くなれる」 「俺も、俺も強くなれる?」 「もちろん。シンが誰かを守りたいと、そう思い続ければ。自分が強いと過信すれば、人はかならず過ちを起こす」 だから、シンのその気持ちが一番正しいのだと。 そう言って笑ってくれるアスランを見て、やはり適わない、とシンは思った。 たった二つしか違わないのに、アスランはこんなにも大人だ。 それにくらべ、小さなことしか考えられない自分。 「急ぐことはないよ。ゆっくり、しっかり進めばいい」 「・・・・・・うん」
「で、あなたは議長に言われてこのミネルバに来たのか?」 「まぁね。でも、もしミネルバ以外に配置されるならフェイスの力使ってミネルバに来たけど」 「は?」 「俺はね、シンの側がよかったんだ」 まだ寝ぼけたことを言っているのかと思い、もう一度頬に伸ばした手を今度はしっかりと掴まれた。 「戦いを見つめるのなら、シンの横がよかったんだ」 「戦いを、見つめる?」 「戦争には、確固たる理由がある。人々の意思が、想いがある。俺は前の大戦で何度も人の想いに触れた。恐らく今度の戦いもそういった人の想いにはたくさん触れる。そのときにはシンに隣にいてほしかったんだ」 「俺?」 「そう。シンに、隣で俺と同じことを感じて、考えてほしいと思った」 「そんな難しいこと、俺にはわかんねぇよ」 「わからなくていいんだ。俺だってわからない。でも、俺は前の大戦で何度か道を誤りそうになった。・・・・・・・大切な親友を、殺した」 「!?」 驚くシンをよそに、アスランはただ淡々と続けた。 「あいつは生きていてくれたけれど、俺はまた同じことを繰り返してしまうかもしれない。だから、またそんなことにならないように、シンに隣に居てほしかったんだ」 それきり、アスランの言葉は途切れた。 しばしの沈黙が、二人の間に流れる。
最初に言葉を発したのは、シンの方だった。
「しかたないな」 「シン?」 シンはアスランの片手をとって、それを抱きしめるように自分の胸に押し当てた。 「しかたないから、一緒にいてやるよ。あんたの、隣にね」 「・・・・・ありがとう」 アスランはシンの肩を抱くと、その体をもう一度引き寄せた。
「ずっと、一緒にいような」 「・・・・離れるなよ?」 「離れないよ」
この命が続く限り。
離れない。
<あとがき> 中途半端っぽいですけど、書きたいことはとりあえず書き終わったって感じです。 |