どのくらいそうしていただろうか。

何もせずただ抱き合い、二人の体温を感じている。

その時間を終わらせたのは、一つの通信だった。

「アスラン、起きているのか?」

突然聞こえてきた声に、シンの体がびくっと震えるのがアスランには分かった。

それを安心させるように背中を撫でると、アスランはシンから離れて通信のスイッチを入れた。

「カガリ、どうした?」

「どうしたって、朝食にも来ないで何をやってるんだ?」

「ちょっと寝過ごしただけだ。それよりも、何かあったのか?」

「いや、ちょっと気になっただけだ。それより、グラディス艦長の所に行く」

「わかった。しばらく待ってくれ」

「部屋にいるからな」

「ああ」

そのまま通信をきろうとしたが、ふと気付いたようにカガリがアスランに尋ねた。

「アスラン、シンの居所を知っているか?」

「・・・・・・なぜ?」

「ルナマリアやレイたちが探していた。昨日から姿が見えないらしい」

「・・・知らないな」

「そうか」

通信を切ってシンの方を振り向くと、シンは不安そうな顔でアスランを見ていた。

「どうしよう・・・、俺、昨日誰にも言わずにここに来たから・・・」

「まぁ、いきなりだったしね。しかたないよ」

「わかってる。けど・・・・」

「一度戻った方がいいな。俺もこれからカガリのところに行かなくちゃならないし」

「・・・・・そうするよ」

そういいながらも、シンは動こうとはせずに不安げなまなざしでアスランを見上げた。

その不安を払拭させるように、アスランはにっこりと微笑んだ。

「大丈夫。俺の気持ち、そう簡単には変えられないよ」

「・・うん・・・」

もう一度アスランからキスをもらって、シンは部屋を出た。

触れられた頬が、体が、熱い。

先程間で触れていた唇に手が伸びる。

そこにはまだ彼の温かさが残っていた。






















一度部屋に戻ったシンだったが、そこにレイの姿は無かった。

おそらくすでに朝食を取りに行ってしまったのだろう。レイのことだから無関心な振りをしながら心配してくれているかもしれない。

早く顔を見せないとルナマリアたちもうるさいだろうし・・・。

シンは軽く着替えだけ済ませるとそのまま食堂へと足を進めた。






「あ、シン!こっちよ!」

「叫ばなくてもわかるよ、それぐらい」

それほど広い場所ではないのだから。

食事の席には予想通りレイとルナマリア、それにメイリンが座っていた。

「ちょっとシン!あんた昨日から一体どこに行ってたのよ!散々探したんだから」

「インパルスのプログラムいじってただけだよ。ちょっと時間かかって部屋に戻るの面倒だったからそのままコックピットで寝ちゃったけど」

当然のように用意していた嘘をつぶやく。

一晩姿を見せなかった言い訳というのがこれぐらいしか思い浮かばなかったからだ。

「だったら一言ぐらいいいなさいよ。レイだって昨日遅くまであんたのこと探してたのよ?」

「余計なことは言わなくていい」

ルナマリアの言葉をさえぎるようにレイはただ一言、そう告げた。

やっぱり、レイには一番心配を掛けてしまったそうだ。

「ごめん、レイ・・・」

「謝らなくていい。・・・・少しはすっきりしたのか?」

「?うん」

「ならいい」

レイの質問の意味がわからなくて首を捻っていると、途端ルナマリアが嬉しそうな顔で立ちあがった。







「アスランさん!」






その名前にびくっと体が震えるのがわかる。

ゆっくりと振り向くと、入り口には先程分かれたばかりのアスランとその横に当然のような顔をして寄り添っているカガリの姿があった。

「おはようございます!」

「おはよう。朝から元気だな」

大声で自分を呼ぶルナマリアに苦笑しながらもアスランとカガリは席に近づいてきた。

「今から朝食ですか?よろしければご一緒しません?」

「俺はいいけど・・・。カガリ、かまわないか?」

「私もいいぞ。・・・・そっちがいいのならな・・」

ちらっとカガリがシンを見るが、シンは完全にカガリを無視して黙々と食事を続けていた。

「かまいませんよ!こちらへどうぞ」

ルナマリアが一つ椅子を引く。

実際今ついているテーブルの空いている席はルナマリアの横とシンの横のみ。

険悪な二人を隣に座らせるわけにはいかないので、ルナマリアが引いてくれた椅子にカガリを座らせ、アスラン自身はシンの横へと移動した。

その後しばらく食事を取りながらたわいもない話を続けていく。

主にルナマリアやメイリンがアスランとカガリを質問攻めにして、しつこくなりすぎるようならレイが諌めるという場面が続いた。

ただシンだけが一言も口を利くことも無く、ただ黙って食後のコーヒーを口にしていた。

「そういえばもうすぐですよね、オーブに到着するのって」

ぴくっ、とシンの手が震える。

シンの両隣にいたレイとアスランはそれに気付いたのだが、あえて黙っている。

「オーブでも今回の被害は相当なのでしょう?」

シンの様子に気付いていないルナマリアはカガリに向かって訪ねていた。

「無傷、というわけにはいかないだろう。詳しくはオーブに戻ってみないとわからない。先程タリア艦長にお話を伺ってみたところあと数時間でオーブに着くらしい」






あと、数時間・・・・。






オーブに、着く。






ガタンっ。

シンは大きな音を立てて立ちあがった。

「シン?」

「どうした?」

いきなり立ちあがったシンに驚いたようにルナマリアとレイがシンを見上げる。

「先、部屋に戻るから」

「ちょっと、シン!?」

ただそれだけいうと、シンは誰の声にも振り返ることなくその場を去った。




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