訓練室を飛び出してから一時間後。

シンは再びこの場所へと戻ってきた。

あれからずいぶん時間がたっているから、もう誰もいないだろうと踏んでのことだった。

あの場所にいたくない、あの光景を見ていたくないと思っても、規定を破るわけにはいかない。




なのに・・・・




「なんで・・・・」






部屋の中にいた人物に、シンはおもわずつぶやく。




「やっと来たね」




部屋の中には、アスランがいた。

恐らくは艦長にかりただろう、銃を持って。

彼の正面にはまだ修正されていない標的板があったが、それのどれもが中心を射抜いていた。



「言っただろう?艦長に頼まれたって。君だけ見ないわけにもいかないんだ」



だから待っていたと、アスランは言う。



頼まれたから、待っていただけ。

自分だから、シンだから待っていてくれたわけではないのだ、アスランは。












そう考えてはっとする。

アスランの言葉に落胆している自分に驚きを隠せない。

どうして、こんなにも心が苦しい?

「さて、さっそく取り掛かろうか。構えて」

「はい」



その動揺を隠したくて、シンは言われるままに銃を構えた。


















「う〜ん、いつもより命中率悪いな。調子悪いのか?」

「いえ・・・」

心の動揺は正直に現れた。

中心に命中したのはいつもの半分以下。

その結果に、思わず自分でも情けなくなる。

これでも、軍人とい、エースパイロットだと名乗れるのだろうか。

「まぁ、こういうものは時には波があるものだから」

気にすることはないと、そう言って笑ってくれる。

彼の手元にはシンのデータが載っている何枚かの資料がある。

それを見れば今日のシンの結果が散々だということはわかるはずなのに。

なんとなくアスランの顔を見るのが嫌で、うつむく。






なんで、こんなに平然として・・・。

落ち着かない自分が、バカみたいだ・・・。






「うん、大体わかった。構えて」

「はい」

素直に銃を構えると、その構えた腕と背中にぬくもりを感じる。

「っ!?」

「標的から目を離すな」

驚いて振り向いたけど、アスランは真剣な顔で正面にある標的を見据えた。






後ろから抱き込まれて、ふと気付く。

二つしか違わないのに。

そのはずなのに、なんでこんなにも大きいんだろう、この人の腕の中は。

「このまま支えているから。中心をよく狙って、落ちついて」

「はい」

内心、落ち着けるわけがないと思いつつ、シンは引き金を引いた。









結果。

シンはほぼ完璧な成績を打ち出した。

支えがあるのとないことで、これほどまでに違うとは。

「うん、いい感じだ。この調子なら俺が支えていなくてももっと腕を上げることができるよ」

抱き込まれたままなのでアスランの吐息を感じる。

耳元でささやかれるように言われる言葉に、ぞくぞくとした感覚が走る。

「あ、ありがとうございました」

「ああ」

「・・・・あの」

「ん?」

「腕・・・放してください・・・」

きっと自分の今の顔は真っ赤だろうと、シンは思う。

だって、アスランに触れられている腕が、背中が、こんなにも熱い。

今にも解けてしまうのではないかと思うぐらいに。

「ああ、そう・・・だね」

アスランが少しだけ言いよどむ。

それが不思議で、自分から離れようとした瞬間に体の向きがいきなり変わって。




気がついたら・・・








アスランに、再び唇を奪われていた。








どのくらいそうしていただろうか。

シンが我に返ったのは、ゆっくりと唇が離されアスランの胸に抱きしめられてからだった。

「な、何を・・・」

「会いたかった」

「・・・え?」

アスランの腕に力が込められる。

「君に、シンに会いたかった・・・。触れたかった」

愛しそうに耳元でささやかれて、体中の力が抜けていくのを感じる。

カランと音を立てて手から銃がすべり落ちた。

与えあられる温かなぬくもりにほっとするような安心感を感じる反面、心臓はドキドキと音を立てている。




このままじゃ、どうにかなってしまうっ




「や、離し・・・・」

「シン」

わずかな抵抗も、アスランに名前を呼ばれた途端に意味のないものに変わる。

体がいうことを聞かない。

アスランに抱きしめられたまま、どうしていいかわからない。



「シン」



アスランの手がシンの頬に触れて、促されるままに顔を上げた。




・・・・・視線が、絡む。




「アスラ・・・・」

名前を呼ぶ声は、再びあすらんの唇によってふさがれた。

「ん・・・」

「シン」

キスの合間に、何度も名前を呼ばれる。

愛しそうにつぶやかれるその声に、甘い疼きが胸に広がる。

気がつけば、シンはアスランに体をあずけ、その背中に腕を回してしっかりと抱きついていた。









慣れない長いキスですっかり息が上がったシンは、アスランの胸に体を預けたまま荒い息を整えた。

「大丈夫?」

そう問いかけられ、シンははっと今の自分がどういう状態なのか気がついた。

「・・・・・っ」

アスランに抱きしめられている腕を振り払うと、とっさに距離をとった。




キス・・・したんだ、この人と・・・・。

唇に手を当て、うつむく。

心臓がドキドキと音を立てて、収まってくれない。




「どうした・・・」

「っ触るな!」

伸ばされた手を振り払い、拒絶する。

とっさにとった行動だったが、払われたアスランの表情があまりにも悲しそうで・・・・せつなそうで。

シンは見ることができずに顔を背けた。






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