「ごめん」

「え?」

謝るアスランの声に、うつむいていた顔を上げる。

「いやだよな、男にキスされるなんて。わかっていたはずなんだけど・・・」

自分を抑えることができなかったと、アスランは言う。






わからない・・・。






シンは分からなかった。

アスランとのキスが嫌だったのかと聞かれれば、すぐに否と認める自分がいる。

触れられたところから広がる熱すぎるそれが怖くて、触れてほしくない。

けれど、その熱はとても心地よくて、もっと触れていてほしい。

相反する気持ちがシンの胸に渦巻く。

「でも、安心してくれ。もう君には触れないから。・・・なんて、今の俺が言っても信じてもらえないか」

もう一度ごめんと謝って、アスランは訓練室を出て行こうとした。





行ってしまう・・・っ。





そう思った瞬間、気がついたら・・・





「シン?」

アスランの手を取っていた。

驚いた表情で振り向いたアスランだったが、その行動に誰よりも驚いていたのはほかならぬシンだった。

アスランが行ってしまう。

そう考えたら、気がついたらその手を取って引き止めていた。

「・・・・さっきね、ルナマリアから今日のお礼だってお茶とお菓子をもらったんだ」

何をいきなり言い出すんだろう、この人は・・・。

わからない、という表情のシンに微笑んで。

アスランはシンが握っている手を取ると、その手に軽く口付けた。

「あ・・・」

「よかったら、今日の予定がすべて終わった後にでもおいで」

微笑みながらそういう。

その表情があまりに綺麗で、我知らず顔を赤らめる。

「でも、あなたの部屋には・・・」

「カガリならいないよ。彼女とは別の部屋だから」

「え?」

考えを見通されたのも驚いたが、なぜアスランはそんなことを言うのだろうか。

それを考えて、はっと答えが浮かんだ。




つまり、今からシンにおいでと言っている部屋には・・・・アスランしかいないのだ。




「部屋に来るかどうかは、君が決めたらいい。でもね・・・」

触れた指先に力がこもる。

「よく考えて、部屋に来て。多分、もう一度君と二人きりになったら、俺は自分を抑えられない」

いいね、と年を押すようにシンの目を見て言うと、アスランは今度こそこの部屋から出て行った。



閉じられていく扉をじっと見つめた。

いまだにゆれている心。

アスランのところに行くかどうかは、シン次第。

でも、アスランに触れられた部分が、まだ熱を持ったように熱くて、ドキドキが一向に収まってくれない。

アスランが最後にふれた手をシンはぎゅっと握り締めた。

























彼は来てくれるだろうか・・・・。

アスランは部屋の明かりをつけることもなく、部屋のベッドに沈んでいた。

アスランにとっても、シンのような存在は初めてだった。

誰に対しても深く入り込む事はせず、また誰にも自分の中に深く踏み込ませることはなかった。



なのに、ああも自分を抑えられないなんて・・・。



初めて彼に触れたあと、自分の行動に驚いたもののシンに触れた喜びがアスランの心を満たした。

それからシンに意図的に避けられているのは分かっていた。

だからこそ、普段は引き受けないような艦長の頼みも受けたのだ。





シンに会いたい。

話がしたい。

・・・・触れたい。

ただ、それだけのために。





1度訓練室に来たときすぐに出て行ってしまったのは、多分自分が原因だろうことも予想はついた。

それでも、もう一度彼に会いたい。

彼と話がしたい。

その自分の思いを抑えられず、あの場所でシンを待った。

シンがもう一度来るなどという確信はなかったのに。






だけど、彼は来てくれた。

見てすぐに、彼が自分に怯えているのが分かった。

だからこそ、自分の想いを隠して彼に接していたのに。

少しでも触れたら、その腕の中の存在は小さくて、でもとても強いと感じた。

だからこそ、とても愛しくて。

正面からまなざしを受け止めて、なんとか抑えていた自分の理性はあっという間に崩れた。






何度も、何度もキスをした。







もし、シンが来てくれなかったら、この思いも届かないのだろうか・・・・。









そう考えていた頃、ふと扉の向こうに人の気配を感じた。

それが誰か分かると、我知らず頬が緩まるのが分かる。






来て・・・・くれた・・・・・。






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