キラはまるで何かを吐き出すかのように話した。

戦争中、つらいことはたくさんあって。

それは、言葉にすることでなおのことキラの心に傷を負わせるような、それほど聞く者にとっても話す者にとっても重く苦しいことだった。

でも、それでもキラはシンに話したかった。

聞いているシンも、キラの話に口を挟むでもなく、ただじっとキラの話を聞いていた。












「戦いが終結して・・、僕の中でも何かが終わったのかな?僕は壊れたフリーダムから外に投げ出されたけど、何も感じなかった。どうして、こうなってしまったんだろうって、そればっかり考えてた・・・。アスランとカガリが迎えに来てくれるまで、僕は動けなかった」










長い、長い話が終わった。

それでも、シンは何も話そうとはしてくれなかった。

それが不安になり、キラはうつむいていた顔を少しだけ上げてシンの表情を覗いた。

そこには何かを真剣に考えこんでいるシンの顔があった。いつもの幼い様子はなく、異様に大人びた表情に、キラは釘付けになってしまった。

「キラ」

「は、はいっ」

いきなり名前を呼ばれて反射的に返事をしたせいなのか、シンが怪訝な表情でキラを見たが別に何も言ってはこなかった。

シンが尋ねたのは、違うこと。

「キラが前の大戦で経験したことはわかった。でも、なんでそれが今回の、あんな苦しみに繋がるんだ?」

「そ、それは・・・・」

「あれ、はっきりいって尋常じゃない。呼吸だって定まってないし、俺が少し居なくなっただけでもあんなに震えてた。それに、アスランさんとジュール隊長は発作だって言ってたはずだ」

「・・・・・医学的には、精神的な発作だって診断された」

「やっぱり戦争のことが原因?」

「・・・・・・・」

本当は、話すのはここまでにしておきたかった。

これ以上話すのは、キラの弱さを全部シンにさらけだすことにも等しくて・・・。

別に、シンに知られるのが嫌なわけじゃない。

でも、シンにすべてを話して・・・・。それをシンがどう受け止めるかなんて、キラにはわからないから。






「『お前が殺したんだ』」

「え?」






キラが発した言葉に、一瞬シンは反応することができなかった。

「戦争が終わった後、僕はアスランたちと一緒にザフトの基地に入った。そこにはアークエンジェルやクサナギ、エターナルのみんなもいて、みんな僕の無事を喜んでくれたんだ。ある人は泣いて、ある人は笑って・・・」

でも・・・。

それでも、キラを快く思わない人は当然いた。




















コーディネーターなのに、地球軍に味方していたというキラのことはすぐにコーディネーターであるザフト軍内に知れ渡ることになった。

でも、そんなことを気にしている余裕は、あのときのキラにはなかった。

ただ喜ぶ仲間に囲まれて、自分と共に戦った仲間とまた無事会うことができて、それがとても嬉しかったから。






「お前が殺したんだ」






ただお互いが無事であったことと、戦争を一時的とはいえ終結に導いたことへの喜びに浸るキラたちの背後から、ポツリと、だがはっきりとした呟きが聞こえてきた。

「え・・・・」

「お前が・・・お前が地球軍になど味方しなければ、仲間は、あいつらは死なずに済んだんだ!」

そこにいたのは一人のザフト兵。

服から察するに、恐らくはジンやザクの整備士だったんだろう。

そんな彼が、キラに向かって憎悪とも呼ぶべき視線を強くぶつけてきた。

「コーディネーターの癖に、なんで地球軍なんかに!おまえさえ、最初から余計なことをしなければこんなことにはならなかった、あいつらは死なずに済んだんだ!」

「ぼ、僕・・・は・・・」

「黙れ!」

ぶつけられる言葉に体を震わせながらそれでも言葉を紡ごうとしたキラの声を、さらにいらだったように声を張り上げてさえぎった。

「結果がよければすべていいなんて、俺は認めない!お前がいたからあいつらは死んだんだ、この・・・・」

「「やめろ!」」












「裏切り者のコーディネーターが!!!」












アスランとカガリの制止の声むなしく、最低の、そしてキラにとっては最悪の言葉を吐き出した。

キラの体がびくっと震えて、目を見開いたまま制止した。

「キラ!」

「キラ、キラ!あんなやつの言葉なんか聞かなくて言い!」

カガリとラクスがキラに必死に話しかけるが、その声はむなしく、キラには届いていなかった。






裏切り者・・・・・







裏切り者のコーディネーター・・・






許されない罪、同じコーディネーターを、人を殺した・・・・






「あ・・・・・・あぁ・・・・・・・・・・・・」

体の震えが止まらない。

足にも手にも力が入らず、そのままガクリと床に手を突いた。



「貴様、キラに向かってよくも・・・」

アスランがそいつに殴りかかろうとしたその瞬間、アスランとその兵士との間にイザークが立ちはだかる。

「イザーク、どけよ」

あまりにも理不尽な言葉に頭にきていたアスランは、普段の冷静さを失いイザークを押しのけようと肩に手を置いた。

だがイザークはそれを片手で制し、そのままその兵士に向かって一歩ずつ近づいた。

「じゅ、ジュール隊長・・・」

相手が自分のよく知る赤であり、つい先日とはいえ異例の速さで隊長にまで上り詰めたイザークであることから、いままでの強気な姿勢とは裏腹に途端逃げ腰になる。

イザークは手の届く範囲にまで近づくと、いきなりその兵士の胸倉を掴み上げ思いっきり殴り飛ばした。

殴り飛ばす音と何かが折れるような鈍い音がシンと静まりかえった辺りに響く。





「言葉だけなら、簡単だ。だがそれを実行するのはとても難しい。戦争を止めたのは誰でもない、あいつの力と心の優しさがあったからだ。それがわからないお前に、あいつをなじる権利があると思うな」





「イザーク・・・・」

まさかあのイザークがそんなことをするとは思わなくて驚いた。

キラを、ストライクのパイロットをああまでも心底憎んでいたのに。

「何をしている、アスラン。早くそいつを部屋に連れて行って休ませろ。・・・・・・ここはそいつにとって休める場所じゃない」

「わ、わかった」

震えの止まらないキラの体を抱き上げて、アスランは格納庫から出て行った。











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