「なぜなんですか?」

「え?」



久しぶりに来たパイロットスーツから着替え終わったころ、とっくに部屋を出て行ったと思っていたシンがそこに立っていた。


「なぜ、なんですか?」

「なぜって、何が?」

「あなたが、僕に助けろといわなかったことですよ」

「だったら、なんていえばよかったんだ?」

肩をすくめながら苦笑する。
まったく、何がそんなに気に食わないのだろうか。



「あの時、あなたのザクはブースターが無くてあのまま落下していれば海面に激突していた!なのに、なんで助けろって言わなかったんですか!」

「・・・・」


彼の目を正面から見据えれば真紅の瞳がアスランをにらみつけていた。
その瞳に映し出されているのは、果たして悲しみだったのか、怒りだったのか。


「通常、1機分のスラスターでは2機を支えることなんかできない。それが、たとえGANDAMのものであったとしてもな」

「だからって・・・」

「それに、俺一人の勝手な行動のために、君を巻き込むわけには行かないだろう」

「だからって・・死にたいんですか!」





死にたいんですか!




その言葉が、アスランの胸を貫いた。
別に・・・、


「死にたいわけじゃない」

アスランはシンのすぐ側で彼をじっと見つめていた。
その真紅の瞳が驚きに見開かれる。

その瞳が妙にいとしく、気がつけば・・・





「・・・っ!?」




その体を引き寄せ、自分の唇をシンのそれに合わせていた。





どのくらい、そうしていただろうか。

思うままにその唇を味わったアスランは、ゆっくりとシンの体を離した。


「もし、あの時助けを呼ばなかったのは・・・。君を助けるためだって言ったら、君はどうする?」


「/////知りませんっ」



顔を真っ赤に染めたシンはそのまま部屋を出て行ってしまった。

残されたアスランは、先程まで触れ合っていた自分の唇を指でなぞる。

こんな、自分に抑えきれない感情は、初めてだ。



初めてだが・・・悪くは無いな。


そう思い、アスランは人知れず微笑んだ。







最低だ、最低だ、最低だ、最低だ・・・っ


シンはアスランのところから逃げ出すように自分の部屋へと駆け込んだ。
途中誰かに呼び止められたように思うが、そんなことかまってられなかった。


部屋に入って、途端先程まで感じていたぬくもりが全身を包む。

暖かくて、大きい腕。
そして・・・優しくやわらかな感触・・・。

知らず、シンは唇を指でなぞっていた・・。

最低だ、こんなの・・。でも・・・



でも・・・なんで・・・・嫌じゃないんだろう・・・






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