散々悩んだ。

これ以上踏み込んでしまったら・・・。

もし、彼の想いと自分の想いが違っていたら・・・。

そう想うと、あと1歩がどうしても踏み出せなかった。

でも、そんな自分の意思を無視するかのように、気付いたらアスランの部屋の前に立っていた。




まだ、答えはでてないのに・・・・。




「声、かけてくれたらいいのに」

いきなり開いた扉の向こうには、当然のごとくアスランがいた。

「あの、俺・・・」

「来てくれて、嬉しいよ」

そういって微笑まれると、どうしようもなく胸が苦しくなる。





知りたい。けど、知りたくない。

アスランの気持ちを・・・・自分の気持ちを。





「シン」

アスランは無理矢理部屋に引き入れるようなことはしなった。

ただ、シンに向かってゆっくりと手を差し伸べた。



アスランは部屋の中。

シンは部屋の外。



選ぶのは、シン自身。






困ったような、泣きそうな顔で何度もアスランの顔と手を見つめるシンに思わず苦笑してしまう。

どうしていいのかわからないという様子は、まるで道に迷った迷子のよう。

それでも、アスランはこれ以上は動かない。

動いてはいけない。



不安なまなざしを向けられて、アスランはその不安を少しでも取り除けるように微笑む。

その表情に、思わずシンの心臓が高鳴る。

うつむいて自分の手の平をじっと見つめた後、ゆっくりとアスランのそれに重ねる。



温かなぬくもりが、シンの、アスランの手に広がる。

アスランはその手を引いてシンを部屋の中に入れ、扉と鍵を閉めた。

引っ張った勢いのまま、シンを腕の中に閉じ込める。



「覚悟は、いい?」



そう尋ねれば、シンは驚いたように目を見開く。

おもわず離れようとするが、それをアスランは許さない。

「不安?」

「・・・・・・・」

シンは少し考えた後、首を横に振る。

「じゃ、怖い?」

少しためらってから、シンはうなづいた。





怖い。

自分がおかしくなってしまいそうで。

今まで知っている自分というものが、すべて崩れてしまいそうで・・・・。





アスランはそんなシンの背中をゆっくりと叩くと、シンの体を離しベッドへと座らせた。

「シンはストレートよりもミルクかな?」

「あ、はい」

「用意するから、ちょっとまって」

アスランはシンを待たせて簡易キッチンに姿を消した。

シンは知らずつめていた息を吐き出す。

緊張しすぎているためか、膝の上の両手が震えている。

それを認めたくなくて、ぎゅっと握り締めた。

シンはそのまま座っていたベッドにぽすん、と体を倒す。





あ・・・・・





そこにはかすかにぬくもりが残っていて。

まるで、アスランの腕の中に居るように錯覚してしまう。




気持ちいい・・・。




その心地よさに思わず眠ってしまいそうになる。

今日一日のハードスケジュールに、体は限界を訴えているようだ。

しかし、こちらに近づいてくる足音に反応すると、シンはすばやく体を起こした。

「お待たせ。熱いから気をつけてね」

「ありがとうございます」

アスランはにっこりと微笑むと、真の横に腰を下ろした。

何かされるかもしれない、と身を固くしたシンだったが、思いに反してアスランは何もしてこなかった。

ただシンの隣に座っているだけ。

本当にただそれだけなのに。

シンの鼓動は高まる一方だった。






なんで、何もしてこないのかな・・・。






シンは隣のアスランを見る。



綺麗な人・・・。



コーディネーターだから当たり前なのかもしれないが。

それでも、アスランはシンが知っているコーディネーターの中でも整った容姿の持ち主だ。

「どうかした?」

シンの視線に気付いたアスランが尋ねると、シンはぱっと視線をそらした。

そんなシンを見て、アスランは苦笑する。

シンがこの部屋に来てがちがちに緊張してしまうのは分かる。

だが、今のアスランは今すぐシンをどうこうしようというつもりはまったくなかった。

ただ、今シンが隣に居る。

その事実だけが、純粋に嬉しかった。




「あ、あのっ」

「ん?」

「あの・・・・えっと・・・」

アスランはあせらず、じっとシンの言葉を待った。

「あの・・・、どうして、なんですか?」

「どうしてって、何が?」

「何で俺に・・・・」

「キスしたか?」

詰まる言葉の先をいうと、シンは顔を真っ赤に染めて、それでもうなづいた。

「そうだなぁ・・・」

アスランは何かを考えるようなしぐさを見せる。

シンはそれをじっと見つめて、答えを待った。





「最初にキスしたときね・・・。あれ、何も考えていなかったって言ったら・・・」




怒る?




そう言って笑うアスランに、シンは言葉をなくす。

何も考えていなかった?

じゃあ、この人は俺のことなんとも想ってないのに、抱きしめたの?キス、したの?








彼は、自覚しているのだろうか。

アスランの言葉を聞いて、今にも泣きそうな顔をしていることに。





「きっかけはね、この瞳だったんだ」

「ひと・・・・み?」

「そう。わけもわからず、惹かれた。気がついたら、キスしてた」

「・・・・・・・」

「それから君が俺を避けるようになった。当たり前だってわかってたけど、すごくさびしかったし、悲しかった。そしていつからか、君をこんなにも追い求めるようになった」

アスランの手がシンの頬に触れると、シンは思わず体を震わせた。

ぎゅっと反射的に目を瞑ってしまったが、頬に触れる優しいぬくもりにそろそろと目を開くと、目の前には真剣な瞳で自分を見つめるアスランの顔があった。

「だから、艦長から君たちを見てくれって言われたとき、もしかしたらシンに会えるか持って思ったんだ。だから、引き受けた」

「そう・・・なの?」

「避けられてもいい、一目だけでも会いたかった」

「アスランさ・・・」

「でも、ダメだね。君を見て、触れたら・・・どうしようもなくて。自分の気持ちを抑えられなくて・・・。気がついたら、また・・・」

じっと見つめてくるアスランの顔が序所に近づいてきた。

気がつけば、キスを待つかのように目を閉じている自分に気付いた。

期待は裏切られることなく、シンの唇へと降りてくる。

「ん・・・・」

「キスをしたくなったんだ」

少し唇を離してそうささやくと、アスランは再び自分の唇をシンのそれに触れさせた。

ついばむように触れたそれが、だんだん深いものに変わっていく。

シンは抱きしめられているアスランの腕の中の心地よさに、体の力を抜いてアスランに身を任せた。







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